蝋(ろう)で溶いた絵の具で描き、熱を加えて基底材に絵の具層を固定する絵画技法、あるいはそのような絵画。「焼き付ける」ことを意味するギリシア語のエンカウスティコスenkaustikosに由来する。したがって、最後に熱を加えて「焼き付けて」仕上げる技法を省略した蝋画は、厳密にはエンカウスティックとはいえない。この技法の起源は古代ギリシア時代にさかのぼり、単に絵を描くためだけではなく、工芸品の絵付けや船の塗装などにも使用されていた。エンカウスティック絵画は、精製した蜜蝋(みつろう)をメディウム(媒材)に用い、熱くした金属製のパレットの上で絵の具を液状に保ち、筆やへらを使って制作された。描き終わったのち、画面を上にして平らに置き、上部から熱を加えて絵の具のタッチが緊密に融合する程度に溶かし、滑らかな絵の具層をつくりあげて完成された。現存する古代のエンカウスティック絵画としてもっともよく知られているのは、エジプトのファイユームで数多く発見されているミイラの棺の肖像画である。
[長谷川三郎]
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