日本大百科全書(ニッポニカ) 「イヌ回虫」の意味・わかりやすい解説
イヌ回虫
いぬかいちゅう
[学] Toxocara canis
線形動物門双腺(そうせん)綱回虫目に属する寄生虫。子イヌの小腸に寄生し、雄の体長4~8センチメートル、雌5~18センチメートルで、感染は経口と経胎盤による。
経口感染では、含幼虫卵がイヌの小腸内で孵化(ふか)し、幼虫はヒトの回虫と同じような体内移行ののち、生後約4か月以内の子イヌでは小腸内で成虫になる。しかし成長したイヌでは成虫にならずに、いろいろな臓器組織内で幼虫のままとどまり、雌イヌが妊娠すると胎盤を経由して胎仔に移行する。子イヌに寄生する成虫はほとんど胎盤感染によるものである。ノネズミなどの非固有宿主がイヌ回虫の卵を摂取すれば、体内で孵化した幼虫は全身のいろいろな組織内にとどまり、ネズミがイヌに食べられると幼虫はイヌに感染する。人間の幼児が感染した子イヌと遊んだり、土いじりなどをしてイヌ回虫の卵を飲み込むと、ノネズミの場合と同じように、幼虫は幼児のいろいろな臓器組織へ侵入して、発熱、肝腫大(かんしゅだい)、肺浸潤(はいしんじゅん)、慢性好酸球増多症などの原因となる。このようにイヌ回虫はヒト(とくに幼児)にとっても注意すべき寄生虫である。
[町田昌昭]