改訂新版 世界大百科事典 「カルロス王子」の意味・わかりやすい解説
カルロス王子 (カルロスおうじ)
Príncipe don Carlos
生没年:1545-68
スペイン王フェリペ2世の長男。その不幸な生涯と謎に包まれた死は早くから反スペイン・キャンペーンの材料となり,その後シラーの戯曲とベルディの歌劇《ドン・カルロス》を通して伝説化され,広く知られるにいたった。両親がともに狂女王フアナの孫であり,かつ従兄妹同士で,カルロスは生来,肉体・精神ともに正常ではなかった。加えて母は出産時に死亡,父は外国にあって14歳になるまでほとんど会う機会がなく,また祖父カルロス1世からもその異常さゆえに忌避されていた。フェリペの帰国後(1559),父は子の無能に絶望し,子は父への反感をしだいにつのらせる過程でプロテスタントやフランドルの独立派など,フェリペの敵対勢力の陰謀に巻き込まれたと思われる。1568年1月18日,カルロスは父の命令で居室に監禁され,6ヵ月後に死んだ。まもなく王令に基づく毒殺説,異端と陰謀の罪による処刑説等が唱えられたが,今日では監禁から受けた心理的ショックと極度の不摂生が死につながったと見られている。
執筆者:小林 一宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報