僧帽弁狭窄症(読み)ソウボウベンキョウサクショウ

デジタル大辞泉 「僧帽弁狭窄症」の意味・読み・例文・類語

そうぼうべん‐きょうさくしょう〔‐ケフサクシヤウ〕【僧帽弁狭×窄症】

心臓弁膜症の一。僧帽弁口が狭くなり、左心房が収縮するときに、左心房から左心室へ血液が十分に送り出されなくなる疾患。左心房に血液がたまり、心房細動を起こしたり、血栓ができやすくなる。また、肺から左心房に血液が流れにくくなるため、肺が鬱血うっけつ肺水腫を起こすことがある。初期には息切れ・手足の冷えなどの自覚症状があり、重症になると心不全脳梗塞などを発症する。MS(mitral stenosis)。

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内科学 第10版 「僧帽弁狭窄症」の解説

僧帽弁狭窄症(後天性弁膜症)

概念
 僧帽弁狭窄症は僧帽弁の弁口の狭小化により左房から左室への血液流入が障害される病態を指す.僧帽弁自体のみならず弁輪,腱索,乳頭筋を含めたmitral complex(僧帽弁複合体)の器質・機能的異常により生じ,血行動態的には左房圧,肺静脈圧の上昇,さらには肺動脈圧上昇(肺高血圧)をきたす.
病因
 本症の原因はほとんどがリウマチ熱によるもの(リウマチ性)であり,そのため近年の新規発症はまれである.そのほか先天性,カルチノイド全身性エリテマトーデス,関節リウマチ,Hunter-Hurley症候群,Fabry病,Whipple症候群などの合併症として生じることもある.リウマチ性の僧帽弁狭窄症に心房中隔欠損を合併したものをLutembacher症候群とよび,通常の心房中隔欠損に比して大量の左房血が右房へシャントする.
病態生理
 僧帽弁狭窄に伴い左房圧,肺静脈圧の上昇をきたし,肺うっ血による左心不全症状が出現する.また左室への流入が障害されているために心拍出量が抑制されていることも臨床症状の原因となる.左房は拡大し高頻度に心房細動を伴う.左房内に血栓形成をきたすことも少なくない.僧帽弁弁口面積は正常では4~6 cm2とされているが,僧帽弁狭窄があっても弁口面積が2 cm2までは無症状であることが多く,それ以下になると労作性呼吸困難が生じる.1 cm2未満の高度狭窄では安静時においても左房-左室間圧較差は20 mmHgをこえ,心拍出量の低下も伴い安静・軽労作でも心不全症状を認める.肺高血圧による右心系の負荷は三尖弁閉鎖不全を生じ,下腿浮腫,肝腫大,消化器症状(腸管浮腫)などの右心不全症状を引き起こす.高度僧帽弁狭窄においては肺静脈-気管支静脈間にシャントが形成されると,高い肺静脈圧のために喀血を生じることがある(図5-10-1).
病理
 主たる原因はリウマチ熱である.連鎖球菌感染後,自己免疫機序により僧帽弁弁膜の浮腫,肥厚を生じ,その治癒過程において交連部,弁尖,腱索などの弁下組織の肥厚,癒合,短縮をきたす.僧帽弁単独のことは少なく大動脈弁などのほかの弁にも病変を認めることが多い.狭窄した僧帽弁は漏斗状となりその弁口はfish mouth(魚の口)様と表現されることがある.
臨床症状
 左房圧の上昇とそれによる肺うっ血により症状を呈する.軽症例・若年例では無症状の場合が多いが,進行するにつれて労作性の呼吸困難,動悸,息切れを認める.さらに進行すれば安静時呼吸困難をきたし咳や喀血,胸痛を伴うこともある.肺動脈圧の上昇,さらに三尖弁閉鎖不全を伴うと右心不全を生じ下腿浮腫・肝腫大なども認められる.僧帽弁狭窄と併発する心房細動による左房,特に左心耳内の血栓形成は全身性の塞栓症を生じ,特に脳塞栓を生じた場合には大きな脳梗塞となり予後不良である.
身体所見
 左側臥位では心尖部に拡張期振戦を触知する.聴診所見としてはI音の亢進とQ-I時間の延長が認められる.肺高血圧を反映しⅡ音の肺動脈成分の亢進も認められることがある.拡張期には硬化した僧帽弁が開く際の僧帽弁解放音(opening snap:OS)に引き続き,遠方で雷が“ゴロゴロ”鳴るような雑音,心尖部拡張期左室充満音(diastolic rumbling murmur)が聴取される.その後,洞調律であれば心房収縮による前収縮期雑音が聞こえることがある.加えて,相対的な肺動脈弁閉鎖不全によるとされる肺動脈弁口部の拡張期雑音(Graham Steell雑音),三尖弁閉鎖不全による全収縮期雑音が聴取されることもあり,心雑音所見は非常に多彩である(図5-10-2).
 身体所見としては低心拍出,全身の血管収縮に起因する僧帽弁顔貌(頬部,口唇の紅潮)を呈することがある.右心不全を生じれば肝腫大,頸静脈怒張,顔面・下腿浮腫,腹水貯留,黄疸を伴う.
検査成績
1)胸部X線:
正面像では左房の拡大による右第2弓内側の二重輪郭像(double contour),気管支分岐角の開大・左気管支幹の上方変位や左心耳の拡大による左第3弓の直線化,突出が認められる.肺うっ血,肺血管陰影の増大を伴うことも多い.なお側面では左房が後方へ大きく拡大しわかりやすい(図5-10-3).
2)心電図:
洞調律が維持されていれば左房負荷所見としてV1のP波は二相性となり,陰性部分は深く持続が長くなる(図5-10-4A).またⅡ誘導のP波の幅は広く(0.12秒以上)持続し,いわゆる僧帽性P波を呈する.しかし大半の症例は心房細動となっていることが多い(図5-10-4B).また心室の起電力を反映するQRSはV1
誘導で低電位のことが多い.
3)心エコー図:
診断,重症度評価は臨床現場ではエコーでなされる.傍胸骨断層心エコー図では僧帽弁弁尖の肥厚,輝度上昇,石灰化,解放制限,前尖の拡張期ドーミングを認める.僧帽弁狭窄の場合にはmitral complex(全体の障害)があり,弁下組織である腱索,乳頭筋の輝度も上昇し,癒着,短縮,石灰化を伴うことが多い.左房,左心耳は拡大するが左室径は正常であるかむしろ小さめである(図5-10-5A).心房細動例では左房,左心耳に血栓ができやすく,経食道エコーを用いれば左房,左心耳のもやもやエコー,血栓の描出が容易である.左室短軸像では僧帽弁は前交連,後交連の癒合を認め,fish-mouth様を呈する.この断面で弁口をエコー内臓の機能を用いてトレースすることにより僧帽弁弁口面積を求め,僧帽弁狭窄症の重症度を判定することができる(図5-10-5B,表5-10-2)とともに,経皮的バルーン僧帽弁切開術(井上バルーン)に適しているかどうか評価可能である(その際には僧帽弁閉鎖不全の程度を把握しておくことも重要である).Mモードエコーでは僧帽弁前尖の拡張期後退速度EFスロープの低下,輝度が上昇し,肥厚した僧帽弁前尖・後尖が拡張期に平行運動する所見を認める.心尖部からのアプローチでは狭い弁口を抜けて左室へ比較的速い流速で血液が流入する像が描出されるとともに,その流入波形を連続波ドプラ法にて記録し,最大血流速度が1/2の平方根となるまでの時間(これが左房・左室間の圧較差が半分になる時間に相当)PHT (pressure half time)(msec)を計測すれば,弁口面積は220/PHTcm2と計算される(図5-10-5C).
4)心臓カテーテル検査:
左房圧上昇,拡張期の左房-左室圧較差が存在する.それを示すためにSwan-Ganzカテーテルを肺動脈に楔入させ,左房圧の代用として肺動脈楔入圧を測定,同時に左心室にピッグテールカテーテルを挿入して同時圧測定を行うことで左房・左室間の圧較差を証明できる.Gorlinの式により僧帽弁面積が求められる
5)胸部CT,MRI:
僧帽弁石灰化,左房,左心耳内血栓の描出に有用である.最近では冠動脈についても情報が得られることもあり,また外科手術を考慮している場合には術前CT検査が必要である.
診断・鑑別診断
 心エコー図があれば診断確定できる.聴診所見で拡張期ランブルを聴取する疾患としては僧帽弁閉鎖不全での相対的僧帽弁狭窄(Carey Coombs雑音),大動脈弁閉鎖不全症におけるAustin Flint雑音,左房粘液腫による機能的な僧帽弁狭小化,三心房心でのMS様血行動態を呈したもの,などがあがる.いずれも心エコーにて鑑別できる.
合併症
1)心房細動:
高率に左房,左心耳内血栓を形成するため抗凝固療法を要する.
2)末梢動脈塞栓症:
左房,左心耳内血栓が塞栓源となり脳塞栓症,末梢動脈塞栓を起こす.
3)感染性心内膜炎:
抜歯,分娩,手術などを契機として感染性心内膜炎を起こすことがあるが,比較的頻度は低い.
予後
 僧帽弁狭窄は進行性であり軽度の症状が出現後5~10年で重症化する.無症状の未治療患者の40%が10年以内に症状が悪化するか死に至る.有症状の患者では8割以上,重症の心不全・死亡に至る.死亡原因としては心不全によるものが6割,塞栓症関連が20%を占める.
治療
1)薬物療法:
呼吸困難,起坐呼吸,肝腫大,浮腫など心不全症状があれば利尿薬投与,塩分制限・水分制限を実施する.ジギタリスは洞調律の患者には効果がないが,心房細動の症例においては心室応答(心拍数)をコントロールし拡張期時間延長により左室へのfillingが確保されるため有効と考えられる.心房細動の心拍数調整にはβ遮断薬,徐拍化作用を有するカルシウム拮抗薬も使用される.血栓塞栓症対策は非常に重要であり,特に一過性,持続性心房細動を伴う事例は左房,左心耳血栓による塞栓予防にワルファリン投与を行う.
2)非薬物療法:
経皮的経静脈的僧帽弁交連裂開術(percutaneous transluminal mitral commissuretomy:PTMC):中等度以上の僧帽弁狭窄(1.5 cm2以下)があり,NYHAⅡ度以上の心不全症状かつ弁の可動性が良好であればPTMCの適応となる.僧帽弁の硬さ,可動性などはWilkinsスコアで評価し,8点以下ならばPTMC可能と判断できる(表5-10-3).Ⅲ度以上の僧帽弁逆流や左心房内血栓が存在する事例,ほかに治療を要する弁膜症の存在などがある場合には適応外である(表5-10-4).大腿静脈から下大静脈経由で右心房にカテーテルを進め,ブロッケンブロー法にて心房中隔を穿刺して左房に至り,井上バルーンを僧帽弁に順方向性に挿入して僧帽弁を拡張させる(図5-10-6).
3)外科的治療:
直視下交連切開術(OMC)・弁置換術(MVR)があるが,重度のものは人工弁置換術が実施される.NYHAⅢ度以上の心不全症状,心房細動の出現,弁および弁下部病変が高度な場合やⅢ度以上の僧帽弁逆流を有する場合,左房内血栓が存在する場合に適応となるが,NYHAⅡ度であってもPTMCが考慮されない場合や僧帽弁逆流が多い場合には外科手術適応となる(図5-10-7,表5-10-4,5-10-5).[今井 靖・永井良三]

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六訂版 家庭医学大全科 「僧帽弁狭窄症」の解説

僧帽弁狭窄症
そうぼうべんきょうさくしょう
Mitral valve stenosis
(循環器の病気)

どんな病気か

 僧帽弁が狭窄して十分に開かれなくなるために、左心房から左心室に血液が流れ込みにくくなってしまう病気です。

原因は何か

 ほとんどがリウマチ熱の後遺症として、リウマチ熱に罹患後、少なくとも2年以上かけて発症します。すなわち、慢性的な炎症性の変化により、弁や弁の周囲組織の癒着(ゆちゃく)や肥厚、石灰化が起こって次第に弁口部の狭窄(きょうさく)が生じます。この結果、左心房には血液のうっ滞(たまること)が起こり、左心房が拡張します。

症状の現れ方

 弁口の狭窄が進行し、1.5㎠以下(正常の弁口面積は4~6㎠)になると、動作時の息切れや呼吸困難といった心不全症状が現れやすくなります。これは、弁の狭窄により心拍出量が減ってしまうためだけではなく、左心房での血液のうっ滞のために肺からの血液が心臓にもどりにくくなり、肺動脈圧が上昇すること(肺高血圧(はいこうけつあつ))が大きな要因です。

 さらに狭窄が進行し1.0㎠以下の重症になると、肺のうっ血が起こるようになります。うっ血とは通常より多くの静脈血がうっ滞することで、肺のうっ血が生じると、あお向けになると苦しくて上体を起こしてしまうようになったり(起座呼吸(きざこきゅう))、夜中に突然苦しくなったり(夜間発作性呼吸困難)、喀血(かっけつ)したり、心臓喘息(しんぞうぜんそく)(心不全による喘鳴(ぜんめい))を起こしたりします。さらにこのようなうっ血状態が長く続くと胸水がたまったり、三尖弁閉鎖不全症(さんせんべんへいさふぜんしょう)肝腫大(かんしゅだい)浮腫(ふしゅ)腹水(ふくすい)といった症状も現れるようになります。

 また、以上のような心不全症状は、僧帽弁狭窄症に合併しやすい心房細動(しんぼうさいぼう)という不整脈が起こると、より悪化します。心房細動が慢性化すると、もうひとつの大きな問題として、左心房内、とくに左心耳(さしんじ)という場所に血栓ができやすくなります。この血栓は塞栓症(そくせんしょう)を引き起こし、脳梗塞(のうこうそく)などの原因になります。

検査と診断

 聴診(心音図検査)、心電図、胸部X線検査を行います。心エコー(超音波)は最も重要な検査で、正確な診断だけではなく重症度や合併症の有無を評価できます。経食道心エコー法は左房内血栓の検出に有効です。手術するかどうかの決定には、心臓カテーテル検査が必要になることがあります。

治療の方法

 薬物治療は、心不全症状があれば一般的には利尿薬やジギタリス製剤を用います。心房細動を合併した場合には、まず元の正常な脈(洞調律(どうちょうりつ))にもどすことを試みますが、心房細動が続いたり慢性化した場合には、塞栓症の予防を行います。これにはワルファリンを内服する抗凝固療法が最も有効とされています。

 ワルファリンはPT­INRという血液検査の値が2~3になるように投与量を調整します。ワルファリンを服用している場合には、外傷や食品などに対していくつかの生活上の注意があるため、主治医や薬剤師の説明をよく聞いてください。たとえば、ワルファリン服薬中は納豆を食べてはいけません。また、ワルファリンとアスピリンをよく混同している人がいます。

 薬物治療を行っても心不全症状がある場合、塞栓症の病歴がある場合、弁口面積が小さい場合(一般的には1~1.5㎠以下)には、外科手術(交連切開術または弁置換術)か、カテーテルを用いた交連切開術を行います。カテーテル法は開胸手術に比べれば簡便ですが、すべての人に行えるわけではありませんし、再発の問題もあります。また、行える施設も限られています。

橋本 裕二

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「僧帽弁狭窄症」の解説

そうぼうべんきょうさくしょう【僧帽弁狭窄症 Mitral Stenosis】

[どんな病気か]
 僧帽弁が十分開かなくなる心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)です。
 リウマチ性弁膜症のほとんどの患者さんがかかる病態で、小児期に、リウマチ熱(「リウマチ熱」)にかかり、その後徐々に僧帽弁の炎症のために弁と弁の間の交連部(こうれんぶ)が癒着(ゆちゃく)して狭窄(きょうさく)となります。
 障害の形状によっては、弁が閉じきらずに血液が逆流する僧帽弁閉鎖不全(そうぼうべんへいさふぜん)(「僧帽弁閉鎖不全症」)という状態も併発します。左心房(さしんぼう)から左心室(さしんしつ)に血液が流入しにくくなるわけですから、左心房に血液がよどみ、左心房が顕著に拡大してしまいます。さらに、肺静脈から肺動脈へとうっ血(けつ)が進み、肺高血圧となってしまいます。
 今では、リウマチ熱の治療が進歩したために、リウマチ性弁膜症にかかることが少なくなり、また病後の経過観察中に早期に見つかることが多くなりました。しかし、女性に多いという特徴もあり、かつては妊娠などの心臓に負担のかかる状態のときに心不全になり、初めて弁膜症に気づくことも多かった病態です。
[症状]
 心房細動(しんぼうさいどう)(「心房細動」)という不整脈(ふせいみゃく)を合併することが多く、動悸(どうき)や心不全(しんふぜん)の発症と関係します。労作時呼吸困難(ろうさじこきゅうこんなん)や動悸のほかに、疲れやすかったり、かぜ(感冒(かんぼう))にかかりやすかったりします。
 放置すると左心房内の停滞した血液が凝固して血栓(けっせん)を形成し、それがはがれて血流に運ばれていくと、その先で動脈をふさいでしまいます。これを血栓塞栓症(けっせんそくせんしょう)といい、ふさがれた場所が脳であれば脳梗塞(のうこうそく)になってしまいます。
 僧帽弁狭窄症では、こうして生じた脳梗塞が、結局、命取りになってしまうような場合が、かつて多くみられました。
[治療]
 中等症以下の場合では、内服治療が行なわれ、薬剤として強心薬、利尿薬(りにょうやく)、心房細動を調節するための抗不整脈薬、および抗凝固薬(こうぎょうこやく)が用いられます。
 抗凝固薬は、ワルファリンカリウム(商品名ワーファリン)という薬剤が通常用いられ、血液が心臓内で固まるのを防ぐようにします。
 ただし、薬が効きすぎると、逆にけがをしたときに血が止まらなくなりますので、服薬中は定期的に血液検査を受ける必要があります。適切に効いていても、打撲(だぼく)すると内出血(ないしゅっけつ)しやすくなったり、抜歯(ばっし)の際も注意が必要になるなど、気をつけなければならないことが多く、面倒に感じられる患者さんがほとんどでしょう。しかし、この治療を受けないと脳梗塞や腎梗塞(じんこうそく)、足の動脈が急性閉塞して切断を余儀なくされるなどの危険が高く、この治療は、そうした重篤(じゅうとく)な合併症を予防するたいせつな治療となります。
 薬剤による治療によって心不全が改善できない場合、あるいは日常労作でも動悸や呼吸困難が著しい場合は、外科的治療が考慮されます。
 通常、人工弁(じんこうべん)への弁置換術(べんちかんじゅつ)が行なわれますが、本来の僧帽弁を温存し、狭窄を開大(かいだい)する交連切開術(こうれんせっかいじゅつ)も弁の状態によっては選択されます。弁置換術か交連切開術かの術式の選択は、あくまでも病変の状態によって行なわれるので、患者さん本人の希望で選ぶことは望ましくありません。
 最近、心房細動を治療するメイズ法(コラム「メイズ法」)という手術法が開発されました。開心術による弁膜症手術を受ける際に併用すれば、同時に心房細動の治療も受けることができます。また、カテーテルによる交連切開術(PTMC)も行なわれるようになってきました。この方法によって、優れた結果が得られそうな症例はかぎられますが、患者さんへの侵襲(しんしゅう)(からだへの負担)が少ないという利点があります。しかし、再発したり、かえって逆流が増えてしまい、緊急に手術しなければならないようなこともわずかながらあります。
 僧帽弁狭窄症の患者さんでは、たとえ手術しても、人工弁による弁置換術では、必ず抗凝固療法は続けていただきます。人工弁が血栓によって機能障害をおこしたり、重篤な血栓塞栓症の合併症をおこしたりするのを予防する必要があります。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「僧帽弁狭窄症」の意味・わかりやすい解説

僧帽弁狭窄症
そうぼうべんきょうさくしょう

心臓弁膜症

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「僧帽弁狭窄症」の意味・わかりやすい解説

僧帽弁狭窄症
そうぼうべんきょうさくしょう

僧帽弁」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の僧帽弁狭窄症の言及

【心臓拡張】より

…心臓弁膜症などの心臓の病気や,極端な過労,貧血などによって,心臓に負担がかかることによって起こる。たとえば,僧帽弁狭窄症では左心房の血液が十分左心室へ流れなくなり,僧帽弁閉鎖不全では左心室の血流が左心房に逆流する。このようにして左心房に血流がたまると内圧も上昇し,左心室が拡張する。…

【心臓弁膜症】より

…しかし聴診法の進歩と上記診断法の発展によって,弁の障害のされ方には弁口が狭くなる弁狭窄,および弁の閉鎖が完全でなく逆流を生ずる弁閉鎖不全があり,ときに両者が一つの弁に同時に起こることが明らかとなった。そこで,心臓弁膜症は障害された弁とその弁の状態によって分類され,僧帽弁狭窄症,大動脈弁閉鎖不全症などの名で呼ばれている。また二つ以上の弁の障害が同時にあるいは引き継いで起こることもあり,そのような状態を連合弁膜症と呼ぶようになった。…

※「僧帽弁狭窄症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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