日本大百科全書(ニッポニカ) 「踏切番ティール」の意味・わかりやすい解説
踏切番ティール
ふみきりばんてぃーる
Bahnwärter Thiel
ドイツの作家ハウプトマンの短編小説。1888年、雑誌『社会』に発表した自然主義的な作品で、内容は戯曲『運送屋ヘンシェル』(1898)に似ている。実直な踏切番ティールは病身の妻を失い、息子トビーアスが幼いので、若くたくましい後妻レーネを迎える。しかしレーネは自分の子が生まれると継子トビーアスを虐待し、番小屋に勤務中のティールは汽車に追われる先妻の幻をみるようになる。トビーアスが汽車にひかれたことが契機で、逆上したティールはレーネとその子を斧(おの)で殺す。翌朝線路で発見されたティールは精神科病院に送られる。自然や心理の描写は自然主義的で克明だが、最近では線路という事物(もの)を象徴とし、ビジョンの侵入を描いた作品という解釈もある。
[岩淵達治]
『佐藤晃一訳『踏切番ティール』(1954・河出書房)』