キサース(英語表記)qisās

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キサース」の意味・わかりやすい解説

キサース
qisās

イスラム法における同害報復刑。 (1) 故意かつ不正に殺人が行われた場合,被害者の最近親者に加害者を殺す権利が与えられ,(2) 故意かつ不正に傷害が行われた場合,被害者に自己の受けたと同程度の傷害を加害者に加える権利が与えられた。ただし,いずれも加害者が完全な精神能力をもつ成年者であり,被害者と対等の者でなければならないとされる。そして報復権を有する者が,キサースの権利を放棄した場合,「ディーヤ」 diya (血の代金) という一種の賠償金を加害者は支払わねばならない。その支払いは,らくだを原則とするが,金銭であってもよい。イスラム刑法の特色である以上の同害報復刑は,ムハンマド以前のアラビアの無道時代に,復讐だけが唯一の秩序維持の手段であったところからきているといえようが,コーラン koranは,「1人の自由人を」という規定によって,統制のない報復を同害報復に改め,加害者の部族全体を殺戮するような復讐戦は許されなくなった。

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世界大百科事典(旧版)内のキサースの言及

【刑罰】より

…イスラム法(シャリーア)では,刑罰をハック・アッラー(神の権利)とハック・アーダミー(人間の権利)とに大別し,神の命にそむいた犯罪に刑罰を科するのは神の権利であり,被害者またはその親族の要求があって刑罰を科するのは人間の権利であるとみなした。イスラム法上,刑罰はキサースqiṣāṣ,ハッドḥadd,タージールta‘zīrの三つに大別される。 キサースとは報復の意。…

【復讐】より

…その金品を〈血の代償〉(賠償金)という。イスラム法では,同害報復(キサース)を原則とするとともに復讐よりは〈血の代償〉による事件の解決を求めている。【後藤 晃】。…

※「キサース」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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