日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャーヒリーヤ時代」の意味・わかりやすい解説
ジャーヒリーヤ時代
じゃーひりーやじだい
イスラム歴史学の立場で、イスラム以前の時代をさす。ジャーヒリーヤjāhilīyaとはアラビア語で「無知」を意味し、いまだイスラムを知らない状態をさすことばである。イスラム以前の全人類の歴史がこの時代に含まれ、イスラムの歴史書は、アダムに始まり、中国、インド、ローマなどの歴史にも触れるのが一般である。しかし、今日的な用語としては、5、6世紀と7世紀初頭のアラビアの歴史をさす場合が多い。
この時代のアラビアは、遊牧民の価値観が支配的であり、遊牧民的生活様式が至上のものと考えられていた。人々は、国家や王などの支配には服さず、自立的な血縁集団の枠組みのなかで自由に生きるのが理想であった。この時代はまたアラビア語の詩が急激に発展した時代で、多くの詩人がその理想像を詩で歌った。宗教的には、巨木や岩に神性を認める多神教の世界であった。
[後藤 明]