アエドン
Aēdōn
ギリシア伝説で,テーバイ王ゼトスの妻。ゼトスとのあいだに一子イテュロスをもうけたが,夫の双生の兄弟アンフィオンの妻ニオベに多くの子どもがあるのを嫉妬し,イテュロスとともに養育されていたニオベの長男の殺害をくわだてた。しかし夜陰に乗じて子どもらの寝室にしのびこんだ彼女は,誤ってわが子を殺したため,悲嘆にくれているところをゼウスによってウグイス(ギリシア語でアエドン)に変えられた。春のウグイスのさえずりは,わが子を刃にかけたアエドンの嘆きであるという。この話はホメロスの《オデュッセイア》の中で,オデュッセウスの貞淑な妻ペネロペによって言及されているが,実子イテュスを殺して同じくウグイスに変容させられたフィロメラ(またはプロクネ)の話としばしば混同される。19世紀の英詩人スウィンバーンの《イテュルス》も,その題名にもかかわらず,明らかにイテュスのことを歌った詩である。
執筆者:水谷 智洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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アエドン
あえどん
Aēdōn
ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』で、ゼウスに罰せられたパンダレオスの娘。彼女はテバイ(テーベ)の王ゼトスとの間にイティロスとネイスの2人をもうけたが、彼女は夫の兄弟であるアンフィオンの妻ニオベが14人の子を生んだのをねたみ、ニオベの長男を殺そうと企てた。しかし忍び込んだ寝室にはイティロスもともに寝ていたため、彼女は誤ってわが子を殺してしまう。悲しみにくれる彼女を哀れんだゼウスは、アエドンの姿をナイチンゲール(アエドン)に変えた。
また別の説では、アエドンは芸術家ポリテクノスの妻で、夫婦仲のよさを自慢したため女神ヘラの怒りを招き、2人は仲たがいする。男は車作りで、女は機織(はたお)りで競争するが、女が勝ったために男は腹いせに女の妹ケリドンを約束の召使いに仕立て、真実をいえば殺すと脅して女に与える。妹の嘆きで真実を知った女は父や兄弟とともに男を捕らえるが、男の身に同情した女の家族は女をも殺そうと企む。結局この一家を哀れんだゼウスがアエドンをウグイスに、ケリドンをツバメに、そしてほかの家族の者たちもそれぞれ鳥に変えたという。
[小川正広]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
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世界大百科事典(旧版)内のアエドンの言及
【フィロメラ】より
…しかしフィロメラは,苦心の末,みずからの不幸を告げる文字を長衣に織り込んで姉に伝えたので,プロクネは妹を探し出し,復讐にイテュスを殺してその肉を夫に供した。これを知ったテレウスは逃げる姉妹を追ってフォキス地方のダウリスまで来たが,同地でまさに二人を捕らえんとしたとき,姉妹の祈りを聞き届けた神々がプロクネをウグイス(ギリシア語で[アエドン])に,フィロメラをツバメに,またテレウスを冠毛をいただくヤツガシラに変じた。以後ダウリスでは,ツバメは巣をつくらず,ウグイスは姿を見せなくなったという。…
※「アエドン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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