朝日日本歴史人物事典 「薩摩治兵衛」の解説
薩摩治兵衛
生年:天保2(1831)
幕末明治期の輸入綿糸布商。屋号は丁字屋。近江国(滋賀県)犬上郡の農家の子として生まれる。近江出身で江戸に店を持つ呉服木綿商小林吟右衛門商店(屋号は丁吟)に奉公し,慶応3(1867)年に独立,江戸日本橋の富沢町に店を構えた。独立に際して,同じく小林商店に奉公し,すでに独立して輸入貿易商として活躍していた杉村甚兵衛から2000両の援助を受けたといわれる。薩摩もまた横浜での輸入貿易に着目し,金巾(輸入白綿布)や洋糸(輸入綿紡績糸)を扱うことで大きな利益を得た。東京のほか横浜,大阪,京都などにも支店網を広げ,明治30年代には東京で最大の綿糸布商に成長している。また,明治15(1882)年の大阪紡績会社(日本における1万錘規模の機械制綿紡績会社の嚆矢)の創立当初の株主でもあった。幕末開港を期に勃興する新興貿易商人のひとりであり,新たな綿糸布流通機構の形成者とみることができる。<参考文献>実業之世界社編『財界物故傑物伝』下
(谷本雅之)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報