幼虫(読み)ようちゅう

精選版 日本国語大辞典 「幼虫」の意味・読み・例文・類語

よう‐ちゅう エウ‥【幼虫】

〘名〙 昆虫、ダニ多足類などの幼生をいう。完全変態のものでは卵とさなぎとの間の期間の個体をいい、不完全変態のものは、若虫(ニンフ)と呼ばれ、孵化したのち成虫になるまでの期間の個体をいう。〔生物学語彙(1884)〕

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デジタル大辞泉 「幼虫」の意味・読み・例文・類語

よう‐ちゅう〔エウ‐〕【幼虫】

昆虫クモなどの幼生。完全変態をする昆虫ではさなぎになるまで、不完全変態昆虫では成虫になるまでの段階をいう。

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改訂新版 世界大百科事典 「幼虫」の意味・わかりやすい解説

幼虫 (ようちゅう)

昆虫をはじめとした陸上節足動物の幼生の総称。狭義には完全変態昆虫の卵とさなぎの間の時期をさし,不完全変態昆虫の卵と成虫の間の時期は若虫nymphという。英語の対応する語にlarvaがあるが,これはすべての無脊椎動物の幼生および変態をする脊椎動物の成体の前の世代(オタマジャクシなど)の総称であり,幼虫のみをさすのではない。

 幼虫は多くの場合,食性,生息場所など親とは異なる生態的地位を占め,成体集団とは競合しないことから,新しい生息環境への侵入と定着に適応した種の分散の機構の一つとも考えうる。昆虫の幼虫の一般的な形態は,頭部と後方13環節から成り,頭に近い3環節を胸部(前・中・後胸)と呼び,あとの10環節を腹部という。幼虫は3形に大別される。頭部に発達した触角,口器を備え,胸部に3対の跗節(ふせつ)とつめのある肢をもつものをシミ型幼虫(三爪(さんそう)幼虫)と呼び,オサムシアリジゴクトンボなどにみられる。芋虫型幼虫は胸脚は必ずあるが,腹脚はときに痕跡程度となるものもあり,これには鱗翅(りんし)目やハバチの幼虫が入る。胸・腹脚ともにないものをうじ型幼虫といい,ハエ,ハチなどの幼虫である。

 幼虫の形態はその生息場所や餌の形状に適応している。セミの幼虫は土を掘るのに適した前肢を備え,トビケラの幼虫は腹端に1対の突起を備え巣に掛けて流されるのを防ぐ。アワフキの幼虫は泡状の粘液中にすみ,ハゴロモ類の幼虫は蠟状の分泌物で体をおおう。カミキリの幼虫は硬い木をかみ砕くためのよく発達した口器のみをもつうじ型幼虫である。また多くの幼虫は捕食を防ぐために生息場所に擬態したり,保護色になったりする。

 幼虫の成長速度は一般にはやく,カイコで10数日の間に約1万倍に,ニクバエでは数日のうちに数千倍の体重となる。一方,成虫になるまで7~8年かけるムカシトンボや地中での幼虫時代が17年に及ぶアメリカ合衆国のジュウシチネンゼミのような長い幼虫期をもつものもある。

 幼虫については古くから種々の呼び方がある。あおむし(青虫,蒼虫,螟蛉)は鱗翅目幼虫のうちの緑色の芋虫(モンシロチョウなど)の総称。芋虫はサトイモの葉を食べるセスジスズメヤマイモの葉を食べるキイロスズメサツマイモの葉を食べるエビガラスズメなどスズメガ科の幼虫である。このほか体表を毛でおおわれているものを毛虫(毒毛をもつものがある。ドクガ科,イラガ科など),地中にすむコガネムシの幼虫を地虫(じむし),カブトムシの幼虫をまんじゅう虫,ハエやアブの幼虫をうじ虫などと呼び,クリのうじ(クリミガ,クリシギゾウの幼虫),モモのうじ(シンクイガの幼虫)などもある。

 食用,薬用に用いられる幼虫も多く,カミキリムシ科の幼虫をテッポウムシあるいはトツコムシ(信州)と称し,また水生昆虫をザザムシ(伊那)とかチラムシとか称し食用にするほか,ミツバチの幼虫やジバチ(クロスズメバチ)の幼虫も食べる。奥州斎川(宮城県白石市斉川)産のマゴタロウムシ(脈翅目,ヘビトンボ科の幼虫)は子どもの疳(かん)の薬として用いられるが,薬効は定かではない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「幼虫」の意味・わかりやすい解説

幼虫
ようちゅう
larva

昆虫類が卵から孵化(ふか)してから蛹(さなぎ)または成虫(親)になるまでの子供の期間をいい、動物一般の幼生にあたる。昆虫は一般に卵内で胚(はい)が発育し、幼虫体ができあがると、卵殻を破って外に出てくるが、この時点以後が幼虫期であって、餌(えさ)を食べて成長する。後胚子(こうはいし)発生というのはこのことである。幼虫は成長する途中で何回か脱皮をするが、第1回の脱皮までが第一齢、脱皮後が第二齢、最後の幼虫期が終齢とよばれる。完全変態の昆虫では幼虫は最後の脱皮をして蛹になるが、その直前の、摂食をやめて動作が鈍くなった時期を前蛹(ぜんよう)prepupaとよぶことがある。不完全変態の昆虫では蛹の時期がなく、最後の脱皮で成虫になるが、幼虫と成虫の形態の差異がそれほど著しくなく、幼虫期後半になると胸背部後方の両側にはねの原基(芽)が現れ、脱皮するごとに大きくなるので、厳密にいうときは完全変態の場合の幼虫と区別して若虫(わかむし)(ニンフnymph)とよぶ。

 幼虫は種類によって異なった発生段階で孵化し、かなり生活に適応した形をとるため、体形も多様であるが、大別して次の四型がある。(1)多脚型 イモムシ、アオムシ、毛虫のように胸脚のほかに腹脚がある(鱗翅(りんし)類、ハバチ類など)。(2)少脚型 胸脚のみで腹脚がないナガコムシ型とジムシ型(甲虫類、脈翅類など)。(3)無脚型 ウジムシ型のように脚(あし)がない(膜翅類、双翅類など)。(4)原脚型 胚子型(一部の寄生バチ)。

 同じ種類の幼虫は、成長の過程で普通、体形に著しい変化がないが、なかには脱皮するたびに体形が著しく変わるツチハンミョウやオオハナノミのようなものもあり、過変態とよばれる。また、水生の幼虫には体の両側や尾端に気管鰓(さい)をもつものが少なくなく、尾端に呼吸管をもつものもある。

[中根猛彦]

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百科事典マイペディア 「幼虫」の意味・わかりやすい解説

幼虫【ようちゅう】

陸生節足動物,特に完全変態をする昆虫の幼生をいう。翅をはじめ多くの成虫器官が成虫芽の形で体内にあり,(さなぎ)になって初めてそれらが体の外に現れる。不完全変態をする昆虫の幼生は翅その他の原基が小さいながら体表に現れているので,若虫と呼んで区別することが多い。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「幼虫」の意味・わかりやすい解説

幼虫
ようちゅう
larva

一般には昆虫類をはじめクモ類,多足類など陸生節足動物の幼生全般についていう。しかし,厳密には特に完全変態をする昆虫類の蛹になる以前の段階の幼生についてのみいう。その場合,不変態類や不完全変態類の昆虫の幼生は若虫 (わかむし) という。

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世界大百科事典(旧版)内の幼虫の言及

【幼生】より

…多細胞動物の発生過程において,胚期の終了にあたり,みずから捕食して独立の生活を営むようになった段階のもののうち,成体とは異なる体制や行動を示すものをいう。昆虫ではこれを幼虫と呼ぶ。幼生の段階は個体発生の過程に不可欠なものではなく,全動物門を見わたしても,幼生の段階を経る発生様式(間接発生)をとるものはむしろ少数派といえる。…

※「幼虫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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