日本大百科全書(ニッポニカ) 「花兎金襴」の意味・わかりやすい解説
花兎金襴
はなうさぎきんらん
名物裂(ぎれ)の一つ。花樹の下に兎、その足元に土坡(どは)をあしらった単位文様を互(ぐ)の目に織り出した金襴。地色、地組織、文様の大きさが異なる裂が幾種かあり、製作時期も明(みん)初から明末にわたる。また文様の可憐(かれん)さが賞翫(しょうがん)され、日本で模作したものも数多い。代表的な作例に「角倉(すみのくら)」があり、これは濃い萌黄(もえぎ)色の綾(あや)地に4センチメートル×3センチメートル程度のやや大きめの単位文様が洗練された端正な趣(おもむき)で織り出され、金糸の色にも品格がある。桃山時代の茶人角倉了以(すみのくらりょうい)の愛用裂と伝えて、この名で親しまれている。このほか、花頭形(アーチ形)の中に花兎を収めた金地の金襴、繻子(しゅす)地合いのよろけ縞(じま)に花兎を織り出した「紹智(じょうち)金襴」などが著名である。
[小笠原小枝]