内科学 第10版 「その他の上室頻脈」の解説
その他の上室頻脈(上室頻脈性不整脈)
ⅰ)異所性自動能亢進による心房頻拍 自動能の亢進による心房頻拍で,多くは出没を繰り返すが,数年にわたり持続するものもある(図5-6-15).P波は異所性で,運動や交感神経で増悪し夜間にはレートが低下する.電気刺激でウォーミングアップ現象や,オーバードライブ抑制など自動能の性質が証明できる.薬物抵抗性ではβ遮断薬やCa拮抗薬で房室伝導を抑制して心室レートを適正に保つ.カテーテルアブレーションや外科的に起源の処置が可能な例がある.
ⅱ)多源性心房頻拍
洞性Pに加えて,2カ所以上からの異所性のP波形を認める頻拍.心房レートは100〜250拍/分である.PR間隔は変動したり房室ブロックを伴ったりする.通常非発作性で,心房細動に移行しやすいと考えられている.慢性肺疾患,外科手術後,重症心不全,その他の重症疾患などに合併し予後は悪い.
治療は原疾患の治療,心室レートのコントロールを行う.
ⅲ)促進房室接合部調律または非発作性接合部頻拍
上位のペースメーカの欠如した状態でのカテコールアミンの影響や,炎症や心筋虚血,ジギタリス中毒などで,本来35〜50拍/分の固有レートよりも速い調律を示す.多くは70〜130拍/分で,非発作性である.心室レートが遅ければ治療を要しないが,速くて治療を要する場合は難渋する.
ⅳ)異所性持続性接合部頻拍
先天性と考えられる頻拍で心不全をきたす.レートは140〜300拍/分で,予後は不良で治療も難渋する.カテーテルアブレーションや手術も考慮する.
ⅴ)心房切開後心房頻拍
心房の切開部位が解剖学的な興奮伝導の障壁となり,その周囲を興奮が旋回するもの.心房粗動と同様に扱われ,カテーテルアブレーションの適応となる.
ⅵ)ATP感受性心房頻拍
房室結節領域からのATPで停止可能なまれな頻拍.
ⅶ)上大静脈起源の頻拍
肺静脈や上大静脈の外側を走行する心房筋が期外収縮や頻拍の原因になる.前者は心房細動のトリガーとなるが,上大静脈からの興奮も心房細動や心房頻拍としてみられるものもある(図5-6-16).[相澤義房]
■文献
Cappato R, Calkins H, et al: Updated worldwide survey on the methods, efficacy, and safety of catheter ablation for human atrial fibrillation. Circ Arrhythm Electrophysiol, 3: 32-38, 2010.
Connolly SJ, Ezekowitz MD, et al: Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med, 361: 1139-1151, 2009.
児玉逸雄,他:不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年改訂版),日本循環器学会,http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_kodama_h.pdf
奥村 謙,他:不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版),日本循環器学会,http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_okumura_h.pdf
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報