改訂新版 世界大百科事典 「ギータゴービンダ」の意味・わかりやすい解説
ギータゴービンダ
Gītagovinda
ジャヤデーバ(12世紀)作のサンスクリット恋愛抒情詩。〈牛飼いの歌〉の意。12章から成り,牛飼いクリシュナとして化身したビシュヌ神と牧女ラーダーとの官能的恋愛を主題とし,劇的要素も含まれているが,その背後に神と人間との関係を暗示するものとして,神秘的意義が説かれている。各種の韻律を用い,頭韻,脚韻などの修辞的技巧を駆使しつつ,熱烈なビシュヌ神崇拝の思想を高揚している。この詩は牧童クリシュナと恋人ラーダーと彼女の女友だちの3人の抒情詩句のみで終始し,その間にビシュヌ賛美の詩句が挿入されている。古典サンスクリット文学の最後を飾る作品であると同時に,ベンガル地方に流行したビシュヌ派文学の先駆といわれている。この詩には各章ごとに音楽用語のターラtāla(拍子)とラーガrāga(旋律)の名が明示され,作者の音楽的知識をうかがわせるものがある。
執筆者:田中 於菟弥
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報