生(なま)または加工して食べる果実をつける永年性の木本性植物をいう。広義ではこのほか、これに類する永年性の草本植物であるバナナ、パイナップル、パパイヤ、パッションフルーツなどと、果樹の台木用植物をも含める。アメリカその他一部の国々では、園芸の慣習上、草本性イチゴ類を果樹に入れているが、日本では蔬菜(そさい)として扱っている。
[飯塚宗夫]
分類方法は大別して自然分類と人為分類の二つがある。前者は植物分類学的に門、綱、目、科、属、種、変種、栽培品種の区分に従って系統だてて分類するもので、その基礎を系統発生や形態学に置く。この方法によって現在利用されている全世界の果樹類のおもな種の数をみると、裸子植物門では2目、3科、3属、6種が、被子植物門では単子葉植物綱に3目、3科、4属、4種が、双子葉植物綱に19目、36科、60属、278種がある。このような分類の手法も人によっては若干の相違がみられ、不動のものではない。近年紹介の進んできた熱帯の果樹類を考慮すると、果樹には将来さらに多くの種類が加わるものと考えられる。人為分類は園芸上の便宜を考慮し、また植物分類上の立場も考慮して分類されたもので、これまでに多くの人によって諸案が出されてきた。1876年(明治9)の藤井徹(ふじいてつ)による『菓木栽培法』(1~8巻)は果樹を体系づけたものであるが、それには漿果(しょうか)類(ブドウ、スグリなどのみずみずしい果実をつけるもの)、仁果(にんか)類(ナシ、リンゴなど仁果をつけるものと、カキ、柑橘(かんきつ)類など準仁果をつけるもの)、核果類(モモ、ナツメなど核をもつ果実をつけるもの)、乾果類(クリ、アーモンドなど利用部が種子で乾燥状態であるもの)の類別が行われた。この分類ではナシ、リンゴのように偽果をつけるものと、カキやミカンのように真果をつけるものとが同じ仁果に入るなど相当な無理がある。そこで、果樹の特性、分布、栽培上の特徴などから分類する試みが行われた。一例をみると、まず、中・高木性、つる性、低木性に分け、中・高木性をさらに落葉性(仁果、核果、殻果、その他)と常緑性(柑橘、仁果、その他)とに分けている。
[飯塚宗夫]
ロシアの植物学者バビロフ(1887―1943)による世界の栽培植物起源の8中心地に、さらに北アメリカ、オセアニア、ヨーロッパ・シベリアの3地域を加えた11地区からみたおもな果樹類の原生地を以下に示す。
〔東アジア〕
アンズ、ウメ、温州ミカン、オニグルミ、カキ、カラタチ、カンラン、キウイフルーツ、キンカン、ギンナン、クラブリンゴ、サンザシ、タンカン、中国グリ、中国サクランボ、中国ナシ、ナツミカン、ナツメ、日本グリ、日本ナシ、ハシバミ、ヒメグルミ、ビワ、ボケ、マテバシイ、モモ、ヤマモモ、ユズ、リュウガン
〔東南アジア〕
ククイナッツ、クネンボ、ココヤシ、ゴレンシ、サゴヤシ、ドリアン、ナツメグ、バナナ、パンノキ、フトモモ、ブンタン、マンゴー(多胚性)、マンゴスチン、ランサ、ランブータン、レンブ
〔南アジア〕
コショウ、シトロン、スイートオレンジ、ダイダイ、パラミツ、ポンカン、マンゴー(単胚性)
〔中央アジア〕
アーモンド、クワ、サクランボ(甘果、酸果)、シナノグルミ、西洋スモモ、西洋ナシ、ナツメ、フィルバート、ブドウ、マメガキ、リンゴ
〔近東〕
アーモンド、イチジク、欧州ブドウ、カシグルミ、サクランボ(甘果、酸果)、ザクロ、西洋スモモ、ナツメヤシ、ピスタチオ、フィルバート、マルメロ
〔地中海〕
イチジク、オリーブ、クレメンティーン、コブナッツ、ナツメヤシ、ベルガモット
〔ヨーロッパ、シベリア〕
欧州ラズベリー、シベリアクラブアップル、ストーンベリー、ダムソンチェリー、フィルバート、ブラックカラント、ブリアンコンアンズ、マハレブチェリー
〔北アメリカ〕
アカミラズベリー、アメリカガキ、アメリカスグリ、アメリカブドウ、アメリカヘイゼルナッツ、クランベリー、サンドチェリー、ブルーベリー、ペカン、ポーポー
〔メキシコ、中央アメリカ〕
アブラヤシ、アボカド、イエローサポテ、ウチワサボテン、オオミクダモノトケイソウ、カカオ、カプリンチェリー、グレープフルーツ、サポジラ、シロサポテ、チェリモーヤ、テンプルオレンジ、トゲバンレイシ、バニラ、パパイア、バンジロウ、ピタヤ、ブラックサポテ、ホワイトサポテ、マメイ、メキシコサンザシ、モンビン
〔南アメリカ〕
カイニット、カカオ、カシューナッツ、ガラナ、キイチゴ、クワス、コカノキ、ジャボチカバ、ストロベリーグアバ、パイナップル、パッションフルーツ、バナナパッションフルーツ、ピタヤ、フェイジョア、ブラジルナッツ、ペジバエ
〔オセアニア〕
バナナ、パンダナス、マカダミア
原生地にみられる果樹類は、今日多くのものがなお野生状態で生存分布し、なかにはそのまま果実が採取、利用されているものもある。しかし多くは人類の文化の発達とともに選抜、栽培化が進み、利用の面も広くなり、このため果実はそれなりの多面的利用に向かって進化してきた。この過程ですでに原生種が亡失し、または野生の原種形が不明になったものもある。野生種あるいは原始形果樹類には、今日の進化した果樹類がすでに失ってしまったような耐病虫性、耐寒暑性、耐乾湿性、その他有用な遺伝子が保有されている場合が多く、今後の育種上での利用価値はきわめて高い。また野生果樹類は鳥類、小動物などの餌(えさ)ともなり、自然生態系保持には大きな意味をもっている。
[飯塚宗夫]
日本原生で広く利用されてきた果樹は、日本ナシ、日本グリ、オニグルミなどでその数は少なく、これらのほかにはビワ、カキ、ウメなどが史前渡来または原生と考えられる程度である。このような少なさは、一つには元来、日本に果樹用遺伝資源が乏しいことにもよるが、また一つには、日本は気象、土壌など風土に恵まれていたために、ヨーロッパやシベリアで盛んに利用されてきたナナカマド、ガマズミ、キイチゴ類、コケモモ、ハシバミ、コクワ、ブドウ類などの近縁種が原生していても、それらに頼らずに生活することが可能であったことにもよるものであろう。生活が多様化してきた日本でも、将来、これら資源の活用は一考に値する。
[飯塚宗夫]
食物を求めて移動した生活の時代から定住の生活に入って、人類の食生活様式は徐々に変わってきた。山野に自生する果物を収穫して食べ、その捨てた種子から生えた木々が生育して、同様に果物をつける。このことから果樹の栽培化は学ばれたであろう。種子を播(ま)き、あるいは移植し育てることから、果樹もまた草本作物同様に栽培化が行われるようになった。どの時代でも、利用される果樹は、その生活の範囲内において行われた。東西の交流がおこれば、そこに交流範囲の果樹が導入された。日本においては、まず中国原生の果樹が導入され、やがて、西アジアやヨーロッパの果樹がシルク・ロードや海路を通じて中国を中継地として導入されてきた。現在では環境不適なものを除き、全世界の果樹が導入されている。こうした栽培化の拡大のなかで経済活動も盛んとなり、今日の果樹園芸へと展開してきた。
[飯塚宗夫]
『佐藤公一他編著『果樹園芸大事典』改定版(1984・養賢堂)』
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…このように果物という言葉は日常用語であり,その範囲は必ずしも明確ではない。
[果樹]
食用となる果実をつける樹木は果樹と呼ばれ,栽培する地帯によって熱帯果樹と温帯果樹に分けられる。また,冬に落葉するかどうかによって常緑果樹と落葉果樹に分けることもある。…
… ユダヤ・キリスト教徒が見る天国ないし楽園には二つの類型があり,それが聖書の冒頭と末尾に記されている。第1は〈エデンの園〉で,それが生命を養うための果樹および水の豊かな理想郷であることが述べられている(《創世記》2~3)。エデンは地名であり,シュメール語のエディヌedinu(荒地,砂漠の意)から派生した語といわれ,要するにエデンの園とは荒地中のオアシスのようなものと考えられる。…
…市街地の場合は街路樹と呼ばれる。
[日本]
奈良時代の759年(天平宝字3)に東大寺の普照の奏状により五畿七道の駅路の両側に果樹を植えさせ,木陰を旅人の休息場とし,木の実を食料とさせる官符が出ているのが街道の並木の始まりとされ,平安時代にも引き続き果樹が植えられている。戦国時代末には織田信長が1575年(天正3)に東海道と東山道に松や柳を植樹させ,上杉謙信,前田利長,加藤清正らも領内の街道に諸木を植えさせて街道の整備を行っている。…
※「果樹」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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