改訂新版 世界大百科事典 「クエン酸鉄アンモニウム」の意味・わかりやすい解説
クエン酸鉄アンモニウム (くえんさんてつアンモニウム)
ammonium iron citrate
水酸化鉄(Ⅲ)をクエン酸に溶かし,アンモニア水を加えて蒸発すると,条件により赤褐色の塩と緑色の塩とが得られる。前者にはFe9(NH4)12(C6H4O7)6(C6H5O7)(OH)12・15H2OあるいはFe9(NH4)6(C6H4O7)3(C6H5O7)4(OH)9・9H2Oのような組成をもつ塩が,後者にはFe2(NH4)2(C6H5O7)3,Fe2(NH4)2H(C6H5O7)3あるいはFe2(NH4)H2(C6H5O7)3のような組成の塩が属する。いずれも吸湿性の黄緑色葉状晶で,水に易溶,エチルアルコールに不溶。光により還元されやすく,その程度は緑色の塩のほうが大きい。緩和性鉄剤として貧血症に対する医薬として用いられる。感光性を利用して,かつては青写真の感光材料として用いられたが,その後は感度の高いシュウ酸鉄(Ⅲ)アンモニウムがよく用いられ,最近これもジアゾタイプにおきかえられつつある。
執筆者:近藤 幸夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報