日本大百科全書(ニッポニカ) 「アダム」の意味・わかりやすい解説
アダム(旧約聖書)
あだむ
Adam
『旧約聖書』の「創世記」にある天地創造物語に出てくる、神につくられた最初の人間の名前。この最初の人間がアダムと名づけられたのは、神が人間を土(ヘブライ語でアダーマー'adāmāh)からつくったためだと説明されている。このアダムの肋骨(ろっこつ)をとってつくられたのが人類最初の女イブ(ヘブライ語ではハッウァーawwāh)である。なおヘブライ語でアダム'ādāmは、同時に人間一般を意味する語としても用いられる。
このアダムとイブとが、ヘビに欺かれ、神から禁じられていた「善悪を知る樹」の実を食べたために、神はこの2人をエデンの園から追放した。これが失楽園の物語である。『旧約聖書』を正典とするキリスト教では、この物語に人類最初の罪の堕落をみる。そして、このアダムの罪を後のすべての人間は生まれながらに負っている、と考えるのがいわゆる原罪の思想である。『新約聖書』はイエス・キリストを第二のアダムとよぶ(「コリント人への第一の手紙」15章45節以下など)。それは、最初の人類アダムが神の命令に背いて罪を犯し、罪の結果である死を全人類にもたらしたのに対し、イエス・キリストは罪を犯さず、しかもその身を十字架に捧(ささ)げることによって、人類に罪からの解放と永遠の生命を与える救い主になったからである。このように、アダムは単に最初の人間というだけでなく、人間の本質を示す典型としても解釈されてきたのである。この点では、失楽園物語をいくぶん異なって解釈するグノーシス主義や、異端的キリスト教においても同様である。
[月本昭男]
『関根正雄訳『創世記』(岩波文庫)』
アダム(Theo Adam)
あだむ
Theo Adam
(1926―2019)
ドイツのバス・バリトン歌手。少年時代は生地ドレスデンの十字架合唱団員として活躍。当時ドレスデン国立歌劇場指揮者であったヨーゼフ・カイルベルトに資質を認められ、1949年同歌劇場でデビューした。1952年にベルリン国立歌劇場と契約、同年バイロイト音楽祭に初出演。以後、現代の代表的ワーグナー歌手として世界の歌劇場で活躍を続けるかたわら、モーツァルトの歌劇や歌曲にも力を注いだ。一方、1950年代から1970年代にかけてはバッハの宗教音楽でも活躍、カール・リヒターの指揮でカンタータを多数録音した。2006年、現役を引退。
[美山良夫 2019年1月21日]
『高橋英郎編著『モーツァルト・オペラ・歌舞伎』(1990・音楽之友社)』
アダム(Robert Adam)
あだむ
Robert Adam
(1728―1792)
18世紀後半に活躍したイギリスの建築家。スコットランドの建築家ウィリアム・アダム(1689―1748)の子で、4人兄弟そろって建築家だが、この次男のロバートがもっとも有名である。彼は古典古代の建築に深い関心をもち、1750年以降ポンペイ、ヘルクラネウムの遺跡を踏査し、さらに1757年には現クロアチア、アドリア海に臨むスプリトに残るローマ皇帝ディオクレティアヌスの宮殿を実測調査して、1763年その成果を公刊した。また、兄弟は協力してロンドンに建築事務所を開き、主として貴族階級を対象に、高級な邸宅の新築、改築を数多く手がけた。その様式はアダム・スタイルとして人気をよび、イギリスの新古典主義を代表するものとなった。ロンドンのケンウッド・ハウス、サイオン・ハウス、オスタリー・パークなどの大邸宅は、いまもその様相を残している。なお、銀器、家具などのデザインも行っている。
[友部 直]