改訂新版 世界大百科事典 「サルコミン」の意味・わかりやすい解説
サルコミン
salcomine
N,N′-エチレンビス(サリチリデンアミナト)コバルト(Ⅱ)の通称。1933年P.ファイファー,妻木徳一らが合成し,空気中で黒褐色に変色することを報告,38年妻木がこの変色は酸素の吸収によることを発見した。その後,酸素担体としての性質がM.カルビンやH.ディールらによって詳細に研究された。エチレンジアミンのエチルアルコール溶液に新しくつくった酢酸コバルト(Ⅱ)水溶液を加えて加熱し,サリチルアルデヒドを加えるとできる。赤褐色針状結晶。エチルアルコール,クロロホルム,ベンゼン,ピリジンなどに溶ける。水,エーテルに不溶。いくつかの変態があり,それによって酸素添加量が異なるが,ある変態は空気中で2molのキレートに対し1molの酸素を吸収し,結晶系は変化するが,80~100℃に加熱すると酸素を放出してほぼ可逆的に元に戻る。第2次大戦中,アメリカ海軍で空気中から純粋な酸素をとるのに使われたことがある。
執筆者:近藤 幸夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報