新陳代謝を促す甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患で、心拍の増加や血圧上昇、痩せ、大量の発汗といった症状が出る。最も多いのが、甲状腺が腫れるなどするバセドー病。患者は男性より女性に多いとされる。
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甲状腺から甲状腺ホルモンが多量に分泌され、全身の代謝が高まる病気です。しばしば甲状腺機能亢進症とバセドウ病は同じ意味に使われていますが、厳密には違います。
バセドウ病以外にも無痛性(むつうせい)甲状腺炎、亜急性(あきゅうせい)甲状腺炎、
バセドウ病とは、この病気を報告したドイツの医師の名前に由来するもので、米国や英国では別の医師の名前をとってグレーブス病と呼んでいます。
血液中にTSHレセプター抗体(TRAb)ができることが原因です。この抗体は、甲状腺の機能を調節している甲状腺刺激ホルモン(TSH)というホルモンの情報の受け手であるTSHレセプターに対する抗体です。これが甲状腺を無制限に刺激するので、甲状腺ホルモンが過剰につくられて機能亢進症が起こります。
このTRAbができる原因はまだ詳細にはわかっていませんが、甲状腺の病気は家族に同じ病気の人が多いことでもわかるように、遺伝的素因が関係しています。
甲状腺ホルモンが過剰になると全身の代謝が亢進するので、食欲が出てよく食べるのに体重が減り(高齢になると体重減少だけ)、暑がりになり、全身に汗をかくようになります。
精神的には興奮して活発になるわりにまとまりがなく、疲れやすくなり、
バセドウ病では眼球が突出するとよくいわれますが、実際には5人に1人くらいです。
甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモン(遊離チロキシン:FT4)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定することで、診断できます。
さらにバセドウ病であることを確認するには、原因物質であるTSHレセプター抗体(TRAb)を測定します。まれにこの抗体が陰性のことがあり、無痛性甲状腺炎と区別したい時は放射性ヨード摂取率を測定します。眼球突出などバセドウ病眼症の診断のためには、
抗甲状腺薬治療、手術、アイソトープ治療の3種類がありますが、通常、抗甲状腺薬治療をまず行います。
抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)は甲状腺ホルモンの合成を抑える薬です。この薬で合成を抑えると、4週間くらいで甲状腺ホルモンが下がり始め、2カ月もすると正常になって、自覚症状はなくなり、完全に治ったようになります。しかし、原因のTRAbが消えるのは2~3年後なので、TRAbが陽性の間は抗甲状腺薬をのみ続ける必要があります。
いつまでもTRAbが陰性にならない時は、甲状腺を一部残して切除する甲状腺
バセドウ病は女性では100人に1人の頻度でみられる病気で、決してまれなものではありません。自覚症状がなくなっても治ったわけではなく、いつ薬をやめるか、薬物治療以外の治療に切り替えるかなど難しい点もあるので、できれば甲状腺専門医と相談しながら治療することをすすめます。
バセドウ病を見つける簡単なチェックリストを示しておきます(表2)。これでバセドウ病の可能性があるという結果になった人は、かかりつけ医あるいは内分泌・代謝科のある病院でFT4、TSH、TRAbを測定してもらいます。
阿部 好文
甲状腺に慢性的に炎症が生じ、甲状腺ホルモンの過剰な生成を生じるもので、20~30代の女性に最も頻度が高い病気ですが、思春期の女子および男子にもみられます。
甲状腺の甲状腺刺激ホルモン(TSH)レセプターに対する自己抗体(TRAb)がつくられ、TRAbによって甲状腺ホルモンの過剰な生成が起こります。自己免疫反応が病気の原因です。遺伝因子や環境因子が関係します。
甲状腺機能亢進症の症状は、多汗、
また、バセドウ病をもつ女性が妊娠した場合、妊娠後期に母体の甲状腺機能が低下すると、出産後の子が甲状腺機能低下症に陥ることがあります。また、母体のTRAbが50%以上の高値の場合、新生児に一過性に甲状腺機能亢進症(新生児バセドウ病)が発症します。
血中TSH、遊離トリヨードサイロニン(FT3)、遊離サイロキシン(FT4)を調べます。TSHは低下し、FT3、FT4が上昇します。TRAb陽性、甲状腺刺激抗体(TSAb)陽性であれば診断がつきます。マイクロゾームテストやサイロイドテストも高頻度で陽性です。甲状腺腫大の有無は、視診と超音波検査によって行います。
小児では内服薬が第一選択です。抗甲状腺ホルモン剤のチアマゾール(メルカゾール)の内服を長期的(2~3年以上)に行います。発疹、発熱、肝障害、
花粉症のある例では、春先に花粉症の悪化とともに再発しやすいという報告があります。
内分泌疾患の専門外来をもつ小児科を受診します。
杉原 茂孝
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
食生活においては、消費されたエネルギーを補うために、1日あたり体重1kgに対し35~40kcalを目安に、高たんぱく質・高ビタミンの食品を十分にとる必要があります。肉類、魚介類、とうふ、牛乳やたまごなどでたんぱく質を、ニンジンやホウレンソウ、ピーマンなどの緑黄色野菜を中心にビタミンを補給しましょう。
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
甲状腺からホルモンが過剰に分泌されるためにおこる疾患である。甲状腺がほぼ一様に腫(は)れて眼球が突出してくるバセドウ病や、甲状腺に腺腫(せんしゅ)ができてそこから甲状腺ホルモンが大量に分泌されるためにおこるプランマー病などがある。わが国では99%がバセドウ病であるため、しばしばバセドウ病と同義語的に用いられる。
[鎮目和夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…両眼測定し,2mm以上の左右差がある場合は病的とされる。眼球突出を起こすおもな眼科的疾患としては,種々の眼窩腫瘍,眼窩内炎症,血管性病変等があり,また甲状腺機能亢進症(いわゆるバセドー病)でも起こることがある。その鑑別診断は,従来のレントゲン撮影や生検に加え,近年コンピューター断層撮影(CTスキャン)や超音波診断法の開発によって,以前より容易になってきている。…
…ここでは,これら三つの病気および癌についてはそれぞれの項目にゆずり,その他の甲状腺の種々の異常や病気について述べる。クレチン病甲状腺癌バセドー病
[甲状腺機能亢進症hyperthyroidism]
血中の遊離甲状腺ホルモン濃度が上昇した状態,およびそれによってもたらされる特有の臨床症状または生化学的変化をさす。甲状腺ホルモンにはチロキシン(T4)とトリヨードチロニン(T3)があるが,甲状腺機能亢進症ではその一方または両方の濃度が上昇している。…
…また多くの重要な酵素活性に影響を与え,生体には必須のものである。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると血中のチロキシン濃度(正常では4.5~12.5μg/dlくらいである)が著しく高くなり,バセドー病などの甲状腺機能亢進症の状態になる。すなわち基礎代謝率の増加,体重減少,頻脈,発汗,疲れやすく暑さに弱い,多食,手指の振戦などが起こる。…
※「甲状腺機能亢進症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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