改訂新版 世界大百科事典 「チナンパ耕作」の意味・わかりやすい解説
チナンパ耕作 (チナンパこうさく)
浅い湖沼を木杭で囲いアシ,イグサ,水草類を敷きつめ,泥土を積み上げ造成した耕地をメキシコのナワ語でチナンパchinampaという。チナンパはメキシコ盆地の湖岸域で発達したが,類似した低湿地干拓の方法はメキシコの各地や南アメリカにもみられる。小規模なチナンパは紀元前後から造成されていたが,淡水湖域の大部分を覆うチナンパは,一様に真北から15~17°東偏した格子状排水路網をもち,大規模な水利事業が展開した15世紀以降に造成された。水路の浚渫(しゆんせつ)は耕地かさあげと養分を含んだ泥土の供給を兼ね,チナンパ耕作はきわめて土地生産性の高い集約的農耕であった。チナンパにはトウガラシ,トマトなど野菜類,トウモロコシ,インゲンマメ,アマランなどの主穀類のほか花卉類が植え付けられた。植付けは直播のほか,チャピンchapínという苗床の移植という方法もとられた。チナンパ耕作はメキシコ市南郊のソチミルコ周辺で存続するが,低湿地干拓法として再活用されつつある。
執筆者:小林 致広
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報