大文字火(読み)だいもんじび

改訂新版 世界大百科事典 「大文字火」の意味・わかりやすい解説

大文字火 (だいもんじび)

京都市東部,左京区如意ヶ岳中にある通称大文字山で8月16日に焚かれる火のこと。盂蘭盆会(うらぼんえ)の送り火(おくりび)(精霊送り火)である。足利義政が創始したものというが,江戸時代初期にはじまったものと思われる。当時,旧暦7月6日に浄土寺村の者が,山から長さ2,3尺ばかりの松の木を切り出し,それを割って16日の晩に持ち上がり,大の字の跡で燃やした。文字は弘法大師の筆とも相国寺横川景三の筆ともいわれている。1734年(享保19)刊の《本朝世事談綺》によれば,大の字の横1画の長さは40間,その間の炬火は10個,左の縦1画は80間,炬火は20個,右1画は68間,炬火は29個であった。このまきをあやまって他のものに使用するとたたりがあると,今に伝えている。この他に北山の左大文字,左京区松ヶ崎付近の妙法,北区西賀茂の船形,右京区上嵯峨の鳥居形の送り火もある。京都の人々はこれらを鴨川辺で眺め,火の燃えている間にそばを1杯食べると悪事災難をまぬがれるといって,争って食べた。今では塗り盃の酒に大文字火をうつして飲む。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報