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広義には中心音をもたない音楽のことで,シェーンベルク,ウェーベルン,ベルクらの1908-10年ころの作品から十二音技法による諸作品,同時期以降のスクリャービンのいくつかの作品,またその後今日に至るまでの,特定の中心音をもたない音楽全般を指す。その意味では,シェーンベルクの十二音技法は無調音楽の理論的組織化といえる。しかし,狭義には特定の音楽様式と結びついた概念で,シェーンベルク,ウェーベルン,ベルクら第2次ウィーン楽派の表現主義時代(1908ころ-25ころ)の音楽を指す。そこでは怪奇な幻想,狂気,孤独などの表現に,強度な緊張力の表出によって機能和声的調性の枠を突き破り,特定の中心音にとらわれない無調様式が確立された。最初の作品は一般にシェーンベルクの《第2弦楽四重奏曲》(1908)の終楽章とされているが,これは無調なのは冒頭の12小節のみであるから誤っている。部分的無調なら,すでにF.リストに認められる。1曲あるいは1楽章全体が無調様式で書かれるのはシェーンベルクの《二つの歌曲》(1908)の第1曲,次いで《ゲオルゲ歌曲集,架空庭園の書》《三つのピアノ曲》(ともに1909)と続く。ウェーベルンも《五つの歌曲》(1909),ベルクは《四つの歌曲》(1910)の終曲あたりから無調様式をとりはじめる。
無調音楽,表現主義時代の作品には傑作が多く,シェーンベルクの《五つの管弦楽曲》(1909),モノドラマ《期待》(1909),《ピエロ・リュネール》(1912),ウェーベルンの弦楽四重奏のための《六つのバガテル》(1913),ベルクのオペラ《ウォツェック》(1922)などは,無調様式の代表作である。彼らはシェーンベルクの十二音技法の創案とともに,いずれも十二音音楽へ移っていく。
無調音楽とはその直前まであった調性音楽への反語として用いられた語で,atonal(無調)の〈a〉は〈非〉〈無〉を意味する接頭辞である。したがって今日電子音楽なり不確定性音楽なりが無調であっても,それをことさら無調音楽とは呼ばない。
→調性
執筆者:佐野 光司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
明確な調性と中心音を感じさせない20世紀初頭の西洋の音楽様式。17世紀、ヨーロッパで成立した調性音楽、つまり七音音階(長音階と短音階)と主三和音(主和音、下属和音、属和音)を中心に構成された音楽の体系は、19世紀のロマン主義音楽を通じてしだいに崩壊し、七音以外の音、三和音以外の和音が頻繁に用いられ、いわゆる調性感を失っていった。19世紀後半、晩年のリストの作品や、ワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』に先駆的な例がみられるが、その完成者はシェーンベルクである。彼の『月に憑(つ)かれたピエロ』(1912)、『六つの小さなピアノ曲』(作品19、1911)、モノドラマ『幸福な手』(1910~13)、弟子のベルクのオペラ『ウォツェック』(1917~21)、ウェーベルンの『五つの管弦楽の小品』(作品10、1911~13)には、半音、四度構成の和音、非対称的なリズムなどの特徴がみられる。この時期にストラビンスキー、バルトーク、ヒンデミットらもやはり無調的作品を発表している。さらにシェーンベルクは1920年の『五つのピアノ曲』(作品23)で「組織的無調音楽」ともよばれる十二音技法を打ち出し、20世紀音楽に新たな一歩を残した。
[細川周平]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…それはR.ワーグナーの楽劇における半音階の多用によって,また一方ではドイツ・ロマン派の過度な感情表出に反対して外界の印象を直観的に音で形象化しようとしたドビュッシーが,教会旋法や全音音階を導入し,和音の機能的関連を否定して個々の和音の独立的な色彩価値を重要視したことによって生じた。20世紀にはA.シェーンベルクが調性を全面的に否定して無調音楽を書き,それを組織化して12音の音列技法を創始した。弟子のA.ウェーベルンがそれをさらに徹底させたのち,第2次世界大戦後は音高以外の要素もセリー化するセリー音楽が生まれた。…
…ことにワーグナーの,解決されないまま次々と転調していく〈トリスタン和声〉は有名である。しかし,極端な半音階主義は調性組織に基づく機能和声の危機を招来し,20世紀初頭の無調音楽へと行き着いた。そこに新しい秩序を生み出すべく考案された十二音技法では,オクターブ内のすべての12音に等価の意義が与えられたが,ここにいたって,全音階と半音階の区別そのものが意味を失うことになった。…
※「無調音楽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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