共同通信ニュース用語解説 「ネズミ」の解説
ネズミ
強力な前歯を持ち、しっぽが細長いのが
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翻訳|rat
強力な前歯を持ち、しっぽが細長いのが
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哺乳(ほにゅう)綱齧歯(げっし)目ネズミ亜目に属する動物の総称。
この亜目Myomorphaを含む齧歯目は、約300属5000種が属する哺乳類中最大のグループで、哺乳類の種の約3分の1が含まれる。繁殖力が強いので個体数も多く、南極大陸を除く全世界に分布している。北アメリカの暁新世の地層から発見されているパラミス類Paramidが、齧歯類の祖先型と考えられている。門歯(切歯)は上下各1対で、一生伸び続け(無根歯)、犬歯と小臼歯(しょうきゅうし)の多くが退化して、歯列に広い歯隙(しげき)がみられる。臼歯の咬合(こうごう)面は複雑で、植物質の食物をすりつぶすのに適した形態になっている。齧歯目は頭骨と咬筋の形態の特徴によって、リス亜目Sciuromorpha、ネズミ亜目、ヤマアラシ亜目Hystricomorphaの3亜目に大別される。
[宮尾嶽雄]
ネズミ亜目の仲間は頭胴長5~50センチメートル、尾長0~40センチメートル、体重6~2000グラム。乳頭は胸部から腹部、鼠径部(そけいぶ)に至る線上に形成されるが、どの部位に何対生ずるかは、種によってほぼ一定しており、種間の差が著しい。もっとも多いのはゴールデンハムスターMesocricetus auratusの7~8対、もっとも少ないのはカゲネズミEothenomys kageusの2対である。乳頭の数は、1回の産子数、すなわち繁殖力と密接な関係をもっている。
ネズミ亜目の咬筋は、リス亜目、ヤマアラシ亜目より進んだ特徴をもち、より複雑なあごの運動を可能にしている。すなわち、眼窩(がんか)下孔が大きく、内側咬筋がそれを通り、浅咬筋の前部は頬骨弓(きょうこつきゅう)ではなくて吻部(ふんぶ)からおこっているのがそれである。切歯は上下各1対でのみ状、前面のみがエナメル質に覆われ、鉄分を含んで赤褐色をしている。生涯歯根ができず、伸び続ける。犬歯はない。大部分のものは小臼歯もなく、大臼歯は上下各側に3本であるが、2本だけの種もみられる。切歯と臼歯の間は、広い歯隙となり、切歯でかじり取った食物として不適当な部分は、このすきまから口の外へ出す。現生齧歯類の種数の約3分の2を占めており、ネズミ亜目の種の自然分布をみないのは南極大陸とニュージーランドだけである。しかし、ニュージーランドにも、1770年ごろのキャプテン・クックの探検後に、ネズミ類が入り込んでいる。
[宮尾嶽雄]
ネズミ亜目は、ネズミ上科Muroidea、ヤマネ上科Gliroidea、トビネズミ上科Dipodoideaの3上科に大別される。
(1)ネズミ上科にはキヌゲネズミ科Cricetidae、ネズミ科Muridae、メクラネズミ科Spalacidae、タケネズミ科Rhizomyidaeがある。キヌゲネズミ科とネズミ科は、ネズミ亜目のなかでももっとも繁栄しているグループである。キヌゲネズミ科はツンドラ地帯から熱帯雨林にわたって広く分布している。漸新世初期からユーラシアを中心に発展し、鮮新世には北アメリカやアフリカにも広がった。歯式は
の16本。大臼歯の咬合面はエナメル質がひだ状に折れ曲がって複雑な形態を示している。大臼歯が無根歯であるものも多い(日本ではハタネズミ、ニイガタヤチネズミ、スミスネズミなど)。キヌゲネズミ科には、ヨーロッパ、アジアの草原にすむキヌゲネズミ属Cricetulus、ヨーロッパ、アジア、北アフリカのハタネズミ属Microtus、北アメリカのシロアシネズミ属Peromyscus、大発生で有名なレミング属Lemmus、ヒマラヤの高地にすむアルテコラ属Alticola、中央アジアの砂漠にすむスナネズミ属Meriones、南アメリカの渓流にすむイクチオミス属Ichthyomys、毛皮獣のマスクラット属Ondatra、実験動物として有名なハムスター属Mesocricetusなど約100属があり、あらゆる環境に進出して生活している。日本にはエゾヤチネズミ、ミカドネズミ、ヤチネズミ、スミスネズミ、ハタネズミなどがいる。
ネズミ科は鮮新世以降にユーラシアの温帯から熱帯で大発展を遂げ、一部はアフリカにも入っている。歯式は
の16本。ネズミ科には、ヒトに伴ってほぼ全世界に広く分布しているドブネズミRattus norvegicus、クマネズミRattus rattus、ハツカネズミMus musculusのイエネズミ(家鼠)類3種をはじめとして、ネズミ亜目最大で体重2キログラムに達するフィリピンのクモネズミ属Phloeomys、オーストラリアで水中生活をするミズネズミ属Hydromys、イネ科草本の茎の間に球形の巣をつくるカヤネズミMicromys minutusなど101属ほどが知られており、生活様式や形態に著しい多様性がみられる。日本にはアカネズミ、ヒメネズミ、カヤネズミ、アマミトゲネズミ、ケナガネズミなどがいる。メクラネズミ科はメクラネズミ属Spalaxの1属だけで、東部地中海地方および南東ヨーロッパに分布し、目や耳介が退化する一方、手のつめは著しく発達し、地中生活に適応したものである。タケネズミ科には東アフリカと東南アジアに3属が知られている。タケネズミ属Rhizomysは中国南西部に分布し、タケの根や茎を食べる。
(2)ヤマネ上科にはヤマネ科Gliridae、トゲヤマネ科Platacanthomyidae、サバクヤマネ科Selevinidaeの3科がある。ヤマネ科はヨーロッパ、北アフリカ、アジアに分布し、7属ほどが知られており、歯式は
の20本。樹上生活をし、ネズミ亜目の祖型に近い形態をとどめている。冬眠する哺乳類として有名である。日本には本州、四国、九州にヤマネGlirulus japonicusがいる。トゲヤマネ科はインド、中国南部に2属がある。歯式は
の16本。サバクヤマネ科はカザフスタン砂漠に1属が知られている。歯式は
の16本。
(3)トビネズミ上科にはオナガネズミ科Zapodidaeとトビネズミ科Dipodidaeの2科がある。オナガネズミ科はユーラシアと北アメリカに分布し、4属が知られている。歯式は
の16本、または
の18本。トビネズミ科は跳躍運動への特殊化を示しており、後肢は長い。後足は第1指と第5指が縮小または退化消失し、第2~第4指は癒着している。尾も長く、先端は房状になっている。目も大きい。中央アジアからアフリカの砂漠地帯に分布しており、10属ほどが知られている。歯式は
の16本、または
の18本である。
[宮尾嶽雄]
ネズミは大部分が植物食で、草の葉、茎、根、種子、果実、幼樹の樹皮や根を食べているが、昆虫類、ミミズ類などの小動物も食べる。きわめて多産性で、その結果個体数が多い。生息環境もきわめて多様である。イヌ科、ネコ科、イタチ科などの哺乳類、肉食性鳥類、ヘビ類などの食物源としてもっとも重要なものとなっている。大部分の種が、地下にトンネルを掘り巡らして生活しているが、これによって土壌が耕され、土壌の通気性を高めている。大量の食物摂取に伴って糞(ふん)量も多いため、生態系における物質循環を速め、土壌の肥沃(ひよく)化をもたらしている。このため、ネズミ類の除去が土壌の不毛化をもたらすこともある。日没後と日の出前に活動のピークがみられる。しかし、幼獣は食物要求量が大きく、日中も活動する。これは、成長が旺盛(おうせい)であることのほかに、代謝消費を1日の間にうまく配分する能力が未発達であることにもよる。カロリーの低い植物繊維を主食にしている種(たとえばハタネズミ)では、1日の活動回数が多い。ネズミ類は小形であるために、好適な微気象条件の場所や隠れ場を至る所に求めることができる(たとえば地中、落葉層の下など)。また小形であるために発情周期が短く繰り返されるので多産性となり、寿命が短く世代の回転が速いから、環境条件の悪化による打撃からの回復が容易であり、変異性も大きくなるため、地域ごとの特殊な条件にもよく適応できる結果になっている。四季の変化の著しい地方では、食物条件の悪化に先だって、食物を蓄える習性が多くの種でみられる。ネズミの貯食を、シマリスやクマ、ヒトも利用することがある。
[宮尾嶽雄]
国連食糧農業機関(FAO)の調査によれば、アジアでは穀物の全生産量の20%以上がネズミに食べられており、全世界の平均をとっても、農産物の10%以上がネズミに食べられているという。冬の間、雪の下で牧草の根が食べられてしまうため、牧草地が壊滅的な打撃を受けることもある。日本では北海道でエゾヤチネズミ、本州でハタネズミ、四国でスミスネズミが造林木や農産物を食害する。イエネズミ類による家屋や電線などの破壊、貯蔵食糧の食害も大きい。
また、各種疾病の媒介者としてのネズミの存在も大きい。ペストは本来ネズミの病気で、ネズミに寄生しているケオプスネズミノミがこれをヒトに伝染させる。古代アテネやローマ帝国の滅亡は、ペストに原因があったともいう。日本でも明治30年代に神戸、大阪、東京などにペストの流行をみている。主役はクマネズミであったようである。そのほかドブネズミ、ハタネズミによる鼠咬症、黄疸(おうだん)出血性レプトスピラ病(ワイル病)、ハタネズミ、アカネズミとツツガムシによるつつが虫病、イエネズミとヤマトネズミノミによる発疹熱(ほっしんねつ)、ハタネズミによる泉熱(いずみねつ)、イエネズミによる食中毒など、ネズミが関係している疾病はきわめて多い。高熱、急性腎炎(じんえん)、肝炎などを併発する韓国型出血熱のウイルスが、日本のアカネズミ、ハタネズミなどにもかなり広がっていることも明らかになってきている。また、乳児がドブネズミにかみ殺される事件もあるほか、ネズミによってガス管がかじられたためのガス爆発やガス中毒、電線をかじったための漏電も少なくない。このため、ネズミ駆除を専門にする会社も増加している。家庭でできる駆除手段としては、各種殺鼠剤(さっそざい)のほかに、籠(かご)わな、弾(はじ)きわな(パチンコ)、強力な粘着紙を用いた捕鼠器などが市販されている。ネズミ駆除は、地域ぐるみで一斉に実施しないと実効はあがりにくい。また、家屋内外を清潔に保ち、ネズミの食物源を断つことが肝要である。しかし、特定動物の大発生には生態系の人為的な単純化にその原因がある場合が多いため、駆除のほかに、天敵動物の保護も含めたつり合いのとれた生態系の回復が望まれる。
[宮尾嶽雄]
ドブネズミを飼いならしたラット、ハツカネズミを飼いならしたマウス、ハムスター、スナネズミなど、医学、歯学、薬学、生物学分野でネズミ類は実験動物として欠くことのできないものになっている。日本で使われているだけでも1年に300万~400万頭に達し、今後いっそう増加していくであろう。さらに現在、野生のネズミ類から新しい実験動物をつくりだす研究も続けられている。また、蒔絵師(まきえし)が使う特殊な筆はネズミの毛でつくられるほか、ネズミの毛皮は防寒用衣類に利用され、マスクラットはとくに有名。
[宮尾嶽雄]
奄美(あまみ)諸島、沖縄諸島には、ネズミは「ニライカナイ」(海の楽土)の神の支配下にあるという観念があり、奄美諸島では旧暦8月以後の甲子(きのえね)の日をネズミのための物忌みの日としていた。ネズミを大黒さまの使者とし、甲子の日を大黒さまの祭日とする伝承は各地にある。ネズミが悪魔的な起源をもつとする伝えは広い。北海道のアイヌ民族では、ネズミは神に悪口をいった者を懲らしめるための動物であったが、繁殖しすぎたので、神はネズミを退治するためにネコをつくったという。アイルランドでも悪神がネズミを、善神がネコをつくったという。北方ユーラシアには、モンゴルのブリヤート人、ロシア、フィンランドなどに『旧約聖書』の外典伝説があり、ノアの箱舟に乗り込んだ悪魔がネズミになって船の底をかじって穴をあけようとしたので、神がネコをつくったと伝える。ドイツには魔女が布きれでつくったとする伝えもある。アイヌ民族では害を避けるために、ネズミをたいせつにする。悪口をいうと被害を受けるといい、イナウを捧(ささ)げて拝む風習があった。古代ギリシアでは、ネズミの退去を願う文言を紙に書いて、畑の石に張っておくとよいといわれた。これもネズミを尊重する態度で、この方法は近代までヨーロッパ人の間で行われていた。インドネシアのバリ島でも、稲田を荒らすネズミはとらえて焼き殺すが、2匹だけは生かしておき、神のように拝礼して放したという。睡眠中に人間の霊魂がネズミの姿で抜け出すという信仰もある。ドイツ、ルーマニアなど中部ヨーロッパに多く、ロシア北東部に住むフィン系民族集団のコミ人にもある。ネズミの体の特徴にあやかる呪法(じゅほう)もある。オーストラリアの先住民のなかには、ひげの長いネズミを表象する物であごをたたくと、りっぱなひげが生えるという伝えがあり、ドイツでは歯が抜けると、ネズミのような強い歯が生えるようにという呪法を行った。
[小島瓔]
物をかじり、家に穴をあける害獣として、早くから考えられていたらしい。『歌経標式(かきょうひょうしき)』には、著者藤原浜成(ふじわらのはまなり)がつくったなぞなぞの歌「鼠(ねずみ)の家(いへ)米(よね)つきふるひ木をきりて引ききり出(い)だす四つといふかそれ」が記されている。「鼠の家」は「穴」、「米」を搗(つ)き、篩(ふるい)にかけて製する物は「粉(こ)」、「木」をこすって出す物は「火」、「四つ」は「し」、これを続けると、「あな恋し」となる。『古事記』上巻、大国主神(おおくにぬしのかみ)が須佐之男命(すさのおのみこと)の娘須世理毘売(すせりびめ)に求婚して、さまざまな試練を受け、鏑矢(かぶらや)を野に捜しに行き火を放たれたとき、鼠が出てきて、「内はほらほら、外はすぶすぶ」と教えて助ける、という神話はよく知られている。仏典では、月日の経過を白黒二つの鼠が競い走るのに例えられ、『万葉集』巻5の大伴旅人(おおとものたびと)の日本挽歌(ばんか)の題詞にみえる。古代歌謡の『催馬楽(さいばら)』には、「西寺の老鼠(おいねずみ)若鼠御裳(おむしやう)喰(つ)むつ袈裟(けさ)喰むつ法師に申さむ師に申せ」と歌われている。『枕草子(まくらのそうし)』の「むつかしげなるもの」の段に、「鼠の子の毛もまだ生ひぬを、巣の中よりまろばし出でたる」と記され、あまり好感はもたれていないようである。『徒然草(つれづれぐさ)』にも、「その物につきて、その物を費やし損なふ物」の一つに「家に鼠あり」とあげている。昔話にも、『鼠の浄土』や『鼠の嫁入り』など、よく知られたものがある。
[小町谷照彦]
『今泉吉典著『原色日本哺乳類図鑑』(1960・保育社)』▽『三坂和英・今泉吉典著『ネズミとモグラの防ぎ方』(1963・日本植物防疫協会)』▽『宇田川竜男著『ネズミ――恐るべき害と生態』(1965・中央公論社)』▽『宇田川竜男著『ネズミの話』(1974・北隆館)』
一般に齧歯(げつし)目ネズミ亜目Myomorphaに属する哺乳類の総称。南極とニュージーランド以外の世界各地に分布。齧歯目中もっとも繁栄している類で,およそ1065種(学者によっては1800種)がいる。哺乳類中最大のグループで,形態,体の構造,生活場所などはきわめて変化に富む。
人間社会に半ば寄生して生活するドブネズミ,クマネズミ,ハツカネズミの3種をふつうイエネズミ,他をノネズミという。
体は多くは小型で,体長が9~20cmのものが大半であるが,最小のものはトビネズミ科のバルチスタンコミミトビネズミSalpingotus michaelis(体長3.6~4.7cm,尾長7.2~9.4cm)で,日本産ではカヤネズミ(体長5.2~7.1cm,尾長5.2~9.1cm)である。最大種は,体長ではホソオフレオミスPhloeomys cumingi(体長28~48.5cm,尾長20~35cm,体重1.5~2kg),体重ではスマトラタケネズミRhizomys sumatrensis(体長48cm,尾長20cm,体重4kg),日本産ではケナガネズミ(体長28cm,尾長37cm,体重630g)。
リス亜目やヤマアラシ亜目のものより,いっそう硬い物を巧みにかじるのに適応している。そのための咬筋(こうきん)の内層は小さな下眼窩孔(かがんかこう)を通過し,ヤマアラシ類やリス類と違って咬筋の中層が下眼窩孔の外壁(咬板)に達する。これらの下あごを前方に動かす咬筋と,終生のび続けるのみ状の上下1対の門歯とで,硬い物を巧みにかじることを可能にしている。臼歯(きゆうし)は歯冠部が長く,ときに門歯同様に根(こん)がなく,一生のび続ける。5指があるが,前足の第1指は小さく痕跡的。尾はふつう長く裸出し,うろこがある。
ネズミ類は暁新世(6400万~5400万年前)末期に北アメリカに出現したパラミスParamysと呼ばれる,いくらかリスに似た最古の齧歯類に端を発している。齧歯類はおそらく北アメリカでリス亜目,ネズミ亜目,ヤマアラシ亜目の3群に分化した後に,ネズミ類はユーラシアに移り繁栄した。漸新世初頭(3700万年前)にはオナガネズミ科の初期のものが見られる。ヤマネ科の動物も進化しつつあったようで,漸新世(3700万~2400万年前)のヨーロッパにふつうに存在していた。漸新世にはネズミ科(キヌゲネズミ亜科のもの)の原始的なものも出現している。
中新世(2400万~500万年前)にはヤマネ科がヨーロッパでその進化史上最高に達した。ネズミ科のものも大いに分布を広げたようである。鮮新世(500万~170万年前)の中期にはオーストラリア大陸へも移住を成功させているし,メクラネズミ亜科のネズミが東ヨーロッパから西アジアにかけての地域に出現し,タケネズミ亜科のネズミがアジアで進化するなど,ネズミ類に多様化がみられるのである。これに対し,ヤマネ科のものは衰退し,中新世に出現したものが絶滅したが,新たなタイプのヤマネが出現し,現在まで生き延びているものもある。第四紀(170万年前以降)に入ってすぐにネズミ科のものは爆発的に進化し,現在に至っている。
多くのものは森林あるいは草原に生息し,とくにキヌゲネズミ亜科のハタネズミは草食に高度に適応し,臼歯は歯根がなく終生のび続けるので,硬いセルロースを含んだイネ科植物を主食としても臼歯が磨滅することがない。地中にトンネルを掘ってくらし,中に食物貯蔵庫,巣部屋,便所などがある。ヤチネズミ類もこれに似るが,臼歯は成獣になると歯根を生じ成長が止まる。北極地方のツンドラのクビワレミングや北ヨーロッパの山地の森林にすむノルウェーレミングは周期的な大発生をすることで知られるがこれらもハタネズミに近縁である。
まったく地下生活に適応したものは,アジアの4種のモグラネズミ(キヌゲネズミ亜科),東地中海地方のメクラネズミ(メクラネズミ亜科),アジアとアフリカの6種のタケネズミ(タケネズミ亜科)などで,目は小さくときに皮下にうまり,耳介もほとんどなく,食虫目のモグラ類に類似する。水生に適応したものも多く,北アメリカのマスクラットやヨーロッパのミズハタネズミ(キヌゲネズミ亜科),オーストラリアとニューギニアのミズネズミ(ネズミ亜科)などがある。モンゴルのスナネズミ,東ヨーロッパのハムスター(キヌゲネズミ亜科),オーストラリアのノトミス(ネズミ亜科),サバクヤマネ(サバクヤマネ科),サハラから中央アジアの30種ほどのトビネズミ(トビネズミ科)などは,砂漠や乾燥地に適応したもので,多くはカンガルーのように後脚が大きく,ジャンプで前進する。このほか森林の林床や樹上で生活するものはきわめて多い。
ネズミ類は一般に夜行性で,昼は地下や樹洞などにある巣に潜む。ふつう一定の通路があり,嗅覚(きゆうかく)とひげの触覚を利用して歩き回り,食物を探す。食物は葉,茎,地下茎,樹皮,穀物,果実,木の実などの植物質を主食とするものが多く,鳥の卵や雛,魚,死肉をも食べる雑食性のものや,昆虫を食べるものもある。繁殖習性も変化に富むが,一般に早熟多産である。ドブネズミのように1産1~18子,妊娠期間が21日前後,年に数回出産し,人間生活に直接害を与えるものや,大発生して森林や耕作地に大害を及ぼすハタネズミなどもあるが,南西諸島のケナガネズミやトゲネズミなどのように個体数が少なく,絶滅が心配されているもの,アンティル諸島やガラパゴス諸島のコメネズミのようにすでに絶滅したものもある。また,ラット(ラッテ),マウスをはじめゴールデンハムスター,スナネズミ,キヌゲネズミ,コトンラットなど,医学,生物学の実験動物として役だっている種類も少なくない。
なお,ホリネズミ(ポケットゴファー),カンガルーネズミ,ポケットネズミなどはネズミの名があるがリス亜目に属し,真のネズミではない。同様のものにヤマアラシ亜目のアフリカアシネズミ,イワネズミ,デバネズミ,ハダカネズミなどがある。また,ジネズミ,トガリネズミ,カワネズミ,ジャコウネズミなどもネズミと呼ばれるが,これらはまったく別の分類群である食虫目トガリネズミ科に属する。古くから日本では主として地上生の小獣をネズミと総称したようである。
執筆者:今泉 忠明
家ネズミは人類と共生し,その食糧の一部を得て生活するので古来その活動に人々は注意をはらった。古代にも高床倉庫の柱の上部に平板をとりつけたネズミ除けが登呂遺跡などで発見されることから,その被害は多かったと思われ,現代の民俗でも八丈島その他の高床倉に同様の構造が認められる。また梁から縄を下げ食料品をつるして蓄える土地では,縄の中途に円板を通してネズミがつくのを防ぎ,これをネズミ返しと呼んでいる。このようにネズミは大きな害敵であったので,時を定めて食物を供え,そのきげんをとり結ぶことで被害を避けようとする行為が習俗化したらしい。例えば関東地方の山間ではネズミフタギといって秋の作物収穫後に餅を畑に埋めたり,ぼた餅をつくってそれをこの名で呼ぶ。また,年の暮れに秋田県の鹿角地方や長崎県五島で小餅や塩などを,米櫃(こめびつ)などよくネズミのでそうな場所に供えるのを,ネズミノトシダマなどと呼んでいるのは,長野県北安曇郡でネズミノトシトリというのと同じく,家内の霊ある動物にも人と同様に餅を与えるものと考えたからであろう。とくに鼠害が多い場合には生きたネズミをいくつかとらえ,俵におさめて若者が担い,村人たちが総出で列をつくって村境まで送る。これを福島県南会津郡で〈ネズミ送り〉といい,伊豆半島でも鉦(かね)太鼓ではやしたててネズミを海に投げ入れた。これらはネズミの害を作物の害虫や流行病と同じく,悪霊のしわざとみたからであろう。
ネズミに霊性を認めることから転じて,その挙動によって禍福(かふく)の予兆を判断しようとすることが行われた。《古事記》には大穴牟遅神(大国主神)が野火にかこまれたとき,ネズミが地下の空洞を教えて難をのがれた話がある。これはネズミが火災を予知すること,地下に生活し地中の世界の主人公であることを,古人が考えていたことを示す。したがって,昔話の中にも,地中の穴にころげ込んだ団子を追って地下に入った老爺が,ネズミに歓待されて善い報いを得る〈鼠浄土〉の話が伝えられることになるのであろう。火を予知する能力についても,現代まで伝承されて火災,地震,洪水などに際して,その大規模な移動があったり,まったく姿を隠した後に再び出現するなどといわれる。《日本書紀》《続日本紀》などから近世の随筆類に至るまで,これに関する現象が多数記載されている。これらの事象はネズミについての感覚が,古来多くの人にとって特殊な意識を呼び起こすものであったことを示し,これをその本名で口にすることを忌む民俗を発達させたとみられる。各地に残るヨメ,ヨモノ,ヨルノトノ,オフク,ムスメなどという忌詞(いみことば)はそのなごりであり,ついにはこれを福の神,大黒天の使者とまで考えさせるようになった。
執筆者:千葉 徳爾
中国では,ネズミは俗語で老鼠または耗子という。耗子とは食物,衣服,家具の類をかじって消耗させるやつという意味で,よくネズミの習性をいい得ている。食物はともかく,衣服・調度をかじられては困るので,これに対処するため,除夜には空室内に食物を用意してネズミに提供し,それでネズミの害を免れるという風習があった。また俗説によれば,除夜はネズミが嫁入りをする晩であるとして,まんじゅうの上に造花をさして空室や寝台の下などに置き,消灯して早寝をし,子どもたちには〈老鼠做親〉(ネズミの嫁入り)を見るのだといってだます。その婚礼の行列のさまを描いた年画(新年用版画)も行われた。さらに旧暦1月15日の元宵節の晩には階段の下や倉庫のあたりに多数のろうそくを立て,除夜に結婚した婿を迎えるのを照らす。そうしないと暗いので物をかじられるとした地方もある。これらは鼠害を避ける意味から始まった俗習で,日本にもネズミの嫁入りの話はあるが,実際の民俗行事としたところはないようだ。
執筆者:沢田 瑞穂 古代中国では家ネズミの雄を薬用にした。肉は虚弱や衰弱,小児の疳癪,やけど,折傷,凍瘡,瘡腫,サナダムシの治療などに内服したり,煮て食べたり,塗布薬として用いたりした。また,肝臓は身体にささった矢じりが出ない場合に,搗(つ)いて塗った。脂は他の薬剤と混ぜて耳に塗り,難聴の治療薬として用いた。ネズミを羹(あつもの)にして食べると美味だといっているのは汝州梁の人,孟詵(もうせん)である。ただし,5~6世紀の本草書にはネズミの用例はない。なお,日本の《大同類聚方》の写本の一つ,出雲本の薬名の部には袁禰豆美(牡鼠)が挙げられている。
執筆者:槇 佐知子
ネズミは古代インドやエジプトで夜のシンボルとされ,ギリシアでは破滅と死のシンボルであった。中世にはキリスト教の布教とともに悪魔や魔女と結びつく。魔女はネズミに姿を変えたり,ネズミをつくることができるとされ,魔女裁判の記録には魔女の告白したネズミづくりの処方も残されている。中世を通じてネズミが異常に繁殖するのは大きな災害,ことに伝染病の前兆と信じられ,たとえば14世紀にペストがはやったとき,魔女との疑いでつかまった者は裁判でネズミをつくったかどうか問いつめられたという。ネズミ,死,ペストは中世では同義語であった。後世ネズミが衣服やベッドをかむと死が近い前兆とされたり,夢に死んだネズミを見ると親戚のだれかが死ぬという俗信ができたのは上のことと関係する。死ぬと人間の魂はネズミの姿となって肉体をはなれるとされ,伝説やメルヘン,ゲーテの《ファウスト》などにもその反映が見られる。眠っている子どもの口を閉じないと,魂がネズミになって出て行くともいわれる。
ネズミにまつわる伝説は,ネズミの害から人々を守ってくれるという聖女ゲルトルートGertrud(祝日3月17日)の話をはじめ非常に多い。ドイツのビンゲンの〈ネズミの塔〉の話は,飢えた民衆を焼き殺させた冷酷な僧正が異常発生したネズミに食い殺されるという内容。北ドイツの〈ハーメルンの笛吹き男〉の伝説は,ネズミの害に手を焼いたこの町を訪れたまだら服の男が,報酬を約束した市民に笛を吹いてネズミを全滅させたが,違約に腹を立て4歳以上の子どもたちを山へつれて消え去るというものである。
執筆者:谷口 幸男
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…しかしバーンズの詩の特質は,哀愁を帯びた甘美なメロディに小気味よい方言リズム,清純と野卑のふしぎな混交であろう。亡き乙女にささげる哀傷の歌《ハイランド・メアリー》,魔女カティーサークの跳梁(ちようりよう)する《シャンターのタム》,人間も同じ哀れな仲間と自嘲する《ねずみ》,風刺的な《悪魔へのあいさつ》,俗臭のする《陽気な乞食》などが代表作である。日本でも親しまれている歌曲は,《蛍の光》の原曲《オールド・ラング・ザイン》,《ライ麦畑をこえて》《アフトンの流れ》《恋する娘は赤いバラ》など数多い。…
… 実験動物あるいは実験用動物としてよく使われる動物種には次のようなものがある。(1)マウスmouse 齧歯(げつし)目ネズミ科ハツカネズミ属の動物で,代表的な実験動物。白色で赤目のアルビノが多いが,黒色,野生色の系統もある。…
…マウスとも呼ばれ,齧歯(げつし)目ネズミ科に属する(イラスト)。原産地は地中海地方からアジア中部,中国に至る地域と考えられているが,現在では熱帯から極地まで人間の住むところのすべてに分布。体長6.5~9.5cm,尾長6~10.5cm,体重12~30g。体背面は灰褐色で,腹面は野生または半野生の亜種では純白色,住家生のものでは背面よりわずかに淡色。人家やその周辺の田畑,原野,森林にすみ,夜も昼も45~90分を周期に活動する。…
…医学,生物学の研究のための動物実験やバイオアッセー(生物検定)に用いることを目的に育種された動物。代表的なものとしてはマウス,ラット,モルモット,ハムスターなどがあげられる。 従来,実験動物の呼称は広く〈実験に使用される動物〉の意味で使われていたが,このなかには実験動物のほかに家畜や野生動物も含まれており,これらはまとめて一般に実験用動物と総称される。野生動物や農用家畜は実験動物として合目的的に育種されたものではなく,自然界から捕獲したり,他の目的で改良した家畜を転用したもので,実験用動物ではあるが実験動物とは区別される。…
…民間説話,あるいは口承文芸の一類。
【日本の昔話】
冒頭に〈むかし〉とか〈むかしむかし〉という句を置いて語りはじめる口頭の伝承で,土地によってはムカシあるいはムカシコと称される。
[昔話の概念]
昔話は伝説や世間話とともに民間に行われる代表的な口頭伝承の一つである。これを始めるに際しては,必ず〈むかし〉とか〈むかしむかし〉の発語があり,またこれの完結に当たっては〈どっとはらい〉とか〈いっちご・さっけ〉あるいは〈しゃみしゃっきり〉といった類の特定の結語を置いた。…
…蚕室内で蛇を見かけると青竜の降臨として供物を供えて祭る。また蚕はネズミを忌むとして家に猫を迎える習俗もあり,ネズミよけのまじないとして泥塑(でいそ)の猫を買って供えることもあった。蚕の季節になると,家人以外の者が蚕室に出入りしたり大声で呼んだりすることを忌み,門に紅紙をはって禁忌とするなど,養蚕に関する俗信や俗習は多い。…
※「ネズミ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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