祭礼や冠婚葬祭などの儀礼に際し、当然列席すべき人が正式食事の席に出られなかった場合、そこに饗(きょう)せられた食物をそっくり欠席者の許(もと)に送り届けることを送り膳という。上述のような儀礼の際の食事には、かならず共食しなければならない定まった人があって、同じものを同じ席で食べるそのことが、互いの結合を強める意味があった。とくに祭りの日には、人間だけではなく神との直会(なおらい)であったので、いっそうこの意識は強かった。その座に連なるはずの人がいないということは、それだけ結合力に欠けることになるので、食膳を送って共食する形を整え、結合の力を加えようと考えたのである。古人の食物に対する考え方は、現在の人々の思い及ばぬ力を意識していたもので、同じ火で煮炊きしたものをいっしょに食べることに意義を感じていたことから、送り膳の風習が生まれたのである。
[丸山久子]
…また贈物一般をトビと呼ぶ地方もあるが,これは〈賜(た)べ〉に由来し神からの賜物を意味すると説かれており,日本人の贈答行為は古来よりの信仰に根ざしたものといえる。会食に欠席した者に食物を送り届ける〈送り膳〉や出席者にもその家族へ食物を包み持たせるならわしまたおすそ分けなどは共食の効果を広げるものであり,オウツリとかオトビ,オタメと称し贈物を入れてきた器に食物を少し取り残して返したり半紙やマッチなどを入れて返すしきたりは,御飯を少し残してお代りする習慣同様,一つの食物を移し回していただき合う共食の作法を残したものとみられる。なお食物贈与にササやナンテンの葉を添えるのは古く葉を食器として使った名残とか魔よけのためといわれている。…
※「送り膳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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