翻訳|histamine
β‐イミダゾールエチルアミンで、ヒスチジンの脱炭酸によって生ずる生体アミンの一種。通常、マスト細胞(肥満細胞)において生成され、組織内ではタンパク質と結合して不活性の形で広く存在するが、一部は血漿(けっしょう)中で活性をもつイオンの形で遊離していると考えられている。また、抗原抗体反応によりマスト細胞中の不活性型からヒスタミンが遊離し、アレルギーやアナフィラキシーショックがおこるとされている。外傷や熱傷などの物理的侵襲、種々の毒物および薬物による化学的侵襲によっても、ヒスタミンの遊離はおこるとされている。
ヒスタミンの薬理作用には、アレルギー作用、気管支や腸管平滑筋の収縮作用、胃液分泌促進作用、末梢(まっしょう)血管拡張作用、末梢血管の透過性亢進(こうしん)作用がある。末梢血管の透過性の亢進は浮腫(ふしゅ)(むくみ)として現れ、末梢血管の拡張は血圧の下降として認められる。
ヒスタミンの化学合成はドイツのウィンダウスらにより1907年に成功し、10年にはその生理および薬理作用がイギリスのデールにより解明され、37年には第三アミンを母体とする抗アレルギー作用をもつ抗ヒスタミン薬がフランスのボベらにより発見された。ジフェンヒドラミンがその例である。66年には気管支平滑筋の収縮作用を示すヒスタミンH1受容体と胃粘膜分泌促進作用を示す非ヒスタミンH1受容体(H2受容体)の存在がイギリスのアシュA. S. F. Ashらにより報告され、それまで研究されてきた抗ヒスタミン薬では胃液の分泌抑制がみられない理由が明らかとなった。抗アレルギー作用をもつ抗ヒスタミン薬はH1受容体拮抗(きっこう)薬であり、ヒスタミンの化学構造に類似したヒスタミン誘導体の研究から、胃液分泌抑制作用のみならず、従来の抗ヒスタミン薬が示さなかったヒスタミンの各作用にも拮抗する薬物ブリマミドburimamideがイギリスのブラックJ. W. Blackらにより発見され、それまで非ヒスタミンH1受容体といわれていたものを改め、H2受容体とよぶようになった。これによりH2受容体拮抗薬の開発が始まり、シメチジン(「タガメット」)が消化性潰瘍(かいよう)治療薬として世界的に使用され、脚光を浴びた。その後、ラニチジンやファモチジン、ロキサチジンなど、さらに強力なH2受容体拮抗薬が開発されてきた。
[幸保文治]
β-イミダゾールエチルアミンともいう。血液や多くの組織に存在する生理活性物質。組織中ではマスト細胞,血液中では白血球の好塩基球の顆粒(かりゆう)中に見いだされる。血管拡張や膜透過性の増大,平滑筋の収縮を引き起こす。大量に体内に存在するとアナフィラキシー(アレルギーの一種。即時型過敏症)を起こす。アナフィラキシーの原因は,IgE免疫抗体がマスト細胞や好塩基球を破壊し,ヒスタミンやヘパリンなどを放出することにある。その結果,発疹や吐き気,くしゃみ,痙攣(けいれん),下痢,呼吸困難などの症状を呈する。これらの症状は,ジフェンヒドラミンなどをはじめとする多くの抗ヒスタミン薬によって抑えられる。これらの薬剤は,ヒスタミンの作用に対して拮抗作用があることが知られている。また動物組織中には,ヒスタミンの酸化分解を触媒するジアミンオキシダーゼが存在する。また細菌はタンパク質の腐敗に際してヒスチジンからヒスタミンをつくる。そのため,食中毒においてアナフィラキシー症状を呈することがある。
執筆者:柳田 充弘
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1H-imidazole-4-ethanamine.C5H9N3(111.15).肉などの腐敗に際し,ヒスチジンの脱炭酸によって生成するが,種々の動物,植物組織に広く分布している.1,4-ジアミノ-2-ブタノンをチオシアン化カリウムで環化したのち,塩化鉄(Ⅲ)で処理して合成する.針状結晶.融点83~84 ℃,沸点209~210 ℃.水,エタノールに可溶,エーテルに難溶.中枢神経にも局在し,神経伝達に関与している.毛細血管を拡張する.組織内で多量に生成するとアレルギーやアナフィラキシー症状を起こす.胃液分泌促進剤.[CAS 51-45-6]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…これらの抗体のうち,免疫グロブリンであるIg E抗体(レアギンreaginともいう)は組織固着性があり,結合組織中に存在するマスト細胞の表面に固着する。そこに病因となる抗原が再び侵入してくると抗原抗体反応がマスト細胞の表面で起こり,その結果,マスト細胞に含まれている顆粒が脱顆粒現象を起こし,顆粒の中に含まれているヒスタミン,SRS‐A(slow reactive substance of anaphylaxis),ECF(eosinophile chemotactic factor)などの化学伝達物質を細胞外に遊離する。すると,これらの化学伝達物質の作用によって,血管の透過性の亢進,平滑筋の収縮,腺分泌の亢進,好酸球の遊走などの反応が起こり,その結果,アレルギー疾患が起こると考えられている。…
…これらの皮膚病によるかゆみは,いずれもかゆみをおこす発痒物質が作られたために生ずる。蕁麻疹はアレルギー性疾患で,体に入ったアレルゲンつまり抗体が血液中の抗体と反応してヒスタミンを遊離するためにおこる。ヒスタミンは体の中で作られる強力な発痒物質である。…
…IgEクラスの抗体は,肥満細胞や好塩基性白血球のIgE‐Fcレセプターに強く結合する。これに抗原が結合すると,細胞は刺激を受け,細胞内のヒスタミン顆粒からヒスタミンが細胞外へ放出される。また,SRS‐A(slow‐reactive substance of anaphylaxisの略)とよばれる物質も生成し放出される。…
…通常は,1~数時間の経過をたどる,かゆみを伴った境界のはっきりした皮膚の浮腫をいう。浮腫は真皮の上層にみられるが,それは肥満細胞からヒスタミンが遊離され,その作用によって血管の透過性が増すため血漿が組織内へ流出して生じたものである。この肥満細胞からのヒスタミン遊離はIgE抗体(レアギン)と抗原とによるI型アレルギーによってひき起こされるが,これとは別にヒスタミン遊離物質が直接肥満細胞に作用してもヒスタミンの遊離が生じる。…
…毛やとげ,針が機械的な刺激を与える例として,コンフリーの葉,ムギの穂,イラクサ,サボテン,バラのとげなどがある。イラクサは折れて皮膚内に残った刺毛からアセチルコリンやヒスタミンが放出されるため,はれやかゆみをひきおこす。ヤマノイモ,サトイモ,カラスビシャク,マムシグサなどの根茎にはシュウ酸カルシウムの鋭くとがった針状結晶が存在し,皮膚を刺激し炎症をおこす。…
※「ヒスタミン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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