オデュッセイア(読み)おでゅっせいあ(英語表記)Odysseia

日本大百科全書(ニッポニカ) 「オデュッセイア」の意味・わかりやすい解説

オデュッセイア
おでゅっせいあ
Odysseia

イリアス』とともにホメロスの作とされる古代ギリシア英雄叙事詩。今日では『イリアス』より約一世代遅れて紀元前8世紀末に制作されたもので、その作者も『イリアス』の作者と同一人ではないと考える学者が多い。『イリアス』より約3000行短く、1万2000行にわずかに足りない。『イリアス』同様24巻に分かれ、ギリシア語アルファベット24字で順序を示す。題名は「オデュッセウスの歌」の意で、トロヤ落城後、さらに10年にわたって各地を放浪した英雄オデュッセウスを主人公とした冒険談である。

 物語は放浪生活も終わりに近く、オデュッセウスはニンフカリプソに愛され、オギュギエの島に留められてすでに7年になる時点から始まる。一方オデュッセウスの故国イタケでは、彼はすでに死亡したものとして、近隣の貴族の若者たち多数が妃(きさき)ペネロペイアに求婚し、屋敷に居座っては宴遊に明け暮れ、妃とひとり息子のテレマコスを悩ましている。やがてオデュッセウスは故国へ帰り、テレマコスと力をあわせて悪虐な求婚者たちをことごとく討ち果たすまでの、約40日間のできごとが詩の内容である。

 冒頭、神々の会議が開かれ、アテネ発議でオデュッセウスを帰国させることが決定される。巻1~4では、アテネに激励されたテレマコスが、求婚者たちに対抗する決意を固めるとともに、父の消息を求めて、ピロスネストルスパルタメネラオスを訪ねる。巻5から話はオデュッセウスに移り、神ヘルメスがカリプソにゼウスの意を伝え、オデュッセウスは筏(いかだ)に乗って帰国しようとするが、ポセイドンの起こした嵐(あらし)で難破し、からくもスケリエ島に漂着、ここの住民パイエケス人の保護を受ける。巻6~12は、パイエケス人の王アルキノオスの館(やかた)で、オデュッセウスが物語る数々の冒険談がその大部分を占める。

 物語のほとんどすべては、隻眼(せきがん)の巨人キクロペスや歌う魔女セイレンなどの怪異談である。巻13でイタケに帰還したオデュッセウスは、テレマコスと忠義な豚飼いエウマイオスの協力を得て、悪人たちを討ち、妻ペネロペイア、老父ラエルテスと再会、求婚者たちの遺族との対決も、アテネの介入によって回避され、万事めでたく終わる。全編中カリプソの島の美しい自然描写(巻5)、パイエケスの王女ナウシカアのかれんな姿(巻6)、キクロペスの物語(巻9)、乳母(うば)に足を洗わすとき古傷を見られて素姓を悟られる場面(巻19)、かたくなに認知を拒むペネロペイアが、ついにオデュッセウスを夫と認めるくだり(巻23)などは、とくに印象深い名場面である。

[松平千秋]

『呉茂一訳『オデュッセイアー』全2冊(岩波文庫)』『松平千秋訳「オデュッセイア」(『世界文学全集1』所収・1982・講談社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オデュッセイア」の意味・わかりやすい解説

オデュッセイア
Odysseia

ギリシアのホメロスの英雄叙事詩。 24巻。ギリシア軍のトロイ攻略後の帰国物語の一つで,知将オデュッセウスが帰国の途中,海の神のたたりで船を地中海の各地に押し流され,数々の苦難と冒険ののちに,パイアケス人の王アルキノオスの援助で 10年にわたる放浪を終えて 20年ぶりに故郷のイタカに帰り,息子テレマコスに会って留守の間のことを聞き,妻ペネロペイアに求婚する無頼漢どもが自分の財産を食いつぶしているのを知ると,浮浪者に変装して乗込み,求婚者どもを退治して,貞淑な妻に再会する。同じ作者の『イリアス』に比べて,物語の構成は複雑に入組み,変化に富んでいる。

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