樹脂(読み)ジュシ(英語表記)resin

翻訳|resin

デジタル大辞泉 「樹脂」の意味・読み・例文・類語

じゅ‐し【樹脂】

植物、特に針葉樹から分泌される混合物質。空気中で一部の成分が気化して固まる性質がある。松やになど。琥珀こはくはこれが化石化したもの。合成樹脂に対し、天然樹脂ともよぶ。
[類語]やに松脂樹液

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精選版 日本国語大辞典 「樹脂」の意味・読み・例文・類語

じゅ‐し【樹脂】

  1. 〘 名詞 〙 樹皮に傷をつけたときなどに分泌される粘着性の液体が固化した物質。高級テルペンなどを成分とする複雑な化合物で、植物界に広く存在する。有機合成によって性状、外観の類似したものがつくられるようになってからは、それぞれ天然樹脂、合成樹脂と分けて呼ぶようになった。やに。
    1. [初出の実例]「柿木のわかき時に〈略〉字を画(くゎく)しぬれば、その長じぬるにしたがひて、樹脂の内に凝りて」(出典:随筆・折たく柴の記(1716頃)中)

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改訂新版 世界大百科事典 「樹脂」の意味・わかりやすい解説

樹脂 (じゅし)
resin

樹木からにじみでる粘りけのある物質。天然樹脂ともいう。しかし日常用語であるため,かなり広範囲の物質が樹脂とよばれている。天然物ではない石油起源の物質が,合成樹脂(プラスチック)とよばれているのはその一例である。天然樹脂が添加物とともに加熱されると成型品になるので,合成品でも成型品となるものは樹脂とよばれたのであろう。なお,シェラックなど寄生昆虫の分泌物は動物性の天然樹脂といえる。また樹脂の化石がコハクで,しばしば昆虫の化石などを含む。

 さまざまな樹木分泌物が樹脂と呼ばれるが,一方樹脂とよばれているものと化学的組成であまり違いがないのに樹脂とよばれていないものもある。ここでは前者を狭義の樹脂,後者を広義の樹脂とみなし,樹木の分泌物全般をとりあげる。

樹木の分泌物は固形物が溶剤にとけたいわゆる“やに”である。溶剤は精油とよばれるものであることが多い。精油は揮発しやすいので,やには分泌してから短時間でかたくなり,そのかたくなったものが,樹脂と日常的にはよばれる。松やに,ダマールがこの例である。またバルサムのように溶剤の精油が揮発しにくく,いつまでも粘状をもつ樹脂もある。

 やには化学的組成では,テルペノイドとよばれる天然物のグループにはいる。テルペノイドはユニットの結びついたもので,ユニットはイソプレンとよばれ,炭素5個よりなる。精油はイソプレンユニットが2~3個結びついたもの(モノテルペンまたはセスキテルペン)からなり,やにの固形物は4または6個結びついたもの(ジテルペンまたはトリテルペン)からなることが多い。樹脂酸はジテルペンの一つで,松やに,バルサムなどの中心成分である。ダマールの中心成分はトリテルペン(ダンマレンジオールなど)である。なお,弾性ゴムはイソプレンが約2000個結びついたものである。

固形物が水の中に分散しているような樹木の分泌物では,水が精油ほど早くは揮発しないので,長い期間流動性がある。このため乳液,樹液などとよばれ,やにと日常的には区別されている。しかし固形物の化学組成からみると,はっきりした区別はしにくい。例えばチクルやその仲間のジェルトンソルバは5~8割のトリテルペンを含み,ダマールに近い。しかしチクルなどはイソプレンの多量体,つまりゴム質を2割含むので,若干弾性ゴムに近い。弾性ゴムが樹木から分泌されたときには,5割の水のほかに3割のイソプレン多量体,2割の樹脂を含むが,弾性ゴムはラテックス(乳液)と日常的によばれ,樹脂とはいわない。ウルシはイソプレン多量体2割のほか,ウルシオール7割を含み,水に懸濁している。ウルシオールは塗料としては樹脂分の働きをするが,化学的組成はテルペノイドではない。またイソプレン多量体を含まない分泌物は,樹脂より樹液とよぶのが似つかわしい。しかしその一つは,アラビアゴムと名付けられ,化学的組成の8割は多糖である。ユーカリからとれるキノもその種の物質の一つだが,固形分はほかに例のないフラボノイドという物質で,性状はタンニンに近い。

樹木は種々の方法で分泌物をだすが,最も普通なのは,細胞間道にたまった分泌物が外部にあふれる場合である。すなわち細胞間の空隙(くうげき)(細胞間道)をとりかこんでいる柔細胞(エピセリウム細胞)で樹脂がつくられ,細胞間道(樹脂道とよぶ)に分泌される。分泌されるものの量や質は,正常の場合と傷害をうけた場合とでは,少し異なる。これらのたまった樹脂は,ある量をこえると外部にあふれでる。松やに,バルサム,杉やになどはこの例での分泌物である。アラビアゴム,キノも似た方法でつくられるらしい。

 乳管という細胞が分泌物をだすこともある。乳管は一つの細胞のことも,いくつかの細胞がつながった場合もある。また樹皮内の形成層に近い部分にある場合や,木部で樹木の軸と垂直に,つまり水平方向に発達している場合などもある。ジェルトン,ソルバが採れるキョウチクトウ科の植物には木部に乳管のある樹木があり,これらのゴム様樹脂は乳管を通って分泌される。樹皮にある乳管からの分泌物には弾性ゴム(トウダイグサ科),ウルシ(ウルシ科)などがある。

樹脂には粘りけの強いものが多いので,この性質を利用して,油や水の粘りけを増すのに広く使われる。油の場合には塗料用樹脂として,水の場合には食品用増粘剤として使われている。狭義の樹脂は親油性物質と親水性物質の両方に似た性質をもつため,これらの橋渡し剤にもよく使われる。粘着剤,紙のサイズ剤としての用途がこれにあたる。弾性の利用はイソプレン多量体を含む樹脂に限られ,チューインガムはその一例。

 樹脂が樹木ではたす役割は正しくはわからないが,被膜をつくりやすいことから,外敵の侵入を防ぐ役をしているようである。精油や松やにには微生物を殺す作用のあるものもあり,これらが外敵からの防御に役だつことは確かである。
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百科事典マイペディア 「樹脂」の意味・わかりやすい解説

樹脂【じゅし】

天然樹脂と合成樹脂(プラスチック)の両者をさす。天然樹脂は,植物体の傷を保護するため樹脂細胞から外部に分泌された粘い液体が空気にふれ固体となったものの総称で,俗に〈やに〉といわれる。水に不溶,有機溶剤に可溶。種類はきわめて多く,同種のものでも分泌から採取までの時間により,酸化,重合,分解などの作用を受け,成分,性質が変わるが,一般に複雑な環状構造をもった比較的高分子量の樹脂酸,樹脂アルコールよりなる。代表的なものに,松脂(まつやに),バルサムダマールコーパルシェラックなどがある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「樹脂」の意味・わかりやすい解説

樹脂
じゅし
resin

本来は俗に脂(やに)とよばれる天然物に与えられた名称であるが現在では広く用いられるようになった。天然樹脂と合成樹脂の2種類があり、前者は植物の代謝生成物(セラックのみは昆虫の分泌物)であり、マツの樹皮に傷をつけると松脂が分泌する。これはいわゆる高分子化合物ではなくテルペン類が主成分である。一方、合成樹脂はプラスチックの日本名のようなもので、フェノール樹脂が松脂のような性状を示したので(実はまったく違うものである)、このような名称が生まれてきた。歴史的なものであるが、たとえばアルキド樹脂のように、樹脂としていまでも使われている。

[垣内 弘]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「樹脂」の意味・わかりやすい解説

樹脂
じゅし
resin

天然に,特に植物に生じたやに状物質をいう。樹皮を傷つけると出る樹液が,揮発性分を失ったのちの固体。水に溶けにくいが,アルコールやテレビン油のような有機溶媒に溶けやすく,溶媒の揮発後は薄膜となって残る高分子化合物で,この性質を利用して塗料や充填剤として使われる。コハク (琥珀) は化石化した樹脂である。天然樹脂に対して,現在は用途に応じて種々の合成樹脂が生産されている。

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岩石学辞典 「樹脂」の解説

樹脂

固化した非晶質の黄色または褐色の木の分泌物および排泄物で,有機物の混合から成っている.有機物にはテルペン(terpene),樹脂アルコール(resin alcohol),樹脂酸(resin acid)およびこれらのエステル(ester)などがある[Tomkeief : 1954].ギリシャ語ではretine,ラテン語ではresinaという.

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普及版 字通 「樹脂」の読み・字形・画数・意味

【樹脂】じゆし

やに。

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