脳で産生される摂食抑制物質

内科学 第10版 の解説

脳で産生される摂食抑制物質(摂食調節ホルモンと肥満)

(3)脳で産生される摂食抑制物質
a.プロオピオメラノコルチン(pro-opiomelanocortin:POMC,α-MSH,brain-derived neurotrophic factor:BDNF)
 POMCは241アミノ酸残基からなり,副腎皮質刺激ホルモン,α-,β-,γ-MSHなどの前駆体で,下垂体前葉,弓状核,延髄孤束核などに発現している.摂食に関係が深いのはα-MSHで,MC4受容体に結合して食欲抑制やエネルギー消費亢進に働く.海外では肥満者の数%にMC4受容体遺伝子変異がみられるとの報告がある.BDNFは視床下部腹内側核に高発現している神経栄養因子の1つで,POMC/MC4受容体系の下流因子として摂食抑制に機能する.
b.コカイン・アンフェタミン調節転写産物
(cocain-and amphetamine-regulated transcript:CART) 116アミノ酸からなり,視床下部,前頭皮質,中脳などに発現し,摂食を抑制する.弓状核ではPOMCと共存し,レプチンによる正の制御を受ける.
c.副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)とUCN
 CRHは41個のアミノ酸からなり,おもに視床下部室傍核の小細胞領域で産生され,摂食抑制に作用する.40アミノ酸残基よりなるCRH関連ペプチドであるウロコルチン(UCN)は40アミノ酸残量よりなり摂食抑制に作用するが,その作用はCRHよりも強い.CRHとUCNは,熱産生や酸素消費量を増加させ,エネルギー消費を促進する.CRH受容体にはCRH-R1とCRH-R2があり,CRHは両者に結合するが,UCNは満腹中枢である視床下部腹内側核に多く発現しているCRH-R2に親和性が高い.
d.ガラニンとガラニン様ペプチド(galanin-like peptide:GALP)
 ガラニンは30アミノ酸残基からなるペプチドで,弓状核や室傍核を含む中枢神経や消化管に発現している.ガラニン受容体には3種類(GalR1~3)があり,ガラニンはおもにGalR1に結合する.ガラニンはCRHの放出を抑制して摂食,特に脂肪摂取を亢進させる.GALPは60アミノ酸残基からなるペプチドで,構造がガラニンに類似しており,弓状核などに発現して,摂食を亢進する.
e.カンナビノイド系
 大麻の主成分であるΔ9-テトラヒドロカンナビノールやアラキドン酸代謝産物で内因性カンナビノイドであるアナンダマイドと2-アラキドノイルグリセロールは,快楽や報酬系に作用するとともに摂食を増やす.カンナビノイド受容体は大脳辺縁系などに存在し,脂肪やショ糖などを多く含み嗜好性の高い,いわゆる「おいしい食物」の摂食に関与している.
f.モノアミン
 中枢神経系に広く分布するモノアミンニューロンも摂食調節に関与している.ノルアドレナリンは,室傍核のα2受容体を介して摂食を亢進する一方,室傍核のα1受容体や外側野のβ受容体を介して摂食抑制に作用している.現在わが国で唯一使用可能な抗肥満薬であるマジンドールは,前シナプス部位でのノルアドレナリン再取り込み抑制作用がある.セロトニンヒスタミンは摂食を抑制する.
g.ニューロメジンU,ニューロメジンS,ニューロペプチドW,ネスファチン1
 ニューロメジンU(25アミノ酸),ニューロメジンS(36アミノ酸),ニューロペプチドW(23アミノ酸),ネスファチン1(82アミノ酸)は,いずれも視床下部で産生される摂食抑制ペプチドである.[中里雅光]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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