カリフ(読み)かりふ(英語表記)caliph

翻訳|caliph

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カリフ」の意味・わかりやすい解説

カリフ
かりふ
caliph

イスラム教の預言者ムハンマドマホメット没後の、イスラム社会の最高指導者をいう、イスラム政治学での用語。アラビア語ではハリーファkhalīfa(継承者、代理人)といい、カリフはその英語なまりである。実際の最高指導者は「信徒の長(アミール・ル・ムーミニーン)」と称することが多く、カリフという称号が用いられた例はかならずしも多くない。

 最初の4代のカリフは、神に正しく導かれたカリフという意味で正統カリフとよばれ、その時代正統カリフ時代(632~661)とよばれる。ついでウマイヤ家がカリフ位を独占するウマイヤ朝(661~750)、さらにアッバース家がカリフ位を独占するアッバース朝(750~1258)と続いた。10世紀から11世紀にかけての時期は、アッバース家のカリフに対抗して、ファーティマ朝君主と後(こう)ウマイヤ朝の君主もカリフを称し、イスラム世界に3人のカリフが並存する時代であった。その両王朝が滅亡したのちは、各地で実質的に独立していたイスラム王朝は、アッバース家のカリフとしての権威を認めたが、アッバース朝滅亡後はその実質的な意味を失った。19世紀末から第一次世界大戦の時代に、オスマン・トルコ皇帝がカリフと称して全イスラム勢力の結集を試みたが失敗した。

後藤 明]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カリフ」の意味・わかりやすい解説

カリフ
caliph

「代行者」「後継者」を意味するアラビア語のハリーファ khalīfaのなまったもの。預言者ムハンマドの没後,アブー・バクルがイスラム社会の最高指導者に選ばれたとき (632) ,彼は称号として「神の使徒 (ムハンマド) の後継者」 khalīfa rasūl Allāhを用いた。以後カリフがイスラム社会の最高指導者の称号となった。正統カリフ時代,ウマイヤ朝アッバース朝初期には,イスラム世界は1人のカリフによって統治されていたが,909年に成立したファーティマ朝の君主がカリフと称し,さらに 929年スペインの後ウマイヤ朝の君主がカリフと称するに及んで,複数のカリフが併存する状態となった。 1258年アッバース朝が滅亡すると,それ以後は各地に分立した国家の君主までカリフと称した。 1924年トルコによってカリフ制は廃止された。

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