患者または保菌者の糞便(ふんべん)や尿とともに排出された病原微生物あるいは寄生虫卵(または幼虫)が付着したり混入した飲食物を摂取した場合、およびそれらが付着した手指や器物を口に触れたりした場合におこる感染をいい、後者はまた接触感染の一種ともみられる。この感染様式をとるのは、消化器系伝染病や寄生虫病のほか、黄疸(おうだん)出血性レプトスピラ病などである。たとえば腸チフスでは、ごく微量の感染糞便が手指や器物を介して経口感染することがしばしばあり、衛生環境のよくないところでは赤痢やコレラもこの感染の様式をとる。また食中毒の場合は、糞便とともに排出された病原体が手指や器物を介して食品や食物中に侵入して増殖し、感染に必要な病原菌量に達した状態でヒトの口に入るわけであり、サルモネラ菌や腸炎ビブリオなどの食中毒にみられる。感染経路としてハエ、ゴキブリ、ネズミなどの媒介によることもあるが、調理者の手指の汚染による場合も多く、料理人や主婦はとくに用便後の手洗いや消毒を励行することが望まれる。
なお、排出された病原体が飲料水中に侵入して経口感染する場合は、水系感染とよばれている。
[柳下徳雄]
…しかし,粘膜からは感染しやすく,呼吸器,消化器,眼,泌尿生殖器などの粘膜から,各種の病原体が侵入する。このうち,消化器から侵入するものを経口感染という。
[日和見感染]
従来,病原性が弱く,あるいはほとんど病原性がないとされ,正常な抵抗力をもつ宿主では感染を起こさなかった微生物が,生体の抵抗力の低下(白血病,悪性腫瘍,原発性または続発性免疫不全症候群,免疫抑制剤使用,放射線大量使用,未熟児,高齢者)や抗生物質大量使用による菌交代症などの状況下にある生体に起こす感染を日和見感染という。…
… 細菌類によるものには,細菌性赤痢,腸チフス,パラチフス,コレラ,ペスト,野兎(やと)病,癩などがある。細菌性赤痢は赤痢菌によって引き起こされ,保菌者や患者の糞便とともに排出された赤痢菌が,ハエ,ゴキブリの媒介によって飲食物に混入し経口感染する。ペストは野ネズミなど野生齧歯(げつし)類の疾病で,ノミを媒介動物としてヒトに感染する。…
※「経口感染」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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