オーストリアの劇作家F・グリルパルツァーの小説。1848年刊。原題は『哀れな音楽師』。A・シュティフターに称賛された作品で、話の筋(すじ)と枠を構成する語り手の目がみごとに融和している。非凡ではあるが、人生を生き抜いてゆくには、あまりにも無力な人間の心の内面を扱い、これは作者の劇作品、たとえば『ハプスブルク家の兄弟争い』(1848)などのテーマでもある。ひそかに思いを寄せるバルバラに、純粋ではあっても、人生における無能力ゆえに、他の男性との結婚に踏み切られてしまう主人公の姿は、滑稽(こっけい)というよりもむしろ、悲劇的、いや感動的でさえある。
[佐藤自郎]
『石川錬次訳『維納の辻音楽師』(岩波文庫)』
…晩年に至り作品が再演され,ウィーンの名誉市民になる(1864)など,種々の栄誉に輝いたが,隠遁の日を送る老詩人には〈もう遅すぎる〉というのが実感であった。彼の2編の短編小説のうち《ウィーンの辻音楽師》(1847)は,独特の魅力と味わいを持っている。遺稿として残された《トレドのユダヤ女》(1872初演),《ハプスブルク家の兄弟争い》(1872初演),《リブッサ》(1874初演)は,いずれも詩人の成熟した歴史認識を内包する重要な作品である。…
※「ウィーンの辻音楽師」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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