デジタル大辞泉 「アシネトバクター」の意味・読み・例文・類語 アシネトバクター(Acinetobacter) 土壌・河川・下水などに生息するグラム陰性の好気性細菌。通常は無害。病院内にも存在し、院内感染や日和見感染の原因となることがある。 出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例 Sponserd by
知恵蔵 「アシネトバクター」の解説 アシネトバクター 細菌(バクテリア)の一種で属名。好気性で湿潤環境を好むが、乾燥状態にあっても数日間は生きている。グラム染色においてはクリスタル・バイオレットが脱色されるグラム陰性を示す。形状は、短い棒状の桿菌(かんきん)である。 アシネトバクター属としては22種が確認されており、帝京大学医学部附属病院(東京都板橋区)で2009年から10年にかけ大規模な院内感染事故を引き起こしたのは、このうちのアシネトバクター・バウマニという種の多剤耐性菌だった。多剤耐性のアシネトバクター・バウマニは、multi-drug resistant Acinetobacter baumannii の頭文字をとり、MDRABあるいはMRABと略される。 アシネトバクターは一般的な環境に普通に存在する細菌で、健康な人が感染しても特に何も症状が表れないまま代謝される。しかし、免疫力の低下した人が感染すると、様々な症状を引き起こし、このことを日和見感染という。医療施設には化学療法などにより免疫力の下がった患者が多数入院しているため、いったん感染者が出現すると、医療器具や医療従事者を通じて院内感染が起こり拡大するリスクが高まる。 アシネトバクターは、手や医療機器などに付着して運ばれ、それが何かのきっかけで口に入ったり、傷口に付くなどして感染症を起こす。主な感染症としては、肺炎、敗血症、尿路感染症、傷口の感染があり、治療には抗生物質が用いられる。ただし、遺伝子の変異によって多剤耐性を獲得したアシネトバクターによって発症した場合は治療が難しく、帝京大学医学部附属病院の例に限らず海外でも院内感染による死亡例が多数報告されている。特に日本では、海外でMDRABに有効であると確認されているいくつかの薬剤がまだ承認されていないという問題がある。 厚生労働省院内感染サーベイランス事業による最新の集計データによれば、07年7月から09年12月までの2年半で、全国の検査室から分離されたアシネトバクターは全菌株の2.2%(3218820株中71657株)を占めている。このうち多剤耐性を示したのは98株で0.14%だった。 院内感染予防策として、アルコール系消毒薬による手洗いと、医療機器などの加熱消毒やアルコール系消毒薬による環境衛生管理が必須であり、多剤耐性菌の保菌者が見つかった場合はその患者を隔離する。 (石川れい子 ライター / 2010年) 出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報 Sponserd by