「酒は百薬の長」といわれますが、最近の調査や研究では、「適量のお酒を飲んでいる人の死亡率が、まったく飲まない人、また大量に飲む人に比べて最も低い」というデータが相次いで発表されています。これには人種や性別、地域条件を超えた共通性がみられます。
これは、ストレス発散などの効用や虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症など)に対する予防効果などが原因と考えられています。日本の男性を対象とした研究では、平均して2日に日本酒に換算して1合(純アルコールで約20g)程度飲酒する人が、死亡率が最も低いとする結果が報告されています。
ただし、アルコールの許容量には個人差があること、また「適量」の概念があてはまらないケースがあること(アルコール依存症者や薬物乱用者、飲酒運転、未成年者、妊婦、その他)、もともと飲まない人に飲酒をすすめるものではないことに留意しなくてはいけません。
アルコールは、その大部分が肝臓で分解・代謝されます。アルコールは、まずアセトアルデヒドに分解され、次いで酢酸となり、最後に炭酸ガスと水になって体外に排出されます。その吸収や代謝の速度は、アルコール濃度や体重などの条件によって異なりますが、日本酒1合相当(約20gのエタノール量)のアルコールが分解され、体から抜けるためには、3.5~4時間が必要です。
また、いわゆる二日酔いとは、毒性の強いアセトアルデヒドが翌朝までに処理しきれず体に残っているため、嘔吐や頭痛、
生まれつきお酒に弱く、お酒を一口飲むだけで顔が赤くなる人がいる一方、どんなに飲んでも顔色が変わらない人がいます。
顔が赤くなる人は多くの場合、アセトアルデヒドを分解するために必要な酵素の一部を生まれつきもっていないため、体内のアセトアルデヒドの濃度が高くなってしまい、顔が赤くなったり、嘔吐や頭痛、頻脈、めまいを起こしやすい、遺伝的にお酒に弱い体質の人なのです。日本人には、このようなお酒に弱い体質の人が半数いるといわれています。
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飲酒は、意識状態の変容を引き起こします。このために交通事故などの原因のひとつとなるほか、短時間での多量飲酒による急性アルコール中毒は、死亡の原因になることがあります。
②長期飲酒による臓器障害
肝疾患、心臓病、がんなど、多くの疾患がアルコールとの関連があります(図8)。
③依存性
長期にわたる多量飲酒は、アルコールへの依存を形成し、本人の精神的・身体的健康を損なうとともに、社会への適応力を低下させ、家族など周囲の人々にも深刻な影響を与えます。
④未成年者への影響・妊婦を通じた胎児への影響
アルコールの心身に与える影響は、精神的・身体的な発育の途上にある未成年者においては大きく、このため、未成年者飲酒禁止法によって、未成年者の飲酒が禁止されています。また、妊娠している女性の飲酒は、胎児性アルコール症候群などの妊娠に関連した異常の危険因子です。
アルコールに関連する問題は健康に限らず、交通事故など社会的にも及ぶため、WHOでは、その総合的対策を講じるよう提言しています。日本では、アルコールに起因する疾病のために、2008年には年間2兆3000億円の医療費がかかっていると試算されており、アルコール乱用による本人の収入減などを含めれば、社会全体では約6兆6000億円の社会的費用になるとの推計があります。
血中アルコール濃度が上昇するにつれ、「ほろ酔い→
お酒は上手に飲むと、アルコール自体の効用により、健康にプラスになるといった研究報告が各方面でなされています。たとえば、適度の飲酒が血中の善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増加させて動脈硬化を防ぐことや、血液の凝固作用を抑制することが報告されています。そのほかにも、適度の飲酒の効果には以下のものがあります。
①食欲の増進
アルコールの刺激で胃液の分泌が盛んになり、消化を助けるため、食欲が増進します。
②ストレスの解消
ほろ酔い程度の飲酒は、日ごろ、私たちの欲求行動を抑制している理性のはたらきを適当にゆるめてくれます。このため、精神的な緊張から開放され、心がのびのびとして、ストレスの解消につながります。
③発想の転換
時には、発想の転換も重要です。ほどよいお酒で新しい考えがひらめいたり、発想を変えることができた経験は多くの人がもっています。
④疲労回復
アルコールには、体のすみずみの血管を拡張して、血液の流れを盛んにするはたらきがあり、体内にたまった疲労の元になる老廃物を洗い流してくれます。
適切な飲酒量とは、お酒に含まれているエタノール(アルコール)量でいうと、1日20gです。お酒の種類によってエタノール濃度は異なるので、お酒そのものの適量はそれぞれの種類で計算しなくてはなりません。
日本酒の場合、1合は180ml、アルコール度数は約15%です。エタノールの比重は0.8ですから、1合中のエタノール量は180×0.15×0.8となり、おおよそ22gになります(表18)。同様に計算すると、ウイスキーはダブル(60ml)で約21g、ビール中びん(500ml)で20gです。つまり1日の適量は、日本酒なら1合、ウイスキーならダブル1杯、ビールなら中びん1本となります。
(社)アルコール健康医学協会が、過剰な飲酒による障害を防ぎ、お酒の効用を生かして健康で楽しく飲酒できるような方法として「適正飲酒10カ条」を提案しています(表19)。
和田 高士
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…プロモーション効果は可逆的でありうるからである。 飲酒も発癌の危険を増加させる。アルコール自体は癌原物質ではないが,地方によっては,アルコール中にニトロサミン等癌原物質が混入していることがある。…
…そのほかに,糖尿病や消化吸収障害による便通異常などもみられるが,日本では欧米などでみられるような脂肪便をきたすほどの例は少ない。原因としては飲酒が最も重視されており,エタノールとして毎日120ml以上,日本酒に換算して連日3~4合以上を10年以上飲みつづけると,他臓器の障害とともに膵臓に不可逆性の障害を生じる危険性があると考えられている。ただ,大酒家のすべてがアルコール性慢性膵炎となるわけではなく,その発生には先天的要素も少なからず関与しているものと思われる。…
※「飲酒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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