トウモロコシ(読み)とうもろこし(英語表記)maize 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トウモロコシ」の意味・わかりやすい解説

トウモロコシ
とうもろこし / 玉蜀黍
maize 英語
corn アメリカ英語
[学] Zea mays L.

イネ科(APG分類:イネ科)の一年草。トウキビ(唐黍)ともいう。子実を食用や工業原料に、また地上部全体を飼料に利用するために栽培する。茎は直立し、高さ1~4メートル。節数は14~16のものが多く、ほとんど分枝しない。葉は互生し、葉身は大きいものでは幅5~10センチメートル、長さ1メートルを超す。雌雄異花。夏に花を開く。雄花序は茎の先端に抽出して雄穂とよび、雌花序は茎の中くらいの1~3節の葉腋(ようえき)に一つずつ生じ雌穂とよぶ。雄穂は長い穂軸から十数本の枝柄が分かれ、各枝柄に多数の雄性の小穂が対(つい)になってつく。各小穂は2小花からなり、小花には3本の雄しべがある。雌穂は何枚もの包葉に包まれた円柱形で、穂軸(芯(しん))の表面には雌小穂が縦に10~20列並ぶ。小穂は2小花よりなるが、下位の小花は不稔(ふねん)で、上位の小花のみが結実する。上位小花の雌しべの花柱、柱頭は長く糸状に伸び、絹糸(けんし)とよばれる。これが各小花より伸び出して、開花時には雌穂全体の絹糸が束となって包葉の先から現れる。同じ個体では雄花は雌花よりも2日ほど早く開く。風媒花で、他家受精する。開花後、雌穂は長さが14日目ころまで、太さは20日目ころまで発達する。開花後約50日で完熟する。

[星川清親]

分類

子実の形質により、次のように分類される。

(1)馬歯種(ばししゅ)(デントコーンdent corn) 子実の側部は硬質デンプン、内部と頂部は軟質デンプンが分布するので、子実が成熟して乾燥すると頂部がくぼみ、馬の歯状になる。一般に晩生(おくて)で、草丈が高く、葉がよく茂り、雌穂数は少ないが大形で子実収量が多い。おもに飼料として、またデンプンなどの工業原料として用いられ、トウモロコシのなかでもっとも栽培が多く、世界各地に分布する。

(2)硬粒種(こうりゅうしゅ)(フリントコーンflint corn) 子実の側部も頂部も硬く、頂部は丸く光沢を帯び、内部に軟質部がわずかにある。硬粒種はさらに早生(わせ)硬粒、中生(なかて)硬粒、熱帯硬粒に類別される。概して馬歯種よりも早生で、とくに早生硬粒はアメリカで栽培されるトウモロコシのうちで最早生で、高緯度や高冷地など作期の短い所で栽培される。食糧、飼料、工業原料用とする。

(3)甘味(かんみ)種(スイートコーンsweet corn) 胚乳(はいにゅう)に糖を多く含み、甘く、子実が成熟してもデンプンのほかに糖が多く残っている。成熟した子実は半透明で、乾燥すると粒面にしわが寄る。おもに未熟果を間食用とする。また、これらを冷凍や缶詰に加工する。残った茎葉は飼料用とする。

(4)爆裂(ばくれつ)種(ポップコーンpop corn) 粒全体が硬質デンプンで堅く包まれ、内部にわずかに軟質部があり、ここに水を含むので、加熱すると水分の急激な膨張によって子実は爆裂してはぜかえる。子実は小さく、粒先のとがった型や丸い型があり、白、黄、赤褐色などがある。間食用とする。

 これらのほか、子実全体が軟質デンプンの軟粒種(ソフトコーンsoft corn)、加熱すると粘性の強い糯(もち)デンプンをもつ糯種(ワキシーコーンwaxy corn)、1粒1粒が穎(えい)(皮)に包まれている有稃(ゆうふ)種(ポッドコーンpod corn)などがあるが、これらの栽培はきわめて少ない。

 近年、馬歯種、硬粒種、甘味種などで、各種内あるいは各種相互間の人工交雑によってハイブリット品種ともよぶ雑種一代品種(F1(エフワン)種)が盛んに開発されている。これらは高い生産性をもち、急速に普及し、栽培品種の中心となった。このためトウモロコシの生産量が増大した。

[星川清親]

栽培

トウモロコシは高温多照の気候に適し、生育最盛期と出穂期には適当な降雨を必要とし、成熟期には乾燥気候が望ましい。土質は腐植に富む排水良好な地が最適であるが、かなりの不良地にも耐え、酸性土壌に対しても比較的強い。草丈の高い作物であるから、風によって倒伏しやすいので、根を深く張らせるように深耕する。平均気温15℃、5月中旬の播種(はしゅ)が標準であるが、播種適期の幅が広く、南西暖地では4~6月に及ぶ。うね間60~90センチメートル、株間30~50センチメートルに播種する。最近はドリル播(ま)き(条(すじ)播き)が普及し、条間40~50センチメートルとしている。青果用には子実が糊(のり)状に熟したころに、飼料、デンプン用原料とする穀実用には子実が硬く熟し、外見からは包葉が黄変する9~10月に収穫する。大規模な栽培では、収穫はコーンコンバインで行う。病気には煤紋(すすもん)病、ごま葉枯病、黒穂病などがあり、害虫にはアワノメイガアワヨトウなどがおり、適期の薬剤防除が必要である。

[星川清親]

生産状況

2016年の全世界での収穫面積は1億8796万ヘクタール余りで、約10億6011万トンの収穫があり、コムギ、イネに次ぐ三大穀物の一つである。最大の生産国はアメリカで、収穫量3億8478万トン、全世界の収穫量の約36%を占めている。ついで中国が2億3184万トン、ブラジルが6414万トン、以下アルゼンチン、メキシコウクライナの順となっている。日本では穀実用としての作付面積は、第二次世界大戦後しばらくの間、3万5000から5万ヘクタールの間で推移したが、昭和30年代末から減少の傾向が著しく、1983年には約750ヘクタールの作付面積にまで減少した。一方、青果用の未成熟トウモロコシ(スイートコーン)の作付面積は漸増し、2016年(平成28)現在の作付面積は約2万4000ヘクタール、収穫量は19万6200トンであり、府県別では北海道、千葉、茨城、群馬、山梨の順である。また、青刈り飼料用は戦後の畜産発展に伴って栽培が増え、作付面積は約9万3400ヘクタール、収穫量は約425万5000トンとなっている。

[星川清親]

起源と伝播

起源に二つの説がある。紀元後1000年ころまで現存していた野生祖先種がボリビアからメキシコまで広く分布していたが、少なくともメキシコとボリビアで栽培型が成立し、さらにメキシコにおいてこの栽培型とトリプサァクム属Tripsacumのある種との交雑によって急激な進化が生じ、現在のトウモロコシが成立したとする説である。他の一つは、メキシコ、グアテマラホンジュラスのトウモロコシ畑の随伴雑草として生えているテオシントZ. mexicana Schrad.が野生祖先種であるという説である。この説は、近年多年生のテオシントZ. diploperennis Schrad.がメキシコで発見され、ますます有力となっている。

 その起源の年代は古く、考古学的資料によれば、野生祖先種は少なくとも紀元前5000年ころにはメキシコに分布しており、栽培型が成立したのは前3000年ころである。そして前2000年ころには現在みられるようなりっぱな穂形が成立した。

 北アメリカへの伝播(でんぱ)は古く、ニュー・メキシコ州では前2300年の遺跡から出土している。北アメリカ全土への伝播起点はニュー・メキシコ州のヒーラ川とグランデ川の支流域で、そこから一つはユタ州のグリーン川に沿って伝播し、もう一つはロッキー山脈の東麓(とうろく)を通ってコロラド州へ、さらに北アメリカ中央の大平原を経て、1400年にはミズーリ川オハイオ川の流域に広く栽培された。このようにして19世紀にはコーンベルトといわれる大生産地が出現した。

 ヨーロッパへの導入は、新大陸発見時にキューバからスペインに持ち帰ったのが最初である。その後30年間にフランス、イタリア、トルコ、北アフリカにまで伝播し、アフリカの各地には16~17世紀の間に広まった。アジアへは16世紀の初めポルトガル人によって入り、インドからチベット経由で中国に入った。また中国へはトルコ、イラン経由でももたらされた。日本へは1579年(天正7)にポルトガル人が長崎に入れたのが最初であるが、明治初年にアメリカから北海道に入り、北海道で盛んに栽培された。

[田中正武]

利用

トウモロコシの成熟した穀粒100グラム中の成分は、水分14.5グラム、タンパク質8.6グラム、脂質5.0グラム、炭水化物は糖質が68.6グラムと繊維が2.0グラム、灰分1.3グラムである。これをひき割りや圧扁(あっぺん)(コーンフレーク)して食用とする。また粉にしてパンに焼く。現在、食用には主としてトウモロコシデンプンコーンスターチcornstarch)にしてから、菓子や練り製品などの加工食品に用いられている。コーンスターチはビールなどの醸造原料にも使われ、また製紙や織物工業では糊(のり)として多量に使用されている。胚(はい)からはとうもろこし油(コーンオイルcorn oil)がとれ、サラダ油などの食用油として良質であり、このほか、マーガリン、せっけんなどの原料にもする。またアメリカのバーボンウイスキーは、開拓時代、ケンタッキー州バーボン郡の農民たちにより、トウモロコシを主材料にしてつくられたもので、現在アメリカンウイスキーの代表格である。

 スイートコーンはおもに未熟果をゆでたり焼いたりして食用とする。甘味は収穫後急に減少するので、すぐに缶詰や冷凍に加工して、家庭の料理材料などにも需要を広めている。未熟な粒100グラム中の成分は、水分74.7グラム、タンパク質3.3グラム、脂質1.4グラム、炭水化物は糖質が18.7グラムと繊維が1.2グラム、灰分0.7グラムである。ポップコーンはおもに菓子用とされるが、とくにアメリカで需要が多い。

 トウモロコシは穀粒も茎葉も家畜の飼料として重要である。粒は破砕して配合飼料の主原料とされ、先進諸国の畜産を支えている。茎葉は青刈り飼料となり、また、サイレージにする。とくに粒が黄熟期になったときに穂ごと茎葉を刈り取ってつくるホールクロップサイレージは飼料栄養価が高く、もっとも重要な自給飼料である。

 茎葉の枯れたものは燃料とされ、またアメリカでは穀粒をとったあとの雌穂の芯(しん)からパイプをつくる。

[星川清親]

 トウモロコシの粒の色(果皮の色)は、黄色以外に白・橙(だいだい)・赤褐・赤紫・黒紫色とさまざまである。黒いトウモロコシからつくったチチャという飲料は、赤い色を呈して美しい。また、ペルーではイチゴジャムに似た色のジャムがつくられる。黒いトウモロコシの色素(コーン色素)はアントシアニン系のシアニジン3グルコシドが主成分で、酸性で赤色、中性で赤~暗赤色、アルカリ性で赤紫~暗藍(あんらん)色を示し、清涼飲料、シロップ、冷菓、漬物などの色づけに使用されるが、酸化すると退色しやすいのが欠点。黄色い色素はカロチノイド系の色素でカロチン類とルチンなどを含む。

[湯浅浩史]

料理

未熟果のトウモロコシは生鮮品、冷凍品(全形、カットコーン、粒状など)、缶詰(水煮缶、クリームスタイル)が利用される。生鮮品はおもにそのままゆでたり焼いて食用にする。ゆでて実をこそげたものは、かき揚げにしたり、バターで炒(いた)めて肉料理の付け合せや、サラダ、煮込み物などに加える。また、牛乳を加えてコーンスープにしたり、ベーコン、タマネギなどと炒めて牛乳やスープで煮込んだコーンチャウダーに用いる。粉末にしたものは日本でも古くからまんじゅう、すいとん、お焼きなどにして食べられてきたが、メキシコやペルーでも主要な食料として古くから用いられている。また、北イタリアの伝統的な料理のポレンタpolentaはトウモロコシ粉をマッシュポテトのように練ったものである。粉を用いた加工食品にはコーンブレッド、コーンケーキなどがある。

[河野友美・山口米子]

人間との関係

主作物としての地位を長く保った新大陸においては、トウモロコシの増殖は人々にとって最大の関心事であった。マヤ文明では、トウモロコシの神は青年の姿で表現され、また作物の豊穣(ほうじょう)には雨が不可欠なことから、雨の神が農耕儀礼の対象となった。アステカ人は、ケツァルコアトル神がトウモロコシその他の作物、およびその栽培法を人間に教えたと信じた。ペルーでは、インカの初代の王が文化英雄として農耕を教えたという話があるが、古くはトウモロコシの穂に包まれた神や、トウモロコシとマニオク(キャッサバ)を両手に持つ神が土器などに表現されており、それらは文化英雄あるいは豊穣の神を表すものと考えられている。今日、アンデス高地のケチュア人には次のような民話が伝えられている。昔、コンドルに案内されて天に昇ったキツネが、まだ地上にないトウモロコシなどの食物を食べて満腹になり、綱を伝って地上へ降りる途中、インコの群れをののしったために綱を切られて地上に墜落した。そのとき破裂したキツネの体から作物が飛び散り、以後それらが地上で生えるようになったという。アマゾン流域の森林地帯にも、栽培植物の起源を語る神話が多いが、アピナエ人には、1人の男が星の女を妻にしたが、女が川のそばにトウモロコシの大木があることを教えたので、男とその仲間はこれを切り倒そうと2人の子供に斧(おの)をとってくるよう命じる。ところが子供たちは途中で禁を犯し、オポッサムを殺してその肉を食べたので、たちまち老人になった。しかし人間はトウモロコシを手に入れ、畑をつくることを知ったという。これらの話は、人間は作物と交換に死や老衰を運命づけられたというテーマを基本にしており、ペルーで木を切り倒す祭りが豊穣儀礼となることとも関連しているようである。

 メキシコやペルーでは、トウモロコシはポソル(粥(かゆ))、タマル(蒸しパン)、トルティーヤ(薄焼きパン)、モテ(ゆでたもの)、カンチャ(炒(い)ったもの)などに調理されるが、ペルーはじめアンデス地域では、トウモロコシはチチャという一種のビールをつくるのに欠かせない。チチャは、発芽した実をすりつぶしてその煮汁を発酵させたもので、祭りや儀礼の際に不可欠の飲料である。海抜3500メートル以上の高地ではトウモロコシは育たないが、そこに住む人々は、このチチャのために険しい山を下りて畑をつくったり、物々交換や労働交換の形で谷間の住民から手に入れる。

[大貫良夫]

『菊池一徳著『トウモロコシの生産と利用』(1987・光琳)』『菊池一徳著『コーン製品の知識』(1993・幸書房)』『ゼネックス編著、茅野信行監修『コーンブック――トウモロコシ相場の分析方法』(1998・ゼネックス、星雲社発売)』『戸沢英男著『トウモロコシ――歴史・文化、特性・栽培、加工・利用』(2005・農山漁村文化協会)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トウモロコシ」の意味・わかりやすい解説

トウモロコシ(玉蜀黍)
トウモロコシ
Zea mays; corn; Indian corn; maize

イネ科の大型の一年草。アメリカ大陸の熱帯の原産といわれるが,正確にはわかっていない。現在では全世界の熱帯から温帯にかけて広く栽培されている重要な穀物および飼料の一つである。茎は単一で直立し,中実,円柱形で節があり,高さ2~3mに達する。多数の太いひげ根を生じ,大型の披針形の葉が互生する。葉の表面に毛があり,葉身下部は鞘となり茎を包む。夏に大型の円錐花序をなして多数の花をつける。雌雄異花でいずれも無花被。雌花穂は茎の上部の葉腋に生じ,花柱はひげ状で長く花穂の先から垂れ下がる。雄花穂は茎の頂部に生じる。果実は穎果で大きさ,形,色など変化が多く,多数の優良品種がつくられている。デント,フリント,フローア,スウィート,ポップの5種が北半球での代表的な品種である。日本には明治の中期以後アメリカから輸入された品種が多く,北海道や長野県などの高冷地と阿蘇山周辺などで盛んに栽培されている。地方によりトウキビ,ナンバン,コウライキビなどの呼び名がある。

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