改訂新版 世界大百科事典 「草木六部耕種法」の意味・わかりやすい解説
草木六部耕種法 (そうもくりくぶこうしゅほう)
幕末の佐藤信淵の主著。全20巻。本書により信淵は,宮崎安貞,大蔵永常とならび〈江戸時代の三大農学者〉と称される。1829年(文政12)脱稿したが,公刊は明治以後である。有用植物の利用対象を,根・幹・皮・葉・花・実の六部にわけ,それぞれに属する植物の栽培法を解説している。この分類はほかに例がなく,信淵の独創とみなされる。登場する植物は約300種。もっとも重要なのは需実種で,イネをはじめ穀物,マメ類,ウリ類,ナス,ナタネ,ワタ,果樹など広範囲な種類がふくまれる。総論では万物化育の原理を論じ,中国渡来の伝統的な陰陽説の発想をひきつぎながら,陽気を柔塩,陰気を剛塩におきかえるなど,蘭学の影響による断片的化学用語を多数登場させている。本書への評価として,明治以前の農書中もっとも独創的な大著とする意見と,あまりにも衒学(げんがく)的で非実用的とする意見とが対立している。
執筆者:筑波 常治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報