改訂新版 世界大百科事典 「腟自浄作用」の意味・わかりやすい解説
腟自浄作用 (ちつじじょうさよう)
autopurification of the vagina
腟内を細菌学的に検査すると,連鎖球菌,ブドウ球菌,大腸菌,バクテロイドなど多種の菌が検出される。しかし成熟婦人では,これらの菌やトリコモナス原虫あるいはカンジダなどの真菌が異常に増加して腟炎を起こすことは比較的まれである。この理由の一つは,成熟婦人の腟は卵巣から分泌されるエストロゲンの作用で上皮が厚くなり,感染に対する抵抗性が強いためである。もう一つの理由は,やはりエストロゲンの作用により腟の上皮中に増加するグリコーゲンをデーデルライン乳酸杆菌が乳酸に変えるため,腟内が酸性に保たれ,その他の菌が増殖しにくいためである。このため正常婦人の腟の分泌物中には,腟の上皮とデーデルライン杆菌以外はごく少数の白血球を認めるのみで,他の菌はきわめて少ない。このように細菌などの繁殖を妨げる作用を腟の自浄作用と呼ぶが,エストロゲン分泌の少ない思春期前の小児や閉経後の婦人では,この自浄作用が乏しく,腟炎を起こすことが多い。
執筆者:三橋 直樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報