改訂新版 世界大百科事典 「お夏清十郎物」の意味・わかりやすい解説
お夏清十郎物 (おなつせいじゅうろうもの)
歌舞伎狂言,人形浄瑠璃の一系統。実説は分明でないが,1662年(寛文2)の事件という。播州姫路の但馬屋の手代清十郎は,主家の娘お夏と密通。暇を出された清十郎を追ってお夏も家出したが,結局捕らえられ清十郎は処刑されたといわれ,俗謡にも歌われ流布した。歌舞伎では,64年江戸中村座上演の記録がある。1690年(元禄3)1月大坂の市村香織・浪江小勘座では《但馬屋 おなつ清十郎 卅三年忌》が上演されている。近松門左衛門作の人形浄瑠璃《五十年忌歌念仏》(1707年以前大坂竹本座)への影響も推定される作である。《和泉国浮名溜池》(1731年大坂豊竹座)は近松作の改作。《極彩色娘扇》(1760年竹本座)は歌舞伎にも移されてよく行われた。本筋は男達(おとこだて)狂言で,お夏清十郎は脇筋にまわっている。ほかに作者不詳の人形浄瑠璃《寿連理の松》(1820年稲荷社内の芝居)が今日に残る。明治に入ると,坪内逍遥作詞の舞踊劇《お夏狂乱》が名高く,新歌舞伎にも,真山青果の《お夏清十郎》をはじめ,多くの作品がある。
執筆者:三浦 広子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報