異端(読み)イタン(その他表記)heresy

翻訳|heresy

デジタル大辞泉 「異端」の意味・読み・例文・類語

い‐たん【異端】

正統から外れていること。また、その時代に多数から正統と認められているものに対して、例外的に少数に信じられている宗教学説など。「異端の説」

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精選版 日本国語大辞典 「異端」の意味・読み・例文・類語

い‐たん【異端】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( 「論語‐為政」の「攻乎異端、斯害也已」から ) 思想、信仰、学説などで、一般的に信じられ権威のある正統からはずれていること。儒教以外の教えや、仏教以外の宗教をさしていわれることが多かった。また、特にキリスト教で、多数の者に一般的に承認されている正統に対して、それ以外の特殊な少数の者によって信じられ主張される教義。また、それを信奉する人。→異教
    1. [初出の実例]「有習異端、蓄積幻術、圧魅呪咀害傷百物」(出典:続日本紀‐天平元年(729)四月癸亥)
    2. 「いらざる儒・仏の修行して、だんむ・いたんにおちんより」(出典:仮名草子・ぬれぼとけ(1671)上)
    3. 「正き者の爾曹の中に顕れんため異端(イタン)おこらざるを得ざれば也」(出典:引照新約全書(1880)可林多前書)
    4. [その他の文献]〔漢書‐武五子伝・戻太子〕
  3. 先例に従わないこと。新例を開くこと。
    1. [初出の実例]「大神宝之時、上下各一備。是為流例。更無異端」(出典:玉葉和歌集‐文治三年(1187)一一月二二日)

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改訂新版 世界大百科事典 「異端」の意味・わかりやすい解説

異端 (いたん)
heresy

ギリシア語hairesisに由来し〈分派〉を意味する語であるが,通常は特定の教義を信奉・標榜する団体において,正統教説に対立して,断罪・排除される立場,もしくはその主張者をさす。したがって,異端は,正統orthodoxyの対立物として定義されるかたわら,ことなった教義にもとづく敵対物たる異教とは区別される。ヨーロッパにおいて,異端が問題となるのは,歴史的には,キリスト教の確立以降である。排他性のつよい一神教であるキリスト教にあっては,すでに2世紀から異端問題が発生し,とりわけ4世紀にキリストの属性をめぐる論争において,アリウス派,ネストリウス派などの異端が生まれた。ギリシア正教においても異端が生まれたが,ローマ・カトリック教会ではその後,中世11~15世紀にワルド派カタリ派をはじめとする多数の異端運動が起こり,キリスト教会を動揺させた。また宗教改革以後も,カトリック教会内ではジャンセニスムなどの例をみることができる。教会の正統側は,異端の禁圧のため,しばしば凶暴性をおびる審問裁判(異端審問)を行ったり,軍事的掃討をくわだてるなど,多くの犠牲者を生んだ。また,宗教活動に結びついた政治的諸問題,理論にたいしても異端が宣告されることがあった。近代の政治・社会理論が体系的教義性をおびるようになると,マルクス主義におけるように,〈異端〉が発生することがある。その用語法は誤解をまねきがちではあるが,根拠がなくはない。
執筆者: 中国では《論語》に初めてみえる言葉で,正しくない学説の意とされる。韓愈が仏教や道教を異端として排撃して以後,新儒教(朱子学)では〈聖人の道〉からはずれた学説や教えを異端ということが多くなり,陽明学左派を徹底させた李贄(りし)は異端とされて獄中で自殺した。仏教の中では三階教が〈異法〉として禁圧されたが,一般に弾圧は最終的には国家権力によるもので,宗教的権威による異端裁判はなかった。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「異端」の意味・わかりやすい解説

異端
いたん

広義では、思想界、学界などにおいて、一般に容認されている説に対して異なる立場を主張することをいい、狭義では、一宗教集団内部において、教義上の重大な異説の固執による正統信仰からの逸脱をいう。したがって異端は、正統に対して相関的概念であるだけに、自己の意見を正統とする側からの排他的呼称であり、何が正統であるかを決定する権威あるいは機構が拘束力をもてばもつほど、正統と異端の対立は著しくなる。

 漢語としての異端は、儒者が他の思想、すなわち老子、荘子、楊子(ようし)、墨子など諸子百家を称した語であるが、仏教ではこれに相当する用語として異安心(いあんじん)、異解(いげ)、異流、異形(いぎょう)などがあり、仏教以外の宗教は外道(げどう)、外教(げきょう)などとよばれる。しかし、正統と異端の対立関係がもっとも顕著に現れてきたのは、ユダヤ教、キリスト教およびイスラム教といったような一神教においてであり、その歴史は正統と異端との葛藤(かっとう)の歴史であったといっても過言ではなかろう。

 例外的用法を除いて、異端は、同一の宗教を共通基盤として成り立つものの関係をさすので、「異教」とは区別される。さらに、異端視の規準が教義上の異見なので、単なる分派は普通異端とみなされない。たとえば、カトリック側からみてプロテスタント諸教会は「異端」と称される場合が多いが、ギリシア正教、ロシア正教などは信仰上の問題に関する差異が少ないので、異端よりも「シスマ」(離教)とよばれる習慣がある。

[J・スインゲドー]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「異端」の意味・わかりやすい解説

異端
いたん
heresy

異端の語はすでに『論語』為政編 12にみえるが,歴史上おもにキリスト教で多用された。転じて一般に,正統の相関概念とされる。キリスト教では正統教会により誤謬として排斥された教義やその体系をいう。異端は同じ集団や伝統の内部で,教義の解釈を異にした場合に起るもので,キリスト教からみた仏教やイスラムなどの異教や,教義を同じくしながらも別の教会を立てる分派 (ギリシア正教など) とは区別される。これはキリスト教会が創設当初より,自己のみを,啓示を正しく解釈しうる啓示の保持者と規定したことに始る。キリスト教初期には,キリストの実在,神人イエスの本性,あるいは三位一体説をめぐって,キリスト仮現説,マルキオン説,キリスト養子説,アリウス派などの異端説が多く現れたが,ローマ・カトリック教会にとって最大の異端は,プロテスタンティズムである。プロテスタンティズム内部でも教会が樹立されると,異端問題が起る (カルバンのセルベツス事件など) 。しかし,今日では近代的な社会構造の確立に伴って,総じて宗教に関する異端の論議は少くなっている。政治,社会の分野でも正統対異端の論争がみられるが,これらは同様に教義あるいは綱領の解釈の異同によるもので,上述の意味の転用である。

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百科事典マイペディア 「異端」の意味・わかりやすい解説

異端【いたん】

ある宗教の内部で,正統信仰とは異なる立場をとる教説や教派,特に正統派がこれらを呼ぶ場合の称。英語ではheresy。西洋では元来,一定の見解とそれに固執する人びとの意味であったが,キリスト教の発展に伴い上記の意味となった。古代のアリウス派やネストリウス派,中世のワルド派,カタリ派などが知られ,宗教改革以降ではジャンセニスムの例がある。異端かどうかは宗教会議や教団の機関が決定し,追放,焚刑などの刑罰を伴った(異端審問参照)。仏教では異解,異安心などが類似の概念。《論語》では謬説の意で〈異端〉の語が用いられている。
→関連項目魔女裁判

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「異端」の解説

異端(いたん)
heresy

カトリックで,正統信仰から離れて,それを危うくする分派。本来「選択」を意味するこの語は,すでに新約聖書で教義分裂の意に用いられたが,3世紀までには啓示による救済の基本教理からの背離,主観主義的精神に根ざし使徒の言葉に服さず,有機的教会の統一を破壊する分裂行為を意味するに至った。教会の統一を支える正統的なキリスト教教義は,第4回教会会議(カルケドン,451年)までにほぼ整い,異端の性格も明確にはなるが,正統信仰との関係が流動的であるため以後も絶えず多様な形態で出現し,その理想主義的教説は民衆運動とも結びつき,中世深く生き続けた。グノーシス派アリウス派カタリ派ワルド派などがある。

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旺文社世界史事典 三訂版 「異端」の解説

異端
いたん
heresy

カトリック教会が正統とする信仰・教義に異を唱える説,およびその信徒たち
4世紀に正統教義(三位一体説)が確立すると,アリウス派・ネストリウス派が異端とされて退けられた。そのほか,単性説など当時の異端は東方に多かったが,西ヨーロッパの異端は教会勢力が最盛期を迎え,腐敗も著しくなった13世紀初めごろから活発になった。マニ教の流れをくみ,キリスト教の純化を説くカタリ派が伝わると,各地に信徒が増大した。南フランスのアルビジョワ派はその代表で,その刺激を受けてワルド派もおこった。教会はアルビジョワ十字軍や宗教裁判による処刑などで鎮圧したが,14世紀末からウィクリフ・フスらを生み,宗教改革につながった。

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普及版 字通 「異端」の読み・字形・画数・意味

【異端】いたん

正統でない学問。邪説。〔論語、為政〕子曰く、異端を攻(をさ)むるは、斯(すなは)ちあらんのみ。

字通「異」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の異端の言及

【チェスタートン】より

…さらに詩,劇,小説,批評などにも,彼らに匹敵する警抜な着想と逆説的な筆法で縦横の活躍を示した。評論では彼のカトリック的な宗教観,政治観,社会観を説いた《異端》(1905),《正統》(1906)などがとくに有名であるが,この後も《ローマの復活》(1930)など晩年に至るまで論争的評論を数多く書いている。また小説でも,カトリックの司祭を探偵にして人気を博した〈ブラウン神父〉ものの連作(1911,14,26,27,35)や《ノッティング・ヒルのナポレオン》(1904)や《ドン・キホーテの帰還》(1922)などがあるほか,詩集では《白馬のバラッド》(1911)が有名。…

【イスラム】より

…やがてヘレニズム的観念での神の正義と,それに裏付けられた人間の意志の自由とが強調され,アリストテレスの論理学が方法論となり,彼らは反対者によって〈カラーム(思弁)の徒〉と呼ばれた。 アッバース朝初期の異端ザンダカ主義の流行に対し,政府は弾圧によって対処しようとしたが,ムータジラ派は合理的な神学の確立によって新改宗者の不満を吸収しようとした。だが彼らの合理的な学説は,イブン・ハンバルをはじめとする保守的なウラマーだけでなく,ムスリム大衆の支持するところとならなかった。…

【淫祠邪教】より

…国家権力ないし支配者によって,反体制的な傾向を持つとみなされた民間信仰,宗教のこと。淫祠はまた,淫祀ともいい,異端,左道と類似した言い方である。中国では,秦・漢時代において国家によって民間の祭祀が整理され,祭天の儀礼を頂点とする祭祀の典礼が整備された。…

※「異端」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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