改訂新版 世界大百科事典 「シャジャルアッドゥッル」の意味・わかりやすい解説
シャジャル・アッドゥッル
Shajar al-Durr
生没年:?-1257
マムルーク朝初代スルタン。在位1250年。イスラム史上唯一の女性スルタン(出生は不明であるが,トルコまたはアルメニア系か)。宮廷の奴隷女官であったが,アイユーブ朝第7代スルタン,サーリフの寵愛をうけて正妻となり男児を生む(幼少で没)。第7回十字軍がエジプトを襲ってデルタ地帯を南下中に夫が死去するが,これを隠して国難を救う。義理の息子の第8代スルタンが父の私兵たち(バフリー・マムルークとよばれる奴隷軍団)によって殺害されると,彼らに推挙されてスルタンとなり,エジプトの地を統治(80日間)する。女性であるためバグダードのカリフの叙任許可を得られず自ら退位するが,次のマムルーク朝スルタン,アイバクとの結婚を通じて国政に陰の力を振るった。聡明で教養豊かであり,決断力に優れ,国情に精通し,在位中は善政を施した。後に嫉妬に狂って夫のアイバクを殺させたが,自らはその罪で夫の私兵(マムルーク)たちによって逮捕され,処刑された(夫の前妻の女奴隷の手にかかり,木下駄で撲殺されたという)。
執筆者:飯森 嘉助
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報