改訂新版 世界大百科事典 「蜂の寓話」の意味・わかりやすい解説
蜂の寓話 (はちのぐうわ)
The Fable of the Bees
イギリスの政治風刺家マンデビルBernard de Mandeville(1670-1733)の著作(1714)。マンデビルはオランダに生まれ,ライデン大学で医学と哲学を学び,後にイギリスに帰化した。彼の初期のいくつかの詩作の中にもすでに同じテーマがみられるが,この詩の主題は,副題の〈Private Vices,Publick Benefits〉からわかるように,巣の中の個々の蜂は醜い私欲と私益の追求にあくせくしているが,巣全体は豊かに富み,力強い社会生活が営まれているという点にある。マンデビルは何度もその詩文の表現や論の展開の仕方を修正しているが,ひと言で要約すれば〈私的悪徳が公共的便益につながる〉ということにつきる。ぜいたく,虚栄,貪欲,ねたみなどすべてが経済的繁栄につながるのであり,それらをむやみに制限することは逆に国家の衰退を招くという。《蜂の寓話》は18世紀には広く読まれたと推測される。A.スミスの師にあたるF.ハチソンはこの本の利己主義的道徳観に反対しているがスミス自身はマンデビルの道徳理論には異を唱えたものの,自由主義的経済学や分業論の論述において強い影響を受けている。
執筆者:猪木 武徳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報