腸の一部で胃に続く部分をいい,発生的には中腸に由来する。小腸の主要な機能は消化と吸収である。小腸内で肝臓や膵臓から分泌された消化酵素で分解された食物は,小腸の円柱細胞の内腔側の細胞膜にある最終分解酵素で,単糖やアミノ酸にまで分解されて吸収される。円口類,板鰓(ばんさい)類など古代型の魚類ではらせん腸が形成され,その内面に発達するらせん状のひだが小腸の表面積を著しく拡大している。近代型の魚類(真骨類)では,多数の管状の幽門垂(幽門盲囊)が腸の表面積を広げている。四肢動物では小腸は著しく長くなり迂曲(うきよく)して,十二指腸,空腸,回腸に区分される。十二指腸腺をもつ真の十二指腸は哺乳類に限られ,空腸と回腸の境界が明りょうではない種類も多い。また小腸粘膜のひだや絨毛(じゆうもう)(鳥類と哺乳類)も表面積を広げ,吸収能力を高めている。小腸の内容物は大腸方向にのみ運ばれている。
執筆者:玉手 英夫
ヒトの小腸は,消化管のうち胃に続く部分で,大腸との間を占める長い管状の臓器であり,十二指腸,空腸jejunum,回腸ileumの3部分からなる。十二指腸は後腹壁に固定されているが,空・回腸は腸間膜を有し可動性はきわめて大きい。この部分をとくに腸間膜小腸といい,狭義に小腸というときは,十二指腸を除いたこの部分を通常さす。なお十二指腸について詳しくは〈十二指腸〉の項を参照されたい。
小腸の長さは,解剖のときに腸間膜を切り離して測定すると5~6mにも達するが,生体では腸間膜でつられ,短縮した状態のため,小腸内に管を挿入しての測定では1~2mにすぎない。空腸と回腸との間に明確な区別はないが,おおよそ上部2/5が空腸,下部3/5が回腸である(この比率を反対にとる学説もある)。空腸は左上腹部,臍部に,回腸は主として下腹部に位置し,回腸の末端は右下腹部いわゆる盲腸の位置で大腸に連なる。回腸が大腸に連なるところには回盲弁がある。空腸の内径は上部で2~3cm,回腸下部で1.5~2cmである。
小腸の壁は粘膜,粘膜筋板,粘膜下層,筋層,漿膜からなっており,粘膜面には横走する多数の皺襞(しゆうへき),すなわちケルクリングひだKerckring's fold(輪状ひだ)が存在する。ケルクリングひだは空腸では丈高く密に並ぶが,回腸では丈も低く,その配列もかなり粗となっている。粘膜表面には無数の絨毛が密生し,外観はビロード状に見える。個々の絨毛の形態は,十二指腸上部では葉状であるが,空腸,回腸では舌状ないし指状で,回腸では空腸に比べて丈が高い。絨毛の長さは約1mm,幅は0.1~0.2mmくらいである。このケルクリングひだと無数の絨毛の存在により小腸の表面積はきわめて大きいものとなる。絨毛の表層上皮細胞の表面には小皮縁(刷子縁)と呼ばれる部分があり,この部分を電子顕微鏡で観察すると,微絨毛と呼ばれる小さい突起が密生していて,ここには吸収に関連する種々の酵素が存在している。小腸の表面積はまずケルクリングひだの存在により,単純な円筒としての面積の3倍となり,さらに絨毛の存在で30倍(約10万cm2),微絨毛の存在で600倍(約200万cm2)という膨大なものとなり,小腸内での消化,吸収を容易にしている。また絨毛の間には腸腺(リーベルキューン腺Lieberkühn's glandまたは腸陰窩(か)crypt)と呼ぶ腺が開口する。粘膜面には孤立リンパ小節あるいは集合リンパ小節(パイエル板Peyer's patch)と呼ぶ扁桃に似た組織がところどころにあり,後者は回腸のみに存在している。筋層は2層からなり,内側が輪状に走り,外側は縦走する。
小腸の働きはいうまでもなく,食物として摂取した栄養素の消化・吸収にあるが,そのために小腸は単に消化液を分泌するだけでなく,いろいろの生理機能を営んでいる。
(1)分泌 十二指腸には肝臓や膵臓の輸管が開き,その分泌物は食物消化にあずかっているが,小腸自身も消化液やホルモンなどを分泌している。(a)腸液と粘液 十二指腸のブルンナー腺(十二指腸腺)から粘液,腸腺から消化液である腸液を分泌する。また絨毛表層の杯細胞からは粘液が分泌される。(b)消化管ホルモン 小腸粘膜には消化管ホルモン分泌細胞があり,これらから種々のホルモン(セクレチン,コレシストキニン-パンクレオザイミン,GIP,VIP,モチリンなど)が放出され,消化管の分泌と運動が調節される。
(2)運動 小腸には蠕動(ぜんどう)運動,その他の運動がみられる。これらは内容のかくはん,移送に役立つ。
(3)消化・吸収 小腸内に送られた食物中の糖質,タンパク質,脂肪は内腔内で消化,分解されて,表層上皮から吸収される。これらの吸収は主として空腸上部で行われる。小腸では,さらに水,電解質,ビタミンの吸収も行われる。
→消化 →消化酵素
小腸は消化管のうちで最も病気の少ないところである。しかし診断するとなると,小腸は曲がりくねり,相互に重なっているため,X線検査もむずかしく,内視鏡検査にしても,口からも肛門からも遠いため,小腸の上部,下部は別として,全小腸を観察するのは通常は不可能である。ただ前述のように臨床的に小腸病変は少ないことから,実際問題として小腸を精査しなければならないことは少ない。
(1)急性腸炎 臨床症状からつけられる診断名であって,腹痛,下痢を主症状とし,急性の経過をとるものをいい,その意味する内容はかなりあいまいなものである。下痢に加えて,吐き気,嘔吐,上腹部痛などが同時に伴うときは急性胃腸炎と呼ばれるが,一般には急性胃炎の症状で発病し,しだいに下痢となることが多く,小腸,大腸ともに侵される。本症の原因は種々で,寒冷などの物理的刺激,過食,細菌感染,ウイルスによるものなどがある。原因が明らかなもの,たとえば食中毒などは,症状は同じであっても原因が明らかとなれば別の診断名で呼ばれるわけで,一般には原因不明のもののみが通常いう急性腸炎である。症状の強さは症例ごとにかなり異なり,細菌性のものでは発熱,悪寒を伴うこともある。通常2,3日で治り予後はよい。また慢性小腸炎とは臨床的に慢性下痢,腹痛,消化不良症状を示すものをいうが,これも急性症同様概念はあいまいで,詳細に検討すれば別の病名で呼ばれる可能性も大きい。
(2)小腸の憩室 憩室diverticulumとは臓器の輪郭外に膨れだした袋状の構造をいい,通常みられるのは筋層のすきまから粘膜,粘膜下層が風船のように膨れだしたものである。十二指腸中部内側は非常に憩室の多いところで,検査を行うと5%くらいの頻度でみられる。憩室に基づく症状はまずなく,放置しておいてよい。空・回腸の憩室は非常にまれで,単発と多発がある。多発のものは通常空腸のみにみられる。症状はない。なお回腸の末端近くにメッケル憩室Meckel's diverticulumと呼ぶ特殊な憩室がみられることがある。この憩室は他のものと違って筋層を有し,胎生初期に腸管と卵黄膜を連絡している卵黄管(出生後は閉じる)の腸管側が残ったものである。炎症,穿孔(せんこう)などの合併症を起こしやすく,虫垂炎によく似た症状を示し,手術してはじめてメッケル憩室であることが判明することが多い。
(3)小腸の腫瘍 良性のものと悪性のものとがある。(a)良性腫瘍 小腸には非常に少ないが,そのなかでは十二指腸,とくに胃に隣接する球部に多い。ここではブルンナー腺の過形成が多く,そのほか筋腫,副膵などがある。空・回腸では腺腫,筋腫などがあり,単発,多発がある。とくにポイツ=ジェガース症候群Peutz-Jeghers' syndromeと呼ばれる消化管のポリープと手指,足指,口唇に色素斑を伴う病気では,小腸に多数のポリープがみられる。小さい腫瘍では無症状であるが,大きいものではときに出血を起こしたり,腸重積を起こすことがある。(b)悪性腫瘍 癌と肉腫がある。空腸の悪性腫瘍の2/3~3/4は癌であるが,回腸では癌は1/3で肉腫が多い。小腸の癌は非常に少なく,全消化管癌のうち小腸癌はせいぜい1%くらいのものである。空腸癌は短い範囲の狭窄をきたし,症状としては腫瘍と閉塞症状をもたらすが,診断は非常に困難である。肉腫のなかでは悪性リンパ腫が多く,病変部は長く,しばしば多発する。全身的なリンパ腫の一分症としてみられることが多く,小腸のみに限局するのはまれである。その他ごくまれに平滑筋肉腫をみることがある。
(4)吸収不良症候群 小腸における吸収障害を主徴とする疾患を総称して吸収不良症候群という。このうち小腸の粘膜上皮細胞自体に欠陥があり著しい絨毛萎縮をきたすものにスプルーsprue(特発性吸収不良)がある。本症は小麦中のグルテンが病因に関連するが,日本ではきわめてまれである。また粘膜細胞自体の変化ではなく,他の原因により二次的に小腸に変化をきたし,吸収障害を起こすものを続発性吸収不良というが,比較的多いのは消化管手術後の吸収障害である。まず胃全摘では合併障害がみられ,部分切除でも多少の障害が認められる。小腸の切除では一般に1/2以上の切除で障害が発生するが,これには切除範囲の大小とともに部位によっても差がみられ,上部を切除するほど障害の程度が強いといわれる。また小腸の手術で吻合(ふんごう)部に盲囊が形成されると,この中に細菌が増殖し,特殊なタイプの吸収障害が発生することもある(盲囊症候群)。そのほか癌の小腸への浸潤,アミロイドーシスなどの疾患でも,吸収不良は起こる。膵臓,肝臓,胆道の病気でも,消化の異常から軽度の吸収障害が起こりうる。
(5)タンパク漏出性腸症 本症は腸管粘膜のリンパ管拡張が原因で,消化管内腔へ血漿タンパク質が失われ,低タンパク血症をきたす疾患である。症状としては浮腫を主とするが,そのほか吸収障害による症状,消化器症状などをきたす。また続発性のものとして胃癌,胃ポリポーシス(ポリープが多発するもの),クローン病,鬱血(うつけつ)性心不全などに伴って同様の症状が起こることもある。
なお小腸の重要な病気として,上記以外にクローン病,イレウス,腸結核があるが,これらについてはそれぞれの項目を参照されたい。
執筆者:丹羽 寛文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
胃に続く細長い消化管で、盲腸の接合部までの長さは約7メートル。小腸は腹腔(ふくくう)の中央部から下部にかけて位置し、両側と上方は額縁のように大腸によって囲まれている。また、腹腔後壁との関係でみると、腹腔後壁に直接密着固定される部分と、小腸間膜によって後壁の脊柱(せきちゅう)の位置に固定される部分とがある。腹腔では大網(胃の腸間膜の一部)および腹壁に接している。小腸は上方から十二指腸、空腸、回腸の3部分に区分される。
十二指腸の名は、その長さが12本の指を平行に並べた幅の長さに一致することからつけられたもので、約25~30センチメートルである。小腸の部分では十二指腸がもっとも太く、また腸間膜をもたないで、後腹壁に直接固着している部分であるため、前面だけが腹膜に覆われている。十二指腸は全体としてC字形をしていて、胃の幽門から始まって、上部、下行部、水平部、上行部となって第2腰椎(ようつい)上縁の高さで急に前方に屈曲し十二指腸空腸曲となり、空腸に移行する。この十二指腸空腸曲には、腹腔動脈や横隔膜右脚の周辺から平滑筋線維を含んだ結合組織線維束が下行してきて停止する。これを十二指腸提筋(トライツ靭帯(じんたい))とよび、十二指腸空腸曲を固定支持している。下行部の後内側壁には、総胆管と膵管(すいかん)が開口する大十二指腸乳頭とよぶ隆起部がある。
空腸、回腸は十二指腸以外の小腸部分で、空腸が5分の2、回腸が5分の3を占めている。空腸と回腸は腸間膜を有し、これによって後腹壁に固着しているため腹腔内ではかなり可動性がある。腸間膜とは腸管の外面を腹膜が覆ったのち、あわさって2枚の膜を形成したものである。腸間膜が後腹壁に固着している部分は長さ約15センチメートルで、腸間膜根とよぶ。空腸と回腸を区別する形態上の明確な境はないが、空腸の始まりの部分と回腸の終わりの部分とでは、消化吸収の機能に差があるように、形態的にも差異がみられる。空腸は回腸よりも太くて直径約4センチメートル、壁も厚く、血管分布も多い。活動も活発に行われるため、空腸では内容物の輸送も速い。死体解剖した場合に空腸では内容が空虚なことが多く、この名称がつけられたが、空腸には内容物が長く停留することがないからである。回腸は空腸よりもやや細く、壁も薄く、血管分布も少ない。回腸は腹腔内で強くうねっているのでこの名称がある。
小腸の内面の構造の特徴として粘膜ひだと絨毛(じゅうもう)がある。小腸粘膜は内腔に向かって3ミリメートルから10ミリメートルくらいの高さで細長く突出し、小腸円周の2分の1から3分の2ほどを輪状に走っている。これを輪状ひだというが、これは十二指腸始部に欠如しているほかは、下方にいくにしたがって増加し、空腸上部でもっとも密となり、回腸ではしだいに小さくなり、回腸末端ではみられなくなる。絨毛は輪状ひだの表面にあり、0.5~1.0ミリメートルくらいの細かい粘膜突起が密生したもので、粘膜表面はビロード状を呈している。形、大きさは小腸の部位によって差異があり、不規則である。この絨毛間の陥凹部の腸腺窩(ちょうせんか)(リーベルキューン窩)には腸腺(リーベルキューン腺)が存在する。また、粘膜組織内には多数のリンパ小節が存在している。これは径1.0~1.5ミリメートルで白色がかっている。空腸上部でのリンパ小節は個々に散在しており、孤立リンパ小節とよぶ。このリンパ小節が多数集合して、集合リンパ小節(パイエル板)を形成する。集合リンパ小節は長楕円(ちょうだえん)形で、その長軸は腸の長軸方向に一致している。集合リンパ小節は、とくに回腸に多くみられ、20~30個ほどで、下部にいくほど多くなる。
[嶋井和世]
小腸の運動は局所収縮と伝播(でんぱ)性収縮の二つに分けられる。イヌで小腸の運動を観察すると、まず数か所で「くびれ」がみられる。やがてこの部位は膨らんでくるが、次には他の部位にくびれが生じてくる。この運動はほとんど伝播性のない局所収縮であり、おもに輪走筋の収縮が強いときに認められる。このくびれによって小腸の内容物は小さく分けられるとともに、内容物は前後に動いて消化液と混合される。このくびれは、だいたい0.5~1センチメートルの間隔で生じ、ヒトの十二指腸では毎分11~14回、回腸では4~9回、イヌの空腸では毎分8~18回、回腸では12~14回おこる。これが分節運動とよばれるものである。このほかウサギでは振り子運動というのがみられる。これは時計の振り子が左右に振れるように、腸管の縦の方向に周期的に収縮と弛緩(しかん)がみられるもので、縦走筋が主として収縮することによる。毎秒2~3センチメートルの速さで肛門(こうもん)側に進んでいくが、これも内容物の移送には関与しない局所収縮である。
伝播性収縮は蠕動(ぜんどう)といわれるもので、環状の収縮部が小腸の上方から下方へと伝わっていく。この運動によって、内容物は肛門側へ移動していくことになる。この蠕動はヒトの空腸では毎分12回、回腸で10回ほどであり、イヌの十二指腸では毎分21回、空腸で17回、回腸で8~12回といわれるが、食後になるとこの回数は増える。また、伝播する速度をイヌでみると、十二指腸で8~22センチメートル、空腸で1.8センチメートル、回腸で0.2~0.7センチメートルといわれている。こうした蠕動のおこる回数、伝播速度は、ともに小腸上部のほうが大きくなる。なお、ヒトにおける蠕動では数センチメートル進むと消失し、そこからまた新しい蠕動がおこる。
[市河三太]
小腸の壁には縦走筋と輪走筋とがあるが、その間には筋間神経叢(そう)(アウエルバッハ神経叢)、粘膜の下には粘膜下神経叢(マイスネル神経叢)という神経細胞の塊があり、そこから出る神経線維が複雑に絡み合って壁内神経を形づくっている。また、外部からは迷走神経と交感神経が腸壁に入り込んでおり、筋、粘膜、分泌腺のほか、神経叢にも分布している。一般に交感神経によって小腸の運動は抑制され、迷走神経によって促進される。さらに、こうした外部からの神経を介して腹部における内臓どうしの反射が成り立っている。たとえば、回腸の内圧が高まると大腸運動は抑制される、排便時に小腸運動は抑制され、胃に食物が入ると小腸運動は盛んになる、小腸運動が盛んになると大腸運動も盛んになる、などであり、これらは腸外反射とよばれている。一方、壁内神経を介しての反射も存在する。粘膜を刺激すると、刺激されたところより口側では収縮がおこり、肛門側では抑制されるというもので、これによって内容物は肛門側へ移動するわけである。この壁内神経を切除しても蠕動はおこるほか、神経叢をコカイン等で麻酔すると蠕動波は両側に伝播するようになる。このことから、小腸の筋は自分で動く性質をもっているが、壁内神経叢によって伝播の方向が決められているといえる。
小腸の粘膜からは多くの化学物質(ホルモン)が分泌されるが、これらによっても小腸の運動は調節を受ける。たとえば、ビリキニンvillikininは絨毛の運動を盛んにさせ、モチリンmotilinは空腹時の腸運動を盛んにさせる。また、セクレチンは腸運動を抑制し、コレシストキニン・パンクレオチミンCCK‐PZは盛んにさせるなどである。このように小腸の運動は神経により、また化学物質により調節されているが、さらに、縦走筋細胞にみられる小腸緩除電位slow waveとよばれる電位変動によっても調節されている。これは細胞の膜が周期的にナトリウムイオンをくみ出すためにおこる電位変化である。
[市河三太]
小腸粘膜には分泌腺があり、粘液などを分泌するほか、粘膜にある細胞には多くの消化酵素が含まれており、細胞が破壊されると酵素は腸の中に出される。また、十二指腸には胆汁や膵液も排泄(はいせつ)される。胆汁には脂肪の吸収を助ける胆汁酸塩が含まれており、膵液には糖質、タンパク質、脂質の分解酵素が含まれている。この胆汁、膵液、そして小腸内の酵素によって、糖質はブドウ糖、ガラクトース、果糖に分解され、タンパク質はアミノ酸、脂肪は脂肪酸とグリセリドに分解される。
[市河三太]
小腸粘膜には多くの「ひだ(襞)」があり、一つ一つのひだには絨毛が生えている。さらに絨毛の上皮細胞には高さ1マイクロメートル、直径0.1マイクロメートルの微絨毛が突出しているため、小腸の吸収面積は約200平方メートルにも及ぶこととなる。小腸を1日に通る液体は、消化液や食物中の水分をあわせると10リットルにもなり、このうち、約9.5リットルが小腸壁を通過する。残りの0.5リットルのうち0.4リットルは大腸で吸収され、糞便(ふんべん)中に排泄される水分はわずか0.1リットル前後にすぎない。
水分や栄養素の吸収の仕組みをみると、細胞膜内外の物質の濃度差によって受動的に吸収されるほか、絨毛のポンプ作用、あるいは細胞の食作用や飲作用によって、能動的に吸収されている。糖質はブドウ糖、ガラクトース、果糖となり、タンパク質はアミノ酸となって吸収される。しかし、新生児ではタンパク質はポリペプチドやタンパク質のまま吸収されている。なお、人によっては成人しても新生児と同様の吸収様式がみられるが、この場合は吸収されたタンパク質が抗原となってアレルギー症状(卵の白身や魚などによる発疹(ほっしん))をおこすことになる。脂肪はグリセリドと脂肪酸に分解されて初めて吸収されるが、細胞の中でトリグリセリドに合成され、小さな脂肪球となってリンパ管に入っていく。
栄養素は全部、小腸で吸収されるといっても過言ではない。糖質は十二指腸下部、ビタミンは水溶性、脂溶性ともに空腸上部で、タンパク質、脂肪は空腸で、ビタミンB12や胆汁酸塩は空腸下部から回腸でおもに吸収される。このように、小腸においても物質によって吸収の部位差が認められる。
[市河三太]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… とくに消化した栄養を消化管壁から取り込む消化吸収の過程をいうことも多い(この意味ではresorptionという語も用いられる)。【佃 弘子】
[消化吸収]
高等動物では,そのほとんどが消化管,とくに小腸で行われる。消化管の中でも,口腔から胃に至るまでは脂溶性の高い低分子の物質(アルコールやある種の薬物)がわずかに吸収されるにすぎず,種々の栄養素や水・電解質はほとんど吸収されない。…
…昆虫などでは腸は前腸,中腸,後腸に区分され,中腸腺やマルピーギ管(排出器)などの付属器官をもつなど複雑化している。脊椎動物の腸は,発生的に中腸と終腸にそれぞれ由来する小腸と大腸よりなり,両者の境界に盲腸が分岐する。魚類では小腸と大腸の区別が明らかではない。…
※「小腸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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