白血球とは赤血球に対比した呼称で,呼吸色素をもたない血球の総称である。多くの白血球はその胞体内に顆粒(かりゆう)をもち,その染色性から好酸性,好塩基性,ヘテロフィルおよび好中性白血球と呼ばれている。無脊椎動物の白血球は,脊椎動物のそれらと同じく貪食能をもち,胞体内の顆粒は個体防御機構になんらかの形で役だっていると考えられている。無脊椎動物では白血球は間葉組織からランダムに産生され,消滅すると考えられる。無脊椎動物の白血球には,ホシムシ類の壺状体,環形動物の含糸細胞,甲殻類の爆発細胞,棘皮(きよくひ)動物の結晶構造など,きわめて特徴的な形態を示すものがある。脊椎動物の広義の白血球は,顆粒球,単球,リンパ球,形質球など,赤血球と血小板を除いた血中成分をいうが,狭義には顆粒球と単球をいう。ともに血管外の造血器(組織)内の幼若細胞より作られ,比較的幼若型で血管内に入り,全身に散布される。
執筆者:田中 康一
血液1mm3あたり4000~1万個存在し,細胞内に顆粒を有する顆粒球,核は馬蹄形を呈し豊富な細胞質をもつ単球,小型で円形の核を有するリンパ球に大別される。
(1)顆粒球granulocyte 顆粒性白血球ともいう。直径9~15μm。骨髄で生産され,体内に侵入した病原微生物や異物を貪食する。好中球,好酸球,好塩基球の3種がある。
好中球はエオジン-メチレンブルー染色で顆粒が中間的な淡桃~淡紫赤色に染まることから名づけられた。白血球中最も多く,53%を占める。顆粒はリソソームと呼ばれ,種々の加水分解酵素とプロテアーゼを含んでいる。血液1mm3中に1800~7000個含まれ,細菌感染からの防御において主要な役割をはたす。遊走能,貪食能も強い。したがって好中球が1000/mm3以下に減少すると感染しやすくなり,500/mm3以下になると肺炎や敗血症(細菌が血液に侵入した状態)などの重篤な感染症に陥り,高熱を発する。アミノピリンなどの解熱剤やその他の薬剤を投与されて,急激に好中球が減少することがある。一種のアレルギーによる好中球の破壊と考えられているが,このように好中球が極度に減少した状態を無顆粒球症という。一方,炎症が起こると骨髄からの好中球の供給が増し,末梢血液中の好中球は増加する。重篤な感染症では5万/mm3にも及び,正常時にはみられない若い好中球もみられるようになる。これを類白血病反応といい,病気の重篤さを示す指標の一つとされる。
好酸球は特異的顆粒が塩基性で,酸性色素によく染まる(エオジン-メチレンブルー染色ではエオジンによって赤く染まる)ことから名づけられた。1mm3の血液中に0~500個存在する。遊走能は好中球より劣るが,血管外に遊走して病変部に集まり,細胞の崩壊産物を貪食する。血液中の好酸球は季節的に変動し,夏は少なく,冬に多くなる傾向がある。日内変動もあり,夜間に多く日中は少ない。好酸球が異常に増えた状態を好酸球増多症といい,アレルギー性疾患(蕁麻疹やぜんそくなど),膠原(こうげん)病,寄生虫症などでは増加がみられる。リンパ球や寄生虫から好酸球を誘引する物質が分泌されるからである。一方ストレスが強くかかる急性病的状態や副腎皮質ホルモン投与後は血液中の好酸球は減少する。
好塩基球は特異的顆粒が塩基性色素によく染まる(エオジン-メチレンブルー染色では青)ことから名づけられた。顆粒はヒスタミンやヘパリンを含む。顆粒球中最も少なく,0~150/mm3。アレルギー状態や骨髄性白血病で増加する。
(2)単球monocyte 単核細胞ともいう。白血球中,最も大きく,直径14~20μm。血液1mm3中200~900個存在する。骨髄で産生され,独特の運動性をもっており,貪食能も強い。
(3)リンパ球lymphocyte 血液1mm3あたり1500~4000個あって,白血球の約35%を占める。大きさに大中小があり,骨髄のほかリンパ節や脾臓でも産生される。抗体を産生し,免疫に関与している。
→リンパ球
なお,白血球の代表的な病気に白血病があるが,これは白血球が無秩序に増殖するものである。
→血液 →血球
執筆者:松本 昇
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血液中に含まれる有形成分の一つ。白血球の数は血液1立方ミリメートル当り6000~8000個で、赤血球数の500ないし1000分の1ほどである。しかし、その種類は豊富で、原形質内に顆粒(かりゅう)をもった顆粒白血球として中性好性、酸好性、塩基好性白血球があり、無顆粒白血球としてリンパ球、単核細胞がある。そのうち、中性好性白血球(好中球)が全体の約60%、リンパ球が30%を占める。白血球の働きは生体の防御作用にある。その作用の第一は、侵入した細菌、異物などを貪食(どんしょく)することである。このため、白血球は目的の場所までアメーバ運動によって到達しなければならない。この性質を遊走性といい、中性好性白血球がとくに優れている。一方、単核細胞は遊走性は鈍いが、細菌を貪食する力は中性好性白血球の10倍もある。したがって、前者は急性、後者は慢性感染のときによく増えるという特徴がある。第二の白血球の働きは、免疫による生体の防御作用である。これはリンパ球の働きによる。そのうちTリンパ球(T細胞)とNK細胞は細胞免疫によって、直接侵入した外敵やウイルス感染した細胞を攻撃する。一方、Bリンパ球(B細胞)は免疫グロブリンをつくることによって、細菌、毒素などの作用を無力化する。免疫グロブリンにはIgM, IgG, IgA, IgD, IgEの5種類がある。このように、白血球は生体を防衛するうえでたいせつな成分であるから、白血球数が1立方ミリメートル当り5000以下になると危険な状態となる。とくに、顆粒白血球減少症の場合、2000以下となると身体の抵抗が極度に衰え、死亡率が高くなる。白血球は、血管内からどんどん組織に出ていくため、その寿命を正確に測定することは困難であるが、一般には、顆粒白血球で10日前後、リンパ球の大部分は100~200日、一部は3~4日と推定されている。
[本田良行]
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…1793年J.ハンター(スコットランドの外科医)は,炎症とは病気ではなく,個体に有益な効果を起こすための反応〈生体防御反応〉であるという考えを導入した。コーンハイムJulius Cohnheim(1839‐84)は,炎症の起こる経過をカエルの腸間膜を用いて顕微鏡で観察し,炎症の初めに血管が拡張し,次いで血液の流れが変化し,そして白血球や血清が血管からしみ出る(滲出という)ことを記載し,炎症の実験的研究の口火を切った。この観察は現在でも確認されている重要な知見であった。…
…組織の損傷部に多量の好中球が集まり,組織の融解が起こり,局所に濃厚な液を貯留することをいう。この濃厚な滲出液を膿(うみ)といい,その内容は,多量の白血球,生菌や死菌,繊維素,液性成分,細菌,組織や白血球の崩壊産物,それに由来するコレステロール,レシチンなどの脂質,多量のDNAから成る。化膿の原因は細菌感染が最も多いが,白血球の走化をひき起こすような化学物質によっても無菌的な化膿が起こる。…
…無脊椎動物の血球は一定の細胞回転をとらずランダムに産生されるが,一部の進化した動物群では脊椎動物の造血に類似した細胞回転のあることが知られている。鳥類までの脊椎動物の血球は,最も未分化な円口目メクラウナギ類を除き,赤血球,リンパ球と顆粒(かりゆう)球(この二つを合わせて白血球ともいう)および栓球の4種類が区別される。形態学的に,これらの動物では赤血球と栓球はともに有核細胞で,ともに血管内で産生される。…
…主として化膿性の細菌(ブドウ球菌,連鎖球菌,肺炎双球菌,髄膜炎菌,リン菌)の感染により生ずる炎症である。初期は白血球のうちの好中球の集まったものであるが,しだいに組織の融解壊死を伴って大きくなる。このときのうみの成分は好中球のみならず壊死に陥った組織や死滅した細菌および滲出液から成っている。…
…認知すべき原因もなく白血球系のある細胞が無制限に増殖し,これら増殖した白血球が血液中に出現ないし増加する病気。血液の悪性腫瘍ともいうべき病気である。…
※「白血球」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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