日本大百科全書(ニッポニカ) 「ギリシア火」の意味・わかりやすい解説
ギリシア火
ぎりしあび
Greek fire
ビザンティン帝国時代に用いられた火器。海戦用の火、液体の火、ローマ人の火などともよばれる。自然硫黄(いおう)、酒石、樹脂、松、精製岩塩、軽油および精製油を混ぜ合わせた半液体状のもの。これを麻くずで点火し、ポンプ状の筒から敵船などの攻撃物に向かって発射した。水で消火することができなかったので、海戦ではとくに効果をあげた。7世紀後半から8世紀前半にかけてのイスラムのコンスタンティノープル攻撃の際には大いにその威力を発揮し、帝国を危機から救った。
678年にシリアの技師カリニコスがこれを発明したとされるが、6世紀なかば(?)のケストイという著者による『芸術と学問の百科事典』にはすでに自動発火する炎の記録がある。ギリシア火は、14世紀前半に火薬の実用化が始まるまでは、帝国のみがもつ秘密の武器として恐れられた。
[和田 廣]