デジタル大辞泉 「送り火」の意味・読み・例文・類語
おくり‐び【送り火】
2 「
[補説]書名別項。→送り火
[類語]火・
盂蘭盆会(うらぼんえ)が終わり,精霊(先祖)を送るときに門の前や川,海浜などでたく火のこと。門火(かどび)ともいう。京都の大文字火が著名である。この火にのって先祖があの世へ帰るという。たとえば,岡山県邑久(おく)郡の盆送りには8月15日に麦わらの火をたき鉦をならして〈ぼにのほとけさまァ,これに付いていにゃァれ〉と唱えたという。
この精霊送りを14日の夜から15日の朝早くと,15日の夜に家の前や川や海浜で行うところが多い。もともと,夜に行われたために送り場所の川や海へ行くまでの間,実際上の明りとしての松明や提灯などが必要であった。そして,送り場所につくとろうそく,線香などをたて,水供養をし,供物をささげて先祖を送ったのである。のちには,秋の夜に美しく光る火に先祖の姿を重ねて,送り火にのって先祖が帰ると考えるようになった。
送り火として,大がかりな火祭も行われる。たとえば,淡路島の洲本では埋墓の上の丘で16日の夜,松明を縄の先につけてふりまわすという行事があるが,これも火を消さぬためにふりまわしていた松明が,“ふりまわす”ということに関心が移った結果である。火も法楽と考えられたことも火祭を盛んにさせた。盂蘭盆会に訪れるのは祖先や餓鬼だけでなく,邪悪な霊,たとえば病の神,稲虫などもくる。この邪悪な霊を送り火で送ることも行われた。このほか,葬式のときの出棺,嫁が家を出るときにも〈送り火〉がたかれる。
執筆者:田中 久夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
門火(かどび)ともいい、一般には盆が終わり、精霊(しょうりょう)を送るため、家の入口、四つ辻(つじ)、墓などで焚(た)く火のこと。所によっては葬式の出棺のまぎわ、あるいは婚礼のおり娘が生家を出るとき、家の入口で火を焚く習俗があり、これも送り火とか門火とよんでいる。埼玉県西部地方では6月1日に家の前で焚く火のことをさす。盆の送り火は、13日に焚く迎え火に対し、16日または24日、25日に焚く火をさし、先祖の霊魂の去来の道しるべというが、ほかの火焚きの習俗から考えて、本来は、火の力によって危険な悪霊を追い払うという絶縁を意味する火といえよう。6月1日の門火は、麦殻を燃やしたり、静岡県西部地方では線香を立てているが、この日は剥(は)け節供といって、祓(はらえ)の行事をする日であるところから考えて、身についた穢(けがれ)を追い払う火であることがわかる。
送り火は家々の行事になっている所が多いが、村共同で、小高い山の頂や、秋田県横手市のように川原で焚く所もある。京都東山の如意ヶ岳(にょいがたけ)の大文字焼(だいもんじやき)も、今日では夏の風物詩の一つになっているが、盆の送り火の名残(なごり)であり、共同体全体で精霊を送ることを表している。
[鎌田久子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
門火(かどび)の一つで迎え火に対するもの。一般に盂蘭盆(うらぼん)の最終日の旧暦7月15ないし16日の宵に,迎えた祖先・死者の霊を送るために門前で焚く火。盆の送り火の燃料はオガラや杉・松などの皮。もとは共同で行った正月の火祭同様の悪霊払いの行事で,仏教教化の影響で変化したもの。大勢で山に登り松明(たいまつ)をともして送り火とする例が残り,京都の大文字送り火はその代表。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…〈出立ちの膳〉を食べた後,仮門をくぐり出発する。一把わらで送り火を焚き,生前使用の茶碗を割る。たいまつ,花籠,四本旗,僧侶,盛物,樒(しきみ),傘,杖,位牌,膳飯,灯籠,棺,天蓋,会葬者の順でソウレン道を通って埋葬地まで行く。…
※「送り火」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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