鼉竜鏡(読み)だりゅうきょう

改訂新版 世界大百科事典 「鼉竜鏡」の意味・わかりやすい解説

鼉竜鏡 (だりゅうきょう)

古墳時代の仿製(ぼうせい)鏡の一種。内区の主要図像として,4ヵ所の乳(にゆう)(突起)にからむように長大な体軀をもつ怪獣像が配され,この像が古代中国の,ワニに似るという空想上の動物〈鼉竜〉を連想させることからこの名がつけられた。しかしこの怪獣像は,中国製の画文帯環状乳神獣鏡を手本とし,そこにある神仙を背にのせた竜虎のたぐいの像を見て,古墳時代の鏡工人がさらに想像をはせて独自の怪異な像に作りかえたものである。また鼉竜鏡に特徴的な,内区外周をめぐる怪鳥風の図様をならべた文様帯も,画文帯のなかの図様の一つを取り出し,怪奇な像に仕上げたものである。ただしこれらの図像は,完全な形では少数の作品に登場するのみで,短期間に変貌していくところからみて,古墳時代人に広く認知されていたイメージを具象化したものでなく,ある工人個人の想像の産物であった可能性が高い。古墳時代の仿製鏡がそなえた,複雑で怪異な様相を代表する作品である。径40cmを超える大型品もある。
仿製鏡
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世界大百科事典(旧版)内の鼉竜鏡の言及

【仿製鏡】より

… 仿製鏡には,中国鏡の図像を換骨奪胎し,独得の主要図像とした類もある。その代表は鼉竜鏡(だりゆうきよう)で,あたかも一つの頭部に正面形と側面形の二つの胴部がついたような怪獣像が配されている。しかしこの怪獣像は,その製作にあたった工人,または工人グループが考案した図像であって,広く認知されていた怪獣のイメージを図像化したものではなかったらしい。…

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