ワニ(読み)わに(英語表記)alligator

翻訳|alligator

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ワニ
わに / 鰐
alligatorcrocodile

爬虫(はちゅう)綱ワニ目に属する動物の総称。この目Crocodiliaの仲間は、中生代に繁栄した祖先型と基本的に形態がほとんど変化しないまま生存を続けてきた大形の爬虫類で、化石種は現生ワニ類の研究に重要な役割を果たしている。現生種は2科9属23種(亜種を含めると約40種類)が知られ、世界の熱帯、亜熱帯に広く分布し、少数が温帯地方に及んでいる。大半が全長3~4メートルで、大形種の最大は6~7メートルに達するが、最小種は全長1メートル余りの小形である。[松井孝爾]

形態

ワニは現生爬虫類ではもっとも大形の一群で、陸上よりもむしろ水中生活に適応した体構造をもっている。体形は細長く胴はやや扁平(へんぺい)で、尾が強大で長く後半部で側扁する。頭部が大きく吻部(ふんぶ)は長く扁平で、吻端が隆起し上面に1対の外鼻孔が開く。外鼻孔は堅い口蓋(こうがい)によって口腔(こうこう)と仕切られ、咽喉部(いんこうぶ)付近にある内鼻孔と長い鼻孔によって通じている。このため、獲物をくわえて水中に沈め、外鼻孔のみ水面に出して呼吸し、獲物を窒息死させることができる。ワニが体を水中に沈めるとき、突出した外鼻孔、目、耳孔のみ水面上に現れ、まるで浮木のようにみえる。目は大きく、瞳孔(どうこう)は縦長で明るい場所では細く絞る。眼瞼(がんけん)は可動。夜間、光に当たった目が赤く輝くのは、夜間透視用のロドプシン色素が網膜後方で反射するためである。水中では目は透明な瞬膜で覆われ、外鼻孔と鼻孔は弁によって閉じられる。また水中で口を開いたとき、口蓋弁と舌基弁とが密着することで口腔部が閉ざされ、気管や食道には水が入らない。歯は槽生(顎骨(がくこつ)の溝または穴に歯が挿入されている)で、頑丈なあごには上下各15~22個ほどの鋭い歯が並ぶが、上顎(じょうがく)がやや多く、最多はガビアルGavialis gangeticusの上顎28~29、下顎25~26個である。四肢は短いが太く、指は前肢で5本、後肢は4本で趾間(しかん)には水かきが発達する。全身は堅い大形の鱗板(りんばん)で覆われるが、その鱗板は背面では骨質の小板を含んで隆起し、連続した縦条として配列する。尾部の背稜(はいりょう)は鋸歯(きょし)状の尾櫛(びしつ)となる。腹面の鱗板は滑らかで、アリゲーター科では皮骨を含んでいる。頭骨は堅固で側頭窓が上下2個ある原始的な一面を残すが、体構造は爬虫類ではもっとも進化したものがみられる。肋骨(ろっこつ)は発達して胸郭を形成し、胸郭と腹腔とは隔膜で仕切られ、腹腔部はガストラリアとよばれる7~8本の軟骨性腹肋骨で補強されている。[松井孝爾]

生理

視覚、聴覚および嗅覚(きゅうかく)が発達し、食道は伸縮性があって大きな餌(えさ)の収納場所ともなる。よくみられる前胃(砂嚢(さのう))の胃石は体のバランスを保つにも役だち、とくに子ワニはよく石を飲み込む。心臓は鳥や哺乳類(ほにゅうるい)同様に2心房2心室に区分され、隔壁はほぼ完全であるが、一部がパニッツア小孔で結ばれ、動脈血と静脈血とが多少交じり合う。しかし潜水して肺呼吸による酸素血の供給が停止すると、左右の循環系の両方を利用することができる。肛門裂(こうもんれつ)は体軸に平行で陰茎は単一。肛門裂の左右と下顎後部には臭腺(しゅうせん)があって、繁殖期にはフェロモンを分泌する。すべて卵生で、多くの種では雌が岸に泥や植物片で巣をつくり、産卵後はこれを守る。ミシシッピワニでは6~8月ごろ高さ1メートル、直径2メートルに及ぶ大きな巣をつくり、頂部を掘って平均40~60個ほどを産卵する。卵は白色の堅い殻に包まれ、60日ほどで孵化(ふか)する。子ワニは吻端の卵歯で殻を破るが、母ワニは孵化を助け、翌春まで子ワニの世話をする。温帯にすむミシシッピワニとヨウスコウワニとは寒冷期に冬眠を行う。寿命は30~50年余りである。[松井孝爾]

生態

河川、湖沼の淡水系に分布し、一部は河口の汽水域や海岸にも生息し、イリエワニは外洋にも泳ぎ出て太平洋の諸島にも分布を広げている。水中では四肢を体側につけ尾を左右に振って泳ぐが、四肢を用いることもある。陸では胴を持ち上げて歩くが、驚くと胴をくねらせ滑るように走り、水に飛び込む。昼間は岸で日光浴をしたり木陰で休むが、群れは同一サイズの個体で構成される。夜間は水に入り、水を飲みにくる獲物を水際で待ち伏せしてとらえる。大きな獲物は「ワニのツイスト」とよばれる回転運動によりかみ切るが、かみ切りやすくするために複数が逆回転して協力することもある。餌は哺乳類、水鳥、カエル、魚類などで、幼体では甲殻類、昆虫などである。繁殖期には前述のように臭腺からフェロモンを分泌するほか、雄は大きなほえ声をたてる。[松井孝爾]

系統・分類

ワニの祖先型は三畳紀後期に槽歯目(テコドント)から分化し、ワニ目に含まれる多くの大形種が出現した。最初のものは原鰐(げんがく)亜目に属するプロトズークスなどで、全長1メートル程度の小形であった。現生ワニ類のすべてが含まれる正鰐(せいがく)亜目には、全長14メートルに達する白亜紀のフォボスカスなどの淡水生から海洋生までの大形種が含まれ、強力な爬虫類として現在に至っている。ワニ類は頭骨の構造などから鰐形亜綱Archosauriaに属する一群として、系統的に大形恐竜類と類縁の近いものとされる。
 ワニ目Crocodiliaの現生種は、歯や内鼻孔などの形状の相違により、アリゲーター科Alligatoridaeとクロコダイル科Crocodylidaeの2科に分類される。アリゲーターは口を閉じたとき、下顎歯は上顎歯の内側にかみ合わされ、第4下顎歯も上顎の穴に収まって外から見えず(例外もある)、上顎の第4歯が最大である。クロコダイルの大半は吻部が細長く、口を閉じたとき上下顎の歯は同じ垂直面上で互いにかみ合わされ、第4下顎歯もくぼみに収まって外から見え、上顎の第5歯が最大である。クロコダイルでは腹面の各鱗板に小孔があるが、アリゲーターにはなく、両者では内鼻孔や脊椎骨(せきついこつ)の形状にも相違がみられる。ガビアルは前上顎骨が上顎骨によって隔てられ鼻骨と相接しないため、独立の科に分けられることもある。
(1)アリゲーター科 4属7種が含まれ、アリゲーター亜科にはアリゲーター属AlligatorのミシシッピワニA. mississippiensisとヨウスコウワニA. cinensisの2種が含まれる。カイマン亜科には、カイマン属CaimanのメガネカイマンC. crocodilusとクチヒロカイマンC. latirostris、および全長3~5メートルで性質の荒いクロカイマンMelanosuschus nigerと全長1~1.7メートルのコビトカイマン属Paleosuchus2種が含まれる。ヨウスコウワニが中国の長江(ちょうこう)(揚子江(ようすこう))下流域に分布する以外はすべてアメリカ大陸に分布するが、化石種はユーラシアの各地で発見されている。
(2)クロコダイル科 5属16種が含まれ、クロコダイル亜科には大形のクロコダイル属Crocodylus11種と、小形のコビトワニ属Osteolaemus2種が属している。全長の最大が約7メートルに達するのはナイルワニC. niloticus、イリエワニC. porosus、アメリカワニC. acutusで、性質も荒く、とくにイリエワニは人間や家畜を襲う危険種である。ガビアル亜科は吻部が極端に細長い一群で、ガビアル属Gavialis、トミストマ属Tomistoma、クチナガワニ属Mecistopsの3属各1種で、大阪府の豊中(とよなか)市で化石が出土したマチカネワニT. machikanenseも含まれる。[松井孝爾]

利用

ワニ皮は高級皮革製品として大量に利用され、とくに腹面に皮骨を欠くクロコダイル類が歓迎された。また狩猟の対象としても乱獲された結果、現在では各種とも減少し、一部の種は保護下に置かれるとともに人工増殖が試みられている。しかし、種によっては子ワニは各地でペットとして飼育される。[松井孝爾]

人間との関係

熱帯地方では、ワニは人々に非常に恐れられているが、一方で神聖視もされている。インドネシアのトラジャやニューギニアの諸集団の間では、ワニは祖先の化身であると信じられ、多くの彫刻のなかにその姿を現している。またインドでは、ワニの神マガールを祀(まつ)るが、実際にワニを飼って崇拝する地方もある。古代エジプトにおいてもワニは神聖な動物で、ワニの頭をした神セベクを崇拝するために、聖所では特別に飼っているワニに祭司が食物や酒を供えた。
 アフリカの多くの地方で、ワニは水の神、あるいは精霊の化身と信じられており、トーテムとする氏族も各地にみられ、自らをワニの子孫と信じる人々はみだりにワニを殺さず、また川を渡ってもワニからは危害を加えられないと信じている。ワニの内臓や歯はアフリカの各地で強力な呪薬(じゅやく)の成分として用いられており、南スーダンのアザンデの社会では、人々はワニの牙(きば)を姦通(かんつう)防止の呪物として用いている。[濱本 満]
『中村健児・上野俊一著『原色日本両生爬虫類図鑑』(1963・保育社) ▽『小学館の学習百科図鑑36 両生・はちゅう類』(1982・小学館) ▽『学研の図鑑 爬虫・両生類』(1987・学習研究社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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