フィロメラ(その他表記)Philomēla

改訂新版 世界大百科事典 「フィロメラ」の意味・わかりやすい解説

フィロメラ
Philomēla

ギリシア伝説で,アテナイ王パンディオンPandiōnの娘。トラキア王テレウスTēreusに嫁いだプロクネProknēの妹。テレウスはプロクネとの間に1子イテュスItysをもうけていたにもかかわらず,プロクネが死んだと偽ってフィロメラを呼び寄せ,彼女を犯したあげく,口封じにその舌を切った。しかしフィロメラは,苦心の末,みずからの不幸を告げる文字を長衣に織り込んで姉に伝えたので,プロクネは妹を探し出し,復讐にイテュスを殺してその肉を夫に供した。これを知ったテレウスは逃げる姉妹を追ってフォキス地方のダウリスまで来たが,同地でまさに二人を捕らえんとしたとき,姉妹の祈りを聞き届けた神々がプロクネをウグイス(ギリシア語でアエドン)に,フィロメラをツバメに,またテレウスを冠毛をいただくヤツガシラに変じた。以後ダウリスでは,ツバメは巣をつくらず,ウグイスは姿を見せなくなったという。この話はオウィディウスの《転身物語》でよく知られるが,ただし,彼をも含めたローマの著作家は姉妹の変容した鳥を逆にして伝えたため,近代西欧語でもフィロメラの名はウグイス(あるいはナイチンゲール)の代名詞として用いられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィロメラ」の意味・わかりやすい解説

フィロメラ
ふぃろめら
Philomela

ギリシア神話のアテナイ(アテネ)王パンディオンの娘。パンディオンはテバイテーベ)のラブダコス領土の境界線について争ったとき、トラキス王テレウスの援助で勝つことができたため、彼に娘プロクネを与えた。しかしテレウスは、やがてイテスが生まれるとパンディオンのもう1人の娘フィロメラに恋着する。そしてプロクネが死んだと欺いて彼女を呼び寄せ、犯したうえに口外を恐れて彼女の舌を切り取り、幽閉してしまう。フィロメラはしかたなく自分の不幸の一部始終を長衣に織り込み、それをひそかにプロクネのもとへ届けさせた。事の次第を知ったプロクネは、フィロメラを救い出し、復讐(ふくしゅう)のためテレウスに殺したイテスを食べさせてから、彼に向かってイテスの首を投げつけた。テレウスは2人を追いかけ、逃げる2人が神に祈ったところ、プロクネは鶯(うぐいす)に、フィロメラは燕(つばめ)に、テレウスは頭に逆毛をなびかせるヤツガシラに身を変じた。オウィディウスによれば、プロクネとフィロメラの変身が逆になっているが、いずれにせよ、鶯と燕とヤツガシラの特色の由来を説明する民間説話である。

[伊藤照夫]

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世界大百科事典(旧版)内のフィロメラの言及

【アエドン】より

…春のウグイスのさえずりは,わが子を刃にかけたアエドンの嘆きであるという。この話はホメロスの《オデュッセイア》の中で,オデュッセウスの貞淑な妻ペネロペによって言及されているが,実子イテュスを殺して同じくウグイスに変容させられたフィロメラ(またはプロクネ)の話としばしば混同される。19世紀の英詩人スウィンバーンの《イテュルス》も,その題名にもかかわらず,明らかにイテュスのことを歌った詩である。…

【ナイチンゲール】より

…したがってこの鳥をめぐる伝説も多い。ギリシア神話ではフィロメラあるいはプロクネがナイチンゲールに姿を変えられたという。北欧神話では,フレイヤが長旅に出た夫を慕って探し回ったとき,哀愁をおびた歌をうたって慰めたのは彼女のお気に入りのこの鳥だったという。…

※「フィロメラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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