芝居(読み)シバイ

デジタル大辞泉 「芝居」の意味・読み・例文・類語

しば‐い〔‐ゐ〕【芝居】

5などに由来歌舞伎などの興行物。しばや。「芝居好き」「芝居通」
役者などが演技をすること。また、その演技。「いい芝居をする」
計画的に人をだますためのこしらえごと。狂言。「ひと芝居打つ」
芝生に席を設けて座ること。また、芝生。
搦手からめては―の長酒盛さかもりにてさてやみぬ」〈太平記・九〉
勧進猿楽曲舞くせまい田楽などで、舞台と桟敷との間の芝生に設けた庶民見物席。〈日葡
歌舞伎など有料の興行物の見物席。特に桟敷に対して、大衆の見物席をいう。
「舞の―で同じむしろに居たる人」〈浮・織留・四〉
[下接語]操り芝居田舎芝居大芝居御伽おとぎ芝居おどけ芝居女芝居陰芝居歌舞伎芝居紙芝居絡繰からくり芝居草芝居首掛け芝居芝居子供芝居こも張り芝居猿芝居芝居書生芝居素人芝居壮士芝居旅芝居つじ芝居道化芝居緞帳どんちょう芝居人形芝居初芝居一人芝居宮芝居村芝居
[類語]演劇ドラマ猿芝居

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精選版 日本国語大辞典 「芝居」の意味・読み・例文・類語

しば‐い‥ゐ【芝居】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( ━する ) 芝生にすわっていること。芝生に席などをこしらえてすわること。また、その場所。芝生。
    1. [初出の実例]「都人まれに岩根のしばゐして帰る名残ぞ大原の里」(出典:隆信集(1204頃))
  3. 猿楽、曲舞、田楽などで、舞台と貴人の席との間の芝生にこしらえた庶民の見物席。
    1. [初出の実例]「只芝居物出、人別一疋宛」(出典:康富記‐応永三〇年(1423)一〇月一日)
  4. 演劇などの興行物。
    1. [初出の実例]「其日の能ならず、芝居へ見物はひしと入る」(出典:四座役者目録(1646‐53)上)
  5. 歌舞伎などを興行する建物。また、その見物席。特に桟敷(さじき)に対して、大衆の見物席をいう。また、そこにいる人々。
    1. [初出の実例]「六条のもんぜきにのふの有時、しばひへまんぢうをまかるる」(出典:咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)下)
  6. ( ━する ) 役者などが演技をすること。また、その演技。転じて、計画的に人をだまそうとして、物事をしたり言ったりすること。また、そういう言動。
    1. [初出の実例]「コウ奥歯にもののはさまったどっちつかずの殺し文句で、また一芝居(シバヰ)藤さんをたたく気か」(出典:人情本春色梅児誉美(1832‐33)後)

しば‐や【芝居・芝屋】

  1. 〘 名詞 〙 「しばい(芝居)」をいう江戸の語。明治期にも広く用いられていた。
    1. [初出の実例]「京大坂の芝屋で、〈略〉狂言にしたげな」(出典:浄瑠璃・本朝二十四孝(1766)四)
    2. 「それで今度(こんだ)その服装(なり)で芝居(シバヤ)に出掛けようと云ふのかね」(出典:明暗(1916)〈夏目漱石〉六)

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改訂新版 世界大百科事典 「芝居」の意味・わかりやすい解説

芝居 (しばい)

芝生の見物席から転じて,劇場,演劇,演技などをさす語。もともとは芝のある場所つまり芝生の意で,とくに社寺境内の神聖な芝生のことであるが,室町時代に入って芸能の見物席を意味するようになった。猿楽や曲舞(くせまい)などの興行が社寺境内であった際,芝生が見物席となったことから一般化したものである。また,見物席として桟敷(さじき)が設けられた場合,桟敷と舞台の間の土間を芝居という。芝居は露天で,手軽で安価な大衆席であり,貴族的な特等席の桟敷に対している。近世初期,歌舞伎の発展に伴って,見物席の意味が拡大し劇場全体をさすようになり,さらに役者の演技や演劇をもいうに至る。このような展開は,芝居の観客の中に演技への理解が深まり,また観客から演技者へ転ずるというような演劇の大衆化を物語るものと考えられる。例えば歌舞伎における芝居見物とは,単に舞台を見ることをいうのではない。観客は見る人であると同時に見られる人でもある。客席と舞台とは切り離された空間なのではない。観客には参加者的性格があり,役者との間に一種の共同体を形成する。芝居という語の幅広さは,そのような客席と舞台との一体化した演劇世界のありようを示しているといえよう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「芝居」の意味・わかりやすい解説

芝居
しばい

元来は社寺の境内などの神聖な芝生の意味であったが、南北朝ごろから一般に芝生をさしていうようになり、芝のある場所にたむろすることを「芝居する」というように動詞化しても使われた。室町時代になり、猿楽(さるがく)・田楽(でんがく)・曲舞(くせまい)などの勧進興行が露天に舞台を構えて行われ、柵(さく)で囲った芝生がその見物席にあてられたことから、芝居はとくに芸能の見物席の意味をもつようになった。見物席に桟敷(さじき)が設けられるときは、桟敷は高価で貴族向けであったため、芝居は一般大衆席にあてられた。近世初頭に歌舞伎(かぶき)が成立すると、これは元来庶民的な芸能であったことから、芝居ということばが拡大され、ついに見物席を含めた劇場全体をさすようになり、さらにはそこで演じられる歌舞伎そのものをもさすように転じた。同時に「操(あやつり)人形芝居」などの語も生まれる。したがって、「芝居」ということばは、劇場・演劇・演技など多義をそのなかに含みもつ、あいまいなことばである。そして、そのことが日本演劇のユニークな性格を象徴することにもなっている。

服部幸雄

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「芝居」の意味・わかりやすい解説

芝居
しばい

演劇の別称。本来は寺社境内の芝生の座席の意味であったが,鎌倉,室町時代に延年会 (寺社で行われる酒宴) や猿楽などの芸能がこれらの場所で行われてから,見物席を意味するようになり,さらに桟敷と区別して野天の土間をさすようになった。安土桃山時代から江戸時代に入ると,意味は拡大して劇場や演劇そのものをさすようになり,人形芝居,歌舞伎芝居などの語も生れた。

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世界大百科事典(旧版)内の芝居の言及

【演劇】より

…また,英語play(プレー)あるいはフランス語jeu(ジュー)は,舞台上で行われることの〈遊戯性〉とそれに基づく〈虚構性〉を強調するし,英語でperformance(パフォーマンス)といえば,そのような〈演戯〉に要求される特殊な身体的技能とその成果を問題にする。 日本語でも,テアトロン,つまり見物席とともに舞台芸術を指すことばは〈芝居〉である。平安末期から中世にかけて流行した延年舞曲で,見物=観客が寺社の境内の芝生に居て見物したことに基づくが,現代語でも〈芝居〉は舞台上演も戯曲の内容も俳優の演技も指すことができるうえに,比喩的に演戯的虚構をも表しうる。…

【歌舞伎】より

…舞踊の名手で人気の伯仲していた3世中村歌右衛門と3世坂東三津五郎との対抗が,変化舞踊の流行に拍車をかけた。
[黙阿弥と幕末]
 1841年(天保12)10月,堺町中村座と葺屋町市村座が焼失したのを契機として,芝居の取りつぶしが計画された。これは天保改革の一環であった。…

【元禄時代】より

…しかも文化的消費の拡充と遊芸の流行という二つの現象は,たとえば各種の遊芸がおびただしい美術工芸品を必要とし,また美術工芸品の大量生産が大衆的遊芸の流行を可能としたといったぐあいに,相互に深くからみあっていた。
[文化の流通]
 さらに芝居(劇場),本屋(出版),塾(学校)などの諸施設が広範に成立し,これが,町人層に新たに生じた文化的ニーズと職業的文化人との間を結ぶ媒体として,重要な役割を演じることになった。これら各種メディアの出現は,作品の〈作り手〉と〈受け手〉の間に,その組織的な〈送り手〉いわば流通機構が形成されたことを意味し,文化の創造と享受とが個人的な関係で完結する状態から脱して,大衆的な参加・普及へ向かう契機をもたらした。…

※「芝居」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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