改訂新版 世界大百科事典 「茶書」の意味・わかりやすい解説
茶書 (ちゃしょ)
茶の種類,製法,喫茶法などを記載した書物の総称。中国では唐の陸羽の《茶経》が最もすぐれ,後世に与えた影響も大きい。唐から明・清時代までいくつかの茶書が存在し,各時代の茶に対する好尚を知ることができる。固型の餅茶,団茶が上流階級の飲物であった宋代には,徽宗の《大観茶論》,熊蕃《宣和北苑貢茶録》があり,煎茶が普及した明代では銭椿年(せんちんねん)の《製茶新譜》や許次紓(きよじしよ)《茶疏》などが知られ,多く日本語訳されている。
執筆者:梅原 郁 日本では茶道の発展によって栄西の《喫茶養生記》以来,膨大な茶書が著され,1868年以前成立の茶書だけでも1万点を超える。主要なものには《君台観左右帳記》にはじまる名物記,《松屋会記》以下の茶会記,《南方録》などの点前中心の伝書,《茶話指月集》などの逸話集があり,その他茶室,茶器寸法,煎茶書,茶人の覚書など多様な種類の茶書がある。16世紀以前の茶書は比較的まれで,1626年(寛永3)刊の茶の湯入門書《草人木》が最初の版本茶書である。その後,茶道の町人遊芸化が進んだ元禄期,文化・文政期には啓蒙的な茶書出版が盛んになった。しかし茶書のほとんどは秘伝書あるいは個人的な覚書で,写本として残っている。近代以降も岡倉天心の《茶の本》はじめ種々の書物が出版されている。
執筆者:熊倉 功夫
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