高尿酸血症と痛風(読み)こうにょうさんけつしょうとつうふう(英語表記)Hyperuricemia and Gout

六訂版 家庭医学大全科 「高尿酸血症と痛風」の解説

高尿酸血症と痛風
こうにょうさんけつしょうとつうふう
Hyperuricemia and Gout
(代謝異常で起こる病気)

どんな病気か

①高尿酸血症とは

 ヒトの体のなかの細胞には、すべて遺伝子が入っています。この遺伝子をつくっている核酸(かくさん)という物質のなかに含まれるプリン体の分解産物が尿酸です。

 体のなかでつくられた尿酸のうち、約80%は腎臓から尿のなかに溶けた状態で排泄されますが、この排泄量が少なかったり、体のなかで尿酸がつくられすぎて排泄が間に合わなかったり、あるいはその両方が起こると血液中に尿酸が増えてきます。このように、血液中の尿酸が正常値を超えて高くなった状態が高尿酸血症です。

 日本痛風・核酸代謝学会では、2002年に「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」を作成し発表しました。それによると、高尿酸血症とは尿酸の血液中に溶解可能な最大濃度である7.0㎎/㎗を正常上限とし、これを超えるものを高尿酸血症と定義されています。

②痛風とは

 高尿酸血症の状態がある程度長期化すると、尿酸は尿酸塩(にょうさんえん)という結晶の形になって、関節や腎臓などに析出してくるようになります。このように高尿酸血症を基礎として、尿酸塩が関節に沈着することによって急性の関節炎を起こす病気が痛風です。

 日本では、第二次世界大戦以前の痛風は極めてまれな病気でしたが、1960年以降、痛風患者は急増しています。厚生労働省の国民生活基礎調査によると、1998年度に痛風で通院している患者さんの数は約59万人とされており、その10年前の調査と比較して約2倍に増えています。

 痛風は40~50代の男性に多く、患者さんの95%以上は男性で占められています。女性は男性に比べて極めて少なく、発症する場合はほとんどが閉経期以降です。女性ホルモンのひとつであるエストロゲンには、腎臓での尿酸の排泄を促進するはたらきがありますが、閉経期以降、このホルモンの分泌が低下するので、血液中に尿酸がたまる傾向になるためと考えられています。

原因は何か

 高尿酸血症は、体のなかでの尿酸の産生が増加することによる産生過剰型と、腎臓からの尿酸の排泄が減少していることによる排泄低下型に分類されています。またそれぞれに、尿酸代謝の異常が一次的である原発性と、腎不全白血病骨髄腫などの別の病気や薬剤などによって二次的に高尿酸血症となる続発性に区別されています(表23)。

 圧倒的に多いのは原発性の高尿酸血症ですが、そのほとんどは原因がよくわかっていません。しかし、なかには、プリン体が尿酸へと代謝される過程で、必要な代謝の酵素が遺伝的に異常に活発にはたらいたり、別の経路ではたらく酵素が遺伝的に欠けていると尿酸が過剰に産生されるものなど、原因が明らかなものもあります。

 痛風は以前、帝王病といわれ、美食、大酒の習慣をもつ上流階級の病気と考えられていました。しかし、現在では食生活の欧米化やアルコール摂取量の増加により、誰もが高尿酸血症や痛風になる可能性があります。美食よりもむしろ過食が問題であり、高カロリー食や肥満は尿酸の産生量を増やします。また、アルコールや果物類(果糖)の過剰摂取、ストレス、過度の運動も尿酸を上げるようにはたらきます。

症状の現れ方

 アルコールやストレスなどが引き金となって痛風発作が生じる場合があります。発作時には、手足の関節がはれて、熱感を伴う激しい痛みが起こります。だいたい24時間でピークに達し、1~2週間で自然に痛みはなくなっていきます。

 このような時期に十分治療が行われずに進行すると、痛風結節(つうふうけっせつ)といって関節の周囲などに尿酸塩の結晶が析出して、こぶのようにはれてきます。とくに、足の親指のつけ根の関節や、そのほかの手足の関節、耳の軟骨(けん)皮下などにも結節は現れます。

 また、尿酸塩が腎臓の髄質(ずいしつ)にたまると、腎機能障害を起こし、これを痛風腎(つうふうじん)といいます。尿酸塩を中心とする尿路結石ができやすくなることも、特徴のひとつです。

 また、高尿酸血症・痛風は虚血性(きょけつせい)心疾患(狭心症(きょうしんしょう)心筋梗塞(しんきんこうそく)など)の危険因子のひとつとされています。脂質異常症糖尿病、肥満、高血圧などを合併することも多く、その結果、脳血管障害心臓病を併発してくることも少なくありません。

検査と診断

 痛風は、痛風関節炎の発作、痛風結節などの症状、血清尿酸値、関節液などにより診断されます。痛風と類似した病気としては、関節リウマチ、変形性関節症、偽痛風(ぎつうふう)外反母趾(がいはんぼし)などがあります。それらと区別するため、それぞれの検査も行います。

 また、痛風の進行状態、合併症などの診断のために腎機能検査尿路結石の有無をみるためにX線検査、CT検査、腹部超音波検査などを行います。合併症があるかないかを調べるために脂質血糖、肥満度、さらに心電図や心エコーなどの循環器の検査も行います。

治療の方法

 痛風の治療は、痛みを除くだけではなく、尿酸を正常値にコントロールして、痛風関節炎の発現や合併症を予防することにあります。

 治療は薬物療法が中心ですが、食事嗜好品(しこうひん)などの生活習慣の改善も大切です。

 薬物には、痛風発作に対する治療薬と、尿酸値をコントロールする薬があります。痛風発作の予感がする時、つまり発作の起こる部分がうずいたり、はれぼったい感じなどがあればコルヒチンを服用します。発作が起こってしまってからは、非ステロイド性抗炎症薬を短期間に比較的大量に服用します。副腎皮質ステロイド薬も十分な効果を発揮する薬物です。

 尿酸値を下げる薬には、尿酸排泄促進薬(はいせつそくしんやく)プロベネシド、ベンズブロマロンなど)、尿酸生成抑制薬(アロプリノール)があります。原則として、前述したような尿中への尿酸の排泄量が低下した患者さんは尿酸排泄促進薬を、体のなかでの尿酸の産生が増加した患者さんは尿酸生成抑制薬を服用します。

 しかし、尿路結石既往があったり、腎機能に障害のある患者さんは尿酸排泄促進薬により、これらの合併症を悪化させる危険性があるため尿酸生成抑制薬を服用し、尿中尿酸排泄量を抑制しなければなりません。

 尿酸の腎臓への沈着や、尿路結石の発症を予防するためには、尿量を増加させることが必要です。そのため飲水量を増やし、1日尿量を通常の約2倍の2000ml以上に保つようにしなければなりません。

 また、痛風の患者さんの尿は酸性度が強いため、尿をアルカリ化する食品である野菜や海藻などを多くとるようにします。食事療法によっても酸性尿の是正が不十分な場合は、重曹やクエン酸製剤などの尿アルカリ化薬を服用する必要があります。尿㏗を6.0~7.0に保つように調節しなければなりません(表24)。

 痛風や高尿酸血症には、前述したように肥満、高血圧脂質異常症耐糖能(たいとうのう)障害(糖尿病)が高い確率で合併するといわれています。痛風の患者さんの食事では、原則として食べてはいけない食品はありませんが、過食は禁物で、肥満にならないような食事をする必要があります。

 また、脳血管障害、心臓病などの合併症を防ぐために、塩分や脂肪分を制限することも必要になります。

岡部 英明, 細谷 龍男


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「高尿酸血症と痛風」の解説

高尿酸血症と痛風(プリン・ピリミジン代謝異常症)

(2)高尿酸血症と痛風
臨床症状・病態
 痛風(gout)は,高尿酸血症(hyperuricemia)により尿酸の結晶が組織に蓄積することにより引き起こされる一連の病的状態を指す.症状は,炎症性の再発性関節炎,痛風結節,尿酸結石である.血液尿酸値が7.0 mg/dL以上になると,痛風発作を起こすリスクがある.血液尿酸値は,人種,年齢,性,体格により異なる.また,腎機能,血圧,飲酒も影響因子である(表13-6-11).高尿酸血症は痛風発作を起こす原因となるが,高乳酸血症の人すべてが痛風となるわけではない.さらに,肥満や高脂血症,高血圧,動脈硬化,高インスリン血症など高尿酸血症に高頻度に伴う病態が痛風に関与しているということもない.急性の痛風は,尿酸ナトリウム塩の結晶が炎症反応の引き金となるが,尿酸結晶と炎症反応との間には多くの因子が関与しており,詳細は明らかでない.しかし,尿酸の結晶が好中球を刺激し活性化して関節内で炎症を惹起するため痛風発作が起こることは確実である.【⇨10-17】
治療
 高尿酸血症は,アロプリノールの投与により抑えられる.痛風発作に対しては,コルヒチンや抗炎症剤の投与が有効である.[田中あけみ]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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