解剖(読み)カイボウ

デジタル大辞泉 「解剖」の意味・読み・例文・類語

かい‐ぼう【解剖】

[名](スル)
生物体を切り開いて、内部の構造、あるいは病変・死因なども観察すること。腑分ふわけ。解体。
物事を細かく分析し、その因果関係などを明確にすること。「事件を解剖する」「心理解剖
[類語]分析検出

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精選版 日本国語大辞典 「解剖」の意味・読み・例文・類語

かい‐ぼう【解剖】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 生物体を切り開いて、その内部構造、各部間の関連や病因、死因などを調べること。解体。ふわけ。〔解体新書(1774)〕
    1. [初出の実例]「扨、其日の解剖事終り、迚(とて)もの事に骨骸の形をも見るべしと」(出典:蘭東事始(1815)上)
    2. [その他の文献]〔黄帝内経霊枢‐経水〕
  3. 人の心理を細かく分析したり、物事の条理を細かく分解、分析したりして研究すること。
    1. [初出の実例]「よく其人の心事を解剖して之を検査せば」(出典:文明論之概略(1875)〈福沢諭吉〉六)
    2. 「凡事物を批判するにはまづ其事物を解剖(カイバウ)して其結搆(くみたて)をも知りたる上にてさて評判を下しつべし」(出典:小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉上)

解剖の語誌

( 1 )中国最古の医書「黄帝内経霊枢‐経水」にあるが、中国では医学用語にはならなかった。一方、日本では、近世以降、蘭医学の影響で解剖が行なわれたが、当時では「解体」が一般的。また俗語として「腑分け」も使用された。
( 2 )一九世紀になり、解剖図譜などの書物が出版され、「解剖」が「解体」にとってかわるようになる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「解剖」の意味・わかりやすい解説

解剖
かいぼう

解剖というと動物の死体を切り開いて体の構造を調べることと考えられがちであるが、広い意味では生物体の構造を観察し、その働きを調べる方法の一つといえる。解剖によって生物体の構造の知識を求めるための学問が解剖学である。解剖ということばは中国最古の医書といわれる『黄帝内経(こうていだいけい)』にみられる。西洋では、解剖あるいは解剖学を意味することばはanatomyであるが、これはヒポクラテスなどの活躍した古代ギリシアで使われた、「切ること」を意味するtomyに、接頭語anaがついたものである。日本では、古くは人体の解剖を腑分(ふわ)け、解体などと称した。

 解剖の方法には、肉眼で観察する場合と拡大鏡や各種の顕微鏡を用いて観察する場合とがあり、それぞれ、肉眼解剖、顕微解剖という。これらの方法によって、今日では人体の構造が詳細に調べられ、かなりの部分が明らかにされてきたが、細かい点についてはまだ不明な部分も多い。医学で扱う解剖では、一般に正常解剖、病理解剖法医解剖が区別される。正常解剖とは、人体の正常な構造を調べるための解剖であり、人体の構造を理解するうえで、もっとも基本となる解剖である。正常解剖は、人体を構成している骨格系、筋系、脈管系、内臓系(消化器系、呼吸器系、泌尿生殖器系)、神経系、内分泌系、感覚器系などを、それぞれ系統別に調べていくために、系統解剖ともいわれる。正常解剖では、まず骨の形態、つまり、形、裂孔、溝、骨の組合せなどの調べから始まり、骨格に付着する骨格筋、血管や神経系の分布、内臓の構造、諸器官の相互関係などを、人体の細部にわたって徹底的に調べる。したがって、正常解剖は医学のもっとも重要な基礎教育の一つとなっている。生体のある部位を構成する諸器官の相互の位置関係を調べるのを局所解剖という。局所解剖の知識は、手術を行う場合にきわめて重要である。

 病理解剖は、死亡した患者の死因、病気と体の病変との関係や診断の適否、治療の効果の是非などを調べるものである。法医解剖は、司法解剖ともいい、疑わしい死因や殺害事件などの場合、その死因等の解明を目的とする。したがって、病理解剖や法医解剖では死後の変化を最小限度に防ぐのが望ましく、病理解剖では遺族の承諾後、可及的短時間に解剖することが必要である。

 正常解剖は医学教育の最初に行われる解剖で、医学生、歯学生たちが指導者のもとで定められた施設のなかで行うのが普通である。長期間にわたって全身を解剖するため、その期間中は、解剖体に防腐処置を施しておく必要がある。防腐剤としては一般にアルコール、ホルマリン、石炭酸などが基本的に用いられ、これらの液を適当な濃度に混合して、大腿(だいたい)動脈や頸(けい)動脈から注入する。最近は抗生物質などを加える場合もある。成人では5000ccから1万ccくらい注入される。防腐剤が完全に全身に浸透すれば、死体は長期間の保存に耐えうる。解剖の際、細かい動脈や静脈を区別できるようにするため、朱や青色の色素溶液を動脈系、静脈系に注入する場合もある。解剖を効率よく行っていくためには有効で便利な解剖用具が必要である。解剖用具は、外科手術用器具に似ているが、解剖独特の器具もある。解剖用具の中心となるのは、刀(メス)、鑷子(せっし)(ピンセット)、剪刀(せんとう)(鋏(はさみ))である。刀には円刃(えんじん)刀、尖刃(せんじん)刀があり、鑷子には先端が鉤(かぎ)型になっている有鉤(ゆうこう)鑷子と無鉤(むこう)鑷子などがある。このほか、骨を切る骨鋸(こっきょ)、骨を削りとる骨鉗子(こつかんし)、肋骨(ろっこつ)切断用の肋骨剪刀、脊柱(せきちゅう)の椎弓(ついきゅう)を切断して脊柱管を切り開くとき使う双鋸(そうきょ)もある。

[嶋井和世]

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改訂新版 世界大百科事典 「解剖」の意味・わかりやすい解説

解剖 (かいぼう)
anatomy
autopsy

生物の体の一部(局所解剖)または全体(全身解剖)を切開し,臓器や組織の形態,構造,相互の位置関係などを調べたり,病因や死因などを検索することをいい,古くは解体,腑分けともいわれた。動物では,生理作用などを調べるために,生きたまま解剖することもある。ヒトの解剖は医学の分野で行われることが多いが,ほかに人類学や考古学方面でもなされている。医学領域における解剖は目的によって系統解剖systematic anatomy,病理解剖pathologic anatomy,法医解剖に分類され,法医解剖はさらに司法解剖judicial autopsyと行政解剖administrative autopsyに分けられる。系統解剖は,通常エタノール,ホルマリンなどの混液で固定された死体を用いて,医学生の解剖学実習の一つとして行われているもので,血管,神経,筋肉,臓器など全身各所を系統的にくまなく観察する。病理解剖は,入院または通院治療中の患者が死亡したとき,その臨床症状や検査結果と対照しながら,疾病の原因,本態,治療効果などを知る目的で行われる解剖である。系統解剖も病理解剖も死体解剖保存法に基づく解剖で,原則として遺族の承諾がないと解剖できない。司法解剖は死体から裁判上の証拠を得るための一つの手段として行われるもので,裁判所には学識経験者に死体解剖による鑑定を命じて証拠となりうるものを得る権限が与えられている(刑事訴訟法129,165条)。また,犯罪捜査の段階でも同様の必要性があるので,検察官,検察事務官または司法警察員にも,裁判所の許可を得て第三者に死体解剖による鑑定を嘱託する権限が付与されている(刑事訴訟法223,224条)。したがって,司法解剖は他のいかなる解剖より優先し,解剖に際し遺族の承諾を要しない。行政解剖には,死体解剖保存法8条に基づく監察医の行う解剖,食品衛生法28条,検疫法13条に基づく解剖がある。いずれも,行政上の見地から死因を明らかにすることが必要なものに対して行う解剖で,遺族の承諾は必須ではない(死体解剖保存法7条)。また,生前の本人の意志や遺族の希望で行う解剖を篤志解剖という。死後,学生の解剖実習用に体を供すること(献体)を承諾した篤志家の会が,各地の大学と密接な関係をもって結成されている。法医学領域で,死に対する責任や損害賠償の問題などで,遺族が死因などに不審を抱いたとき,遺族の申出で解剖が行われることがあるが,これも篤志解剖の一つである。

 執刀者の資格は解剖の種類によって異なる。司法解剖ならびに行政解剖のうちの食品衛生法や検疫法に基づく解剖を行う者の資格に関しては特別の規定はなく,依頼者側がそのつど適当な人に嘱託する。監察医は知事が任命する者であるが,監察医の資格に関する規定はない。司法解剖,行政解剖以外の解剖は,(1)厚生大臣の認可を受けた医師,歯科医師ならびにその他の者,(2)医学に関する大学(大学の医学部を含む)の解剖学,病理学または法医学の教授または助教授,(3)あらかじめ当該地の保健所長の許可を得た者,しか執刀することはできない(死体解剖保存法2条)。なお,学生など無資格者の執刀は,有資格者立会いのもとに,その指導,命令に従っている場合に限り認められている。
解剖学
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葬儀辞典 「解剖」の解説

解剖

解剖には大きく分けて4種類あります。■正常解剖/大学の医学部などの研究のためにする解剖。献体された遺体は、正常解剖されます。■病理解剖/担当の医師が死亡の原因や難病の研究のために行う解剖。■司法解剖/自殺・他殺の疑いがある時に行われる警察解剖。■行政解剖/突然死などの場合、警察医の死体検分で死因が不明のときに行う解剖。

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普及版 字通 「解剖」の読み・字形・画数・意味

【解剖】かいぼう

ふわけ。

字通「解」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の解剖の言及

【解剖学】より

…主として生物体を〈解き剖(さ)いて〉,すなわち切り開いて,生物の構造について観察,記述,研究する学問。形態学の一分野。対象によって,人体解剖学human anatomy,動物解剖学animal anatomy,植物解剖学plant anatomyに大別される。
【解剖学の歴史】
 死んだ動物の体をばらばらにすることは,ことに肉食文化圏では,太古から行われていたにちがいない。人類の知恵がある水準にまで達し,医学的な関心をもって人体解剖が行われるようになったのはおそらくエジプト文明以後であろう。…

【医学】より

…開業免許証を領主から出させる方式,教師団が教育する権利をもつ方式,いずれも中世ヨーロッパの都市におけるギルド制度を適用したものであり,やがてヨーロッパ各地にも普及するようになる。 ところで,この二つの医学センターでは,医学古典の講述のほかに,動物の解剖示説や,患者との応接法などの具体的,実用的な講義もなされた。各地から集まった患者たちは,おだやかな気候のもとで静養しつつ,多様な医師から多様な治療を受けることができた。…

【献体】より

…死後,みずからの遺体を医学(歯学を含む)教育のために,学生の解剖学実習用として提供する行為をいう。医科大学における解剖には,医学生が医学教育の基本として人体の構造を学ぶための解剖(正常解剖または系統解剖という)と,死亡した直後に病気の原因を究明するために行う病理解剖とがあるが,献体の場合の遺体提供は前者,すなわち正常解剖用の遺体提供を指す。…

【山脇東洋】より

…名は尚徳,字は玄飛また子樹,通称は道作,はじめ移山と号した。医を養父に学んだのち,古医方派の後藤艮山に学んで実証精神を身につけ,中国古典にいう五臓六腑説に疑問をもち,動物解剖を試みたが満足できずに年月を経過するばかりだった。その間,儒学の古学派荻生徂徠の学問に傾倒し,梁田蛻巌(やなだぜいがん)がそれを戒めたが,徂徠の高弟太宰春台,服部南郭と交わり徂徠学の感化を受け実証精神を深めた。…

※「解剖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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